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老いたコメディアン──『首』感想

首 (角川文庫)

 『首』をみたので感想。

 北野武の最新作は、戦国時代を舞台に、裏切り者、荒木村重の首をあげることを主君、織田信長に命じられた明智光秀羽柴秀吉たちが、それぞれの思惑で暗闘を繰り広げるさまを描く。北野武は主演として秀吉も演じ、明智光秀西島秀俊荒木村重遠藤憲一織田信長加瀬亮などなど、実力派の男性俳優がでてくるでてくる。

 予告で気になった、(たけしが演じることで)どう考えても最年長者にみえる秀吉も、本編では気にならないのが不思議。それはなにより、全編にただようポジティブな意味でゆるんだ空気のなせる業か。これが現代を舞台にしたやくざものであれば、『アウトレイジ』がそうであったようにもっと殺伐とした緊張感がみなぎっていたのではないかと思うが、この『首』はそれほどきつい緊張を強いるような映画ではなくて、しかし命の軽さは尋常ではないというバランス感覚がまずおもしろい。

 しばしば指摘されるようにコント的なシチュエーションを数珠つなぎにして映画が成り立っているような調子があり、ビートたけし大森南朋浅野忠信の三人組のやりとりはとりわけ笑いを誘う。『アウトレイジ最終章』でもたけしをサポートする弟分を演じた大森が、ここでは実の弟(さすがに無理あるだろ!)を演じていて、そうそう『最終章』の映画としての美点はこのたけしと大森の関係だったよなあと改めて思い返したりもした。

 今年76歳を迎えたたけしも、イーストウッドと比べればまだまだ若いとはいえ(イーストウッドがあまりに異常ではある)さすがに老いを感じさせるが、しかしその老いた自分自身が被写体となったときのおかしみみたいなものが監督としての北野武によって発見されたような感もあり、人足に担がれながら渡河して「バカヤロー…」と力なくつぶやき嘔吐する秀吉なんかはかなりおもしろい。ビートたけしとしての地が、歴史上の人物というガワを凌駕して、しかもそのことで陳腐にはなっていないというのがとにかくおかしい。

 そういうわけで、かなり楽しい時間でした。