宇宙、日本、練馬

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『茄子 アンダルシアの夏』が傑作なワケ

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 久しぶりに『茄子 アンダルシアの夏』を観た。この映画、今までみた映画の中で最も主人公に感情移入した映画かもしれない。今回見直して、やっぱりこの映画は傑作であるとの思いを強くした。

 本作の監督、高坂希太郎氏は、『風立ちぬ』で作画監督をなさっていて、ジブリの作品では、『耳をすませば』あたりから中核スタッフとして関わっている。にも関わらず、『茄子 アンダルシアの夏』はあまりにも正当に評価されていないのではないかと感じる。なので、その魅力の一端を以下に書き記したい。

 超絶リアルな自転車作画!

 まずなんといっても、超リアルな自転車の作画が本作の魅力。動いているところがないとすごさが伝わりにくいんだけど、ギアチェンジをする、それだけのシーンが詳細に描かれている、と書けば伝わるだろうか。高坂氏は自転車乗りが趣味だそうで、それを活かした、偏執的なディティールの描写がまず魅力。

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ストーリーの魅力―「故郷」をでる、ということ

 そんな高レベルの作画で、ある1レースの間の出来事を描く本作だが、そのストーリーの核心は、「故郷」を捨てた男が、どう生きるのか、という点にあると思う。その葛藤の中で揺れ動く主人公ペペ・ベネンヘリが、1レースの中でその問題に自分なりの答えを見つける。このテーマが、自分の心を猛烈に動かした。

 主人公ペぺは、スポンサーから首切りをレース中に宣告される憂き目にあう。そこで「遠くに行きたい」、つまり故郷を捨てて生きていきたいと心情を吐露する。つまり、まだ「故郷」から離れられていない、身を立てられていないという実感が、彼にはある。孤独な逃げの中で、彼は過去の思い出を回想せずにいられない。その思い出を喚起したのが、黒い牛の看板というわけだ。

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 この、スペインに実在する牛の看板にまつわる挿話は、原作にはない、映画オリジナルのものである。離れたくて仕方なかった「故郷」の思いでが、己を駆動させる原動力となったのである。

 この挿話によって、より「故郷」というテーマが先鋭化されているのではないか。この「故郷」に対する意味付けは、悪態をつきつつも、最後は地元の名物茄子のアサディジョ漬けを飲み込む様子(これは原作にもある)と重なる。つまり、ペぺは過去に確かに「故郷」にいた自分を認め、好き嫌いは別にして飲み込んだのである。かくして、ペぺは真に「遠くに行く」ことが可能になったのだ。

 

 この故郷に対するアンビバレントな態度というか、好きも嫌いもないまぜになった複雑な心情は、故郷をでて生きる人間にとって、だれしも共感できるのではないかなと思う。「故郷」との折り合いのつけかたを、ひとつ提示しているという点で、上京した人間には訴えかけるものがある映画だと思う。地元が嫌いで嫌いで仕方ない、というひとにこそ見てほしい。あと続編『茄子 スーツケースの渡り鳥』も原作を見事に昇華した名作。こっちの感想も今度書こう。

 

関連(2018/10/08追記)

  『若おかみは小学生!』効果で多少この記事に流入があるようで、恐縮です。5年も前に書いたやつなのでへぼくそすぎて冷や汗ものです。以下、高坂監督関連の記事を貼っておきます。

amberfeb.hatenablog.com

 

 

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『茄子 スーツケースの渡り鳥』はもっともっと評価されるべき! - 宇宙、日本、練馬

 

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