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歴史と家族、その奥行き────『ナポレオン』感想

【映画パンフレット】ナポレオン 監督 リドリー・スコット 出演 ホアキン・フェニックス

 リドリー・スコット監督『ナポレオン』をみました。映画館行くの、これが年内最後かもわからんわね。以下、感想。

 1793年、フランス。マリー・アントワネットが断頭台で裁かれようとするそのとき、シチリア生まれの軍人、ナポレオン・ボナパルトは、自身の権力を高める機会を、虎視眈々と狙っていた…。

 リドリー・スコット監督の最新作は、『ジョーカー』のホアキン・フェニックスを主演に据え、ナポレオン・ボナパルトの栄光と没落、そして死を描く。3時間近くの長尺も、その波乱の人生を描くにはまったく十分とは言えず、ナポレオンとその最初の妻、ジョセフィーヌとの関係性にフォーカスすることでドラマをコントロールしようと試みているが、あまりうまくいっているようには思えなかった。端的に言えばダイジェスト版をみているような感触があったのだ。

 たとえばダニー・ボイル監督、アーロン・ソーキン脚本の『スティーブ・ジョブズ』は、3回のプレゼンテーションに焦点をあてて一人の人間をとりまくドラマを語り切ったが、その水準の脚色というか、構成の大胆さが要請されていたと思うんだが…。

 しかし画面はリッチで、おそらく多くのエキストラを動員したうえでCG技術の粋をあつめたであろう、戦闘シーンは流石の迫力。とりわけアウステルリッツの会戦では氷が砕け水中に落下していく兵士たちを映すカットであったり、ワーテルローの戦い方陣になすすべなく撃退される騎兵だったり、鮮烈な印象を残す。大砲の音も騎兵の轟きも、やはり劇場だと十二分にはったりが利いている。

 でも、それ以上のものはないというか、男と女と家とをめぐるドラマは、『最後の決闘裁判』や『ハウス・オブ・グッチ』から連続する主題だけれども、あまりに歴史上に大きな足跡を残した人物にフォーカスしたゆえか、そのあたりの機微はそれほど深まりをもたなかったと感じる。巨大な歴史劇たろうとする意気込みと、夫婦二人の関係性へのフォーカスが不調和をきたしていて、歴史劇としては奥行きに欠け、夫婦のドラマはあっさりとしていて…というふうに感じてしまった。

 巨匠、リドリー・スコットの新作がいつまでもみられるわけじゃないと思うので、新作がかかってくれるだけでうれしいんだが、もうひとサービス、あったらよかったね。

 

 

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