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裂けた自意識——アニメ『モブサイコ100』感想

モブサイコ100(1) (裏少年サンデーコミックス)

 Netflixでアニメ『モブサイコ100』1期をみていました。2010年代の落穂拾いですね。以下感想。

  生まれながらに異能の力をもつ少年、影山茂夫、通称モブ。彼が師と慕う自称霊能力者、霊幻新隆。ほとんど詐欺まがいの行為で人々を救済し続けている様子の霊幻のアルバイトとして時たま超能力を発揮していたモブだが、その驚異的な力は奇妙なものどもを引き付けてゆく。

 『ワンパンマン』で知られるONEによる同名漫画を、ボンズがアニメ化。監督はアニメミライの『デスビリヤード』などの立川譲。『鋼の錬金術師』で一躍名をとどろかせた亀田祥倫をキャラクターデザインに迎えているあたりに、本作の演出の方向性が宣言されているとも感じる。

 石岡良治は原作について「ネームが上手い」と評していたように記憶しているが、記号的というよりほとんど記号そのものといったキャラクターに象徴されるルックの素朴な味わいは、原作の特徴の一つだろう。ウェルメイドな少年漫画的な筋立てが、そうした素朴な記号によって演じられることによって、なんとも奇妙な味わいをかもしている。単発ギャグマンガ的ないきあたりばったり感のある『ワンパンマン』と比して、明確にタイトな筋立てをもつこの『モブサイコ100』は、その味が一層際立っている。

 そうした素朴なキャラクターデザインと、ほとんど書き割り的でリアリティの希薄な世界設定・背景美術が、アニメ的な大胆な動きのエスカレーションを可能にしていて、それこそがこのアニメの強烈な魅力になっている。ほとんどアニメーターがその個性を発揮するためのメディウムというか、純粋培養の作画アニメという趣であり、おおよそドラマですらそうした作画アクションのひとつの背景に過ぎないともいえる。作画的な見せ場のためなら、日常が破綻をきたすほどのカタストロフすら起こして平然とする、そのような自在感。

 とはいえ、素朴な絵柄と裏腹の、能力バトル漫画であることへの批評的な自意識によって支えられたドラマのニヒリズムが魅力を放っていることも確かで、この1期のラストの、ほとんどちゃぶ台返し的展開など、冨樫義博という天才の無数のフォロワーたち(このマンガもまたその系譜から自由ではありえないわけです)に冷や水を浴びせるような調子が感じられる。このニヒルな自意識と、先に述べた作画の魅力とは、水と油というか、ある種の分裂を内在させているような気もする。しかし、そうした分裂を抱え込んでなお悠然と構えるこのアニメの堂々たる佇まいは、いかにも影山茂夫的でもあり、その意味ではこのアニメは圧倒的に成功を収めていると思う。

 

 

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