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逆転のカギはそこにある――阿部和重・伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』感想

キャプテンサンダーボルト

  阿部和重伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』を読んだので感想。

  借金にあえぐ男が二人。かつては少年野球チームでともに戦っていたその二人は、ある日を境に決定的に決裂してしまったのだが、奇しくも現在は似たような境遇にあった。一人は息子の病気の治療のために、一人は後輩を助けるために、巨額の負債を背負い込み、ままならぬ人生のなかでもがいていた。彼らがもう若くはない年齢に差し掛かろうとする2013年、かつて蔵王・御釜で発生した死病をめぐる陰謀によって、二人は奇妙なめぐりあわせで再会し、そして世界を救う冒険が、あるいは人生の逆転劇が始まる。

 阿部和重の作品を最近読んでいてその流れで読みました。伊坂幸太郎の作品に触れるのは高校生のとき以来だろうか。読み始めて、ああ、伊坂幸太郎の文体とか雰囲気とかってこんな感じだったよな、みたいな、そういう感触があった。もう伊坂の文体とかおぼろげにしか記憶にないのだけど、なんとなく、伊坂の小説ってこんな感じだったよな、という感覚を得たというか。直前に『シンセミア』・『インディヴィジュアルプロジェクション』を読んで、なんとなく阿部和重的な文体の感触に触れてはいたんですが、そういう乾いた雰囲気は希薄な感じがしました。

 気になってググってみたら発売当時のインタビューがでてきたんですが、章ごとに担当を割り振りつつ、最終的に互いが互いの担当個所をチェックして手を入れて、というような形での合作だったという。

史上最強の完全合作! 阿部和重、伊坂幸太郎がそのすべてを語る 第3回 全体の文体は? 「合作」を突き詰める 『キャプテンサンダーボルト』 (阿部和重 伊坂幸太郎 著)|インタビュー・対談|杉江 松恋|本の話WEB

 その意味で、阿部的でも伊坂的でもある文体を創造することによって、この『キャプテンサンダーボルト』は書き上げられたのだなあと。でもその印象ってどちらかといえば伊坂的なほうに寄せているのではって気が個人的にはしたのだけれど。

 

 久しく触れていなかったのだけれどもやはり伊坂幸太郎という作家は全体の構成が非常に緻密だなあと感じて、なんてことないディティールが後半になって伏線として機能しはじめ、クライマックスはもうその怒涛の伏線回収が続くわけで、そのテクストのいい意味での余白の無さというか、無駄のなさは秩序だって調和し完結した構造物としての作品、という印象を強く残す。どんなに窮地に陥っても、そこを抜け出す手立てはいままでに必ず準備されている。

 そうした作品の構造は、「子供時代の思い出」という過去の力で自身を駆動させていく主人公二人のアクションと響きあっている。伏線がかつてそう意識されなかったそれ以前のテクストのなかに埋もれているのだとしたら、私たちの人生の逆転の鍵も、私たちが歩んできた道にそれとわからないまま転がっているのかもしれない。執拗な伏線回収は、物語上のテーマと密接に連関し、それ自体が一つの強烈な意味をもっているという気もする。

 

 2013年という作品の舞台として設定された時機は、東日本大震災後という状況を否応なしに意識させる。東北地方を舞台に書かれたこの小説には、不思議と震災後という気配は希薄で東北地方の地域性を強く喚起するのはときたま触れられる東北楽天ゴールデンイーグルスマー君こと田中将大の活躍が随所で言及されるあたりだったりする。これはぼくの見落としかもしれないが、どこにも「東日本大震災がこの『キャプテンサンダーボルト』の作品世界でも発生した」と明示されている箇所はなかったのでは、という気がする。少なくとも、主役二人はかつて被災して云々、という描写はなかったと思う。その意味で、東京大空襲と同日に蔵王に墜落したB-29の謎と陰謀をめぐる事件に規定されるこの物語が前提としているのは、陰謀論的な偽史と同時にもしかしたら「東日本大震災がおきなかった」というifの歴史かもしれない。

 いやもしかしたらそんなことはまったくなくて、震災があろうがなんだろうが、そこに生きる人間にとってはそんなに関係ないんだよ、ということを東北にルーツをもつ二人の作家のスタンスゆえに、震災後という雰囲気をことさらに強調しなかったのかもしれず、そうなると、東北にどうしても「震災後」という目線を投げてしまうような目線が僕のなかに内面化されていることが浮き彫りになっただけなのかもしれない。ある意味ではそういう目線を暴くような物語であるかもしれない。というわけで、封鎖された作中の場所のイメージを東北地方の特定の場所と結びつけることは容易ではあるのだけれど、そうしたメタファーを読み込んで語る愚をここではおかさないようにしたいと思います。はい、とにかくおもしろかった。

 

 

キャプテンサンダーボルト

キャプテンサンダーボルト

 

 

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