ここ一週間くらい『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』をみてたんですが、流石多くの人に愛され続けている作品だけあってめちゃくちゃおもしろくてあっという間に2クール見てしまいました。いままでアニメ版『Fate/Zero』はみたんだけど本編には手を付けずというなんとも本末転倒というか半端な状態だったわけですが、いや本編もよかった。以下感想。
「僕は、正義の味方になりたかったんだ」。命の恩人にして育ての親のその言葉によって、衛宮士郎の生は規定されることになる。それまで、彼が「正義の味方」になるためにやってきたことはささやかな善行の積み重ねにすぎなかったが、高校2年の冬の日、異能のものたちの戦いを偶然目にしてしまったことによって、彼の運命は一変する。魔術師たちと彼らが従える英雄が全能の願望器たる聖杯をめぐって争う聖杯戦争に否応なく巻き込まれた彼は、そのなかで、己の理想と、その末路と対決を余儀なくされる。そうした戦いの果てに、彼がたどり着く場所には、いかなる景色が広がっているのだろうか。
原作中の1ルートを映像化したこの『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』は、同じくufotableによって映像化された『Fate/Zero』と極めて強い連続性を読み取ることができる、と思う。凄惨な殺し合いの末、衛宮切嗣がたどり着いた場所、救い出したもの、そして彼が託したものが、いかなる帰結をもたらしたのか。それが衛宮士郎の物語を通して語られるのがこのUBW編であると。
切嗣の理想を託された士郎が背負わされるのは、徹底的な「偽物」性であるといっていい。彼の理想や目標は、彼自身の内側から沸き上がったものなどではなく、あくまで衛宮切嗣から託された「借りもの」でしかないことが殊更に強調されるし、また彼の魔術である投射は「本物」を真似て「偽物」を作り出す能力である。
この点は、最後に敵として立ちはだかるギルガメッシュの属性とはっきり対象を成す。英雄のなかの英雄、英雄王であるギルガメッシュの武器は、あらゆる神話の英雄の武器の原型となったオリジナル。彼の伝説があらゆる伝説の祖型となった、英雄そのものの起源。彼の目的は聖杯を用いて世に満ち満ちる無為の輩を一掃すること。そして彼は衛宮士郎=エミヤを殊更に侮蔑する。彼が本物を決して作りえない贋作者であるがゆえに。
だからUBWは、偽物が本物と対峙する物語であり、そのなかで偽物性を徹底的に背負わされるのが現代を生きる衛宮士郎であるわけだが、その立場のなかに、現代に生きる我々のメタファーを読み取ってもいいだろう。最早だんだんと進歩していくような歴史の歩みを信じることなど毛頭できず、「歴史の終わり」が言い立てられもする、この我々の生きる歴史的な布置。もはやかつてのように英雄の時代は終わり、私たちの語る物語すらあらゆる神話のフェイクでしかありえないのかもしれない。最早無限ともいえるほど堆積した過去の歴史のなかで、すでに我々の生の祖型は顕れているのかもしれず、もはや我々のあらゆる試みはそれを反復する徒労に過ぎないのかもしれない。
そのような絶望は、衛宮士郎の未来の姿であるアーチャー=エミヤが背負う、人を救おうという意思が無限に空転し続ける運命ともしかしたら重なるかもしれず、だから彼自身がかつての自身の偽物性を完全に暴き立て、その理想をくじくことによって、その無限の絶望の運命から抜け出す途を選ぼうとしたのだろう。衛宮士郎とアーチャーとの対決は、そのような偽物性を全否定することによって、無限の絶望に至る前に意志をくじくことによって、真の絶望をみないで済ませようとする、そのような自意識の葛藤の表出なのではないか。
しかし、未来の自分がたどり着くかもしれない絶望の風景を目撃してなお、衛宮士郎は自身の理想を、それが偽物であることを自覚したうえで「美しい」といってみせる。そしてその「偽物」性を突き詰めることで、英雄の起源を超克し、無為の輩に溢れているのかもしれない、われわれの生きる場所を守り抜く。偽物に過ぎない無限の剣製は、その偽物に満ち満ちた荒野の風景をこそ力と成して、本物を打ち破る。
あらゆる物事が過去の反復、まねごとにすぎないかもしれないいま・ここの風景は、無限の剣製の風景とつながっているのかもしれず、その風景によって未来を切り開くことで、『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』はそれでもなお我々が何事かを物語る意味はあるのだ、ということを語ってみせた。それはわれわれの生きる場所を擁護し、同時にあらゆるフィクションを肯定する、そのような試みでもある。「体は剣でできている――」。その剣とはすなわち、私たちが日々接するフィクションの別の名前なのだ。
だからこそ、原作から10年以上の時を経てもはや語りつくされた感もあるこの作品について、僕がここで何かを書きつけることにほんのわずかながらの意味もあるのかもしれないと思って、こうして文章を書きつけたのです。というとなんというか我田引水の感があるけれど。
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【作品情報】
‣2014-5年
‣監督:三浦貴博
‣シリーズ構成・脚本:ufotable
‣キャラクター原案:武内崇
‣キャラクターデザイン・総作画監督:須藤友徳、田畑壽之、碇谷敦
‣音楽:深澤秀行
‣アニメーション制作:ufotable