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阿部和重『オーガ(ニ)ズム』感想

 オーガ(ニ)ズム

 阿部和重『オーガ(ニ)ズム』を読みました。以下感想。

  2014年3月3日。東京都に住む作家・阿部和重の家の玄関先に、血まみれの男が転がり込む。男の名はラリー・タイテルバウム。ニューズウィークの記者を名乗って阿部に接触をとったが、実はCIAのケースオフィサーだという。男は告げる。阿部の故郷、山形県東根市神町で陰謀が進行中であると。山形県東根市神町。そこは国会議事堂直下での事故をきっかけに、第二の首都として何故か選ばれ、そしてアメリカ合衆国大統領バラク・オバマの来訪を控えた場所でもあった。

 「テロリズム、インターネット、ロリコンといった現代的なトピックを散りばめつつ、物語の形式性をつよく意識した作品を多数発表している」作家・阿部和重の最新作にして、山形県東根市神町を舞台にした〈神町トリロジー〉の掉尾を飾る作品。『シンセミア』・『ピストルズ』がそれぞれ全く別の雰囲気をまとっていたのと同じく、この『オーガ(ニ)ズム』もまた先行するに作品とは大きく異なる趣向の作品になっている。阿部にかかわる作品では『キャプテンサンダーボルト』の感触が近いかもしれない。ある種の陰謀論を題材にしたポリティカル・フィクションをエドガー・ライト風味に味付けしたような趣がある。

 構想された段階では(少なくとも『ピストルズ』刊行時点においては)、そのような意図はあろうはずもないが、東日本大震災が起きていない本作において国会議事堂直下の爆発事故が、東日本大震災の代補のように重力を働かせるこの世界では、山形県東根市神町への首都移転の事業がいままさに進行しており、我々が経験していなかった歴史をめぐる偽りの未来が我々の前に姿を現す。

 この長大な小説の多くをしめるのが、作家・阿部和重――『ニッポニアニッポン』や『インディヴィジュアル・プロジェクション』、『ミステリアス・セッティング』の著者ではあるが、『シンセミア』・『ピストルズ』の著者ではない、作中人物としての――と、CIA工作員ラリー・タイテルバウムの奇妙なコンビのかけあいであり、「ほんとかなあ」とか「ほんと次は頼みますよ」とかぼやきながら、工作員の命令を断れずにいやいや引き受けざるを得ない阿部の様子は、作中で形容されるように属国人的としかいいようがなく、『シンセミア』の物語の端緒となり、あるいは阿部和重にこのトリロジーを書かせる駆動因にもなったアメリカという国は、ここに至って強烈に前景化してもいる。

 それがあからさまな批評的なとっかかりではあるのかなあとは思うものの、本書の魅力はむしろその帝国主義工作員と属国人的阿部和重のやりとりのもつ楽しさであって、そこには別に日米関係の呪いとかを脱構築する契機が込められているとかではないのだが、ともかく、そういうことです。

 

オーガ(ニ)ズム

オーガ(ニ)ズム

 
グランド・フィナーレ (講談社文庫)

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