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思いに足を引っ張られ、思いに救われる―『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』感想

デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!/デジモンアドベンチャー【劇場版】 [DVD]

 

 『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』をみました。細田守監督作品ってことは知ってはいたんですが、今までみたことなかったんですよね。『サマーウォーズ』がセルフリメイクみたいなもんだってのは聞いていたので、『デジモン』全然みたことないのもあってこちらは観てなかったんですが、いやなんてもったいないことをしていたんだと。大変面白かったです。以下で簡単に感想を。

面白さ超濃縮

  インターネット上で暴走し、世界を混乱させるデジモンに、少年たちが立ち向かう。物語の筋は極めてシンプルで、突如生じた危機を収拾する、ただそれだけ。主人公の八神太一が武之内空と関係を修復するお話も脇で展開されるけど、あくまでサシミのツマ程度の扱いで、40分間徹頭徹尾危機への対応が描かれるといっても過言ではない。

 尺が短いゆえのドラマ作りなんだとは思いますが、これははっきりプラスに作用している。全体を通して細田守監督作品でも屈指のスピード感。1秒たりとも息つく暇なしといっても過言じゃないジェットコースター的なノリがただただ楽しい。

 プロット自体は『サマーウォーズ』において大きく肉付けされて再演されているわけですが、肉付けされたからといってそれが「面白さ」と正比例的に直結するわけではない、という当たり前の事実を身をもって感じました。

 『サマーウォーズ』だと、ネットの混乱がそのまま社会の混乱につながることに説得性を与え、そしてアバターで爽快なアクションを描くための舞台として、仮想電脳世界OZの説明があったり、「田舎」や「家族」、「恋愛」なんて要素が散りばめられていて、それはそれで魅力があるし楽しくはあるんですが、それでクライマックスがさらに血沸き肉躍るものになってるかってーとそうじゃない。クライマックスの圧倒的な熱量はむしろ『ぼくらのウォーゲーム!』のほうが上だとすら感じる。それは無駄がそぎ落とされスマート極まりない作劇がなされているからだと思うわけです。

 

「思い」の両義性

 そのクライマックスの展開で面白いなと思ったのは、直接は関係ない人々の「思い」の機能の仕方。太一たちを中傷したり応援したりするメールは、その内容によって太一たちに多かれ少なかれ影響を与えるけれども、同時に、その含む内容にかかわらずメールという行為自体が影響を与える。

 それは回線の負荷という形であらわれ、意味内容以上に太一たちとデジモンの足を引っ張ることになる。しかしそれをうまく利用したとき、太一たちは勝機を掴みもする。含むところにかかわりなくメール=「思い」が影響力を行使し、それによってある時は足を引っ張られ、ある時は救われもする。

 「思い」自体はどうしようもないもので、それを敵に押し付けたから太一たちは勝利したんだ、みたいな見立ても可能かとは思うけど、それはちょっとペシミスティックにすぎるのでは、と思うわけです。あくまで「思い」は太一たちにのみ向けられたものだったからこそ、それをうまく使うこともできたわけで。

 「思い」が足を引っ張り、しかし彼らを助けもするみたいな両義的な側面をこそ描いているみたいな印象を僕はもちました。

 

 おなじディスクに収録されてた劇場版『デジモンアドベンチャー』は、『ぼくらのウォーゲーム!』とはまったく違う画作りがされていてびっくりしました。『ぼくらのウォーゲーム!』はのちの『時をかける少女』や『サマーウォーズ』を連想させるような、さわやかなキャラクターや背景美術という印象なんですが、無印『デジモンアドベンチャー』は怪獣映画のよう、もっというと『新世紀エヴァンゲリオン』っぽい印象というか。こっちも面白くて思わぬ収穫といった感じです。

 

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【作品情報】

‣2000年/日本

‣監督:細田守

‣脚本:吉田玲子

‣キャラクターデザイン:中鶴勝祥

作画監督山下高明、中山久司