宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2023年12月に読んだ本と近況

いや、まじできつかったよ、12月。

先月の。

2023年11月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

印象に残った本

 一冊選ぶなら佐藤究『テスカトリポカ』。コーマック・マッカーシーや、ヴィルヌーヴ監督『ボーダーライン』などなどを想起させる道具立てを、アステカ神話とグローバリゼーションとで味付けした、極めていま・ここの空気を濃厚に感じさせる残虐な犯罪サスペンス。ほんとうに素晴らしかった!

読んだ本のまとめ

2023年12月の読書メーター
読んだ本の数:10冊
読んだページ数:3394ページ
ナイス数:188ナイス

https://bookmeter.com/users/418251/summary/monthly/2023/12

 

自民党統一教会汚染 追跡3000日
 ここまで政権の集票マシーン、あるいは世論誘導の道具として機能してきたカルト団体のことが、銃撃事件がなければこれほどクローズアップされることはなかっただろうということ。名称変更の認可など明らかにおかしいことが自民党政権下で起こっていたのに、それがさほど知られることなく、当たり前のこととしてカルトが政治に根をはるようになっていたとは…。とにかく継続的に現場に足を運んで政治家に取材し続けた著者の粘り腰に感服しました。
読了日:12月01日 著者:鈴木 エイト
https://bookmeter.com/books/20179062

 

火車

火車 (新潮文庫)
 親族の若い男が婚約者に逃げられた。どうやら自己破産の経歴を隠していたらしいのだが、その女の消息を追ううち、恐るべき事実が明らかになる。桐野夏生『OUT』に匹敵する、平成の空気を吸ったミステリの金字塔といってよいのではないかしら。『OUT』の女たちの命懸けの闘争と比べて、『火車』では犯罪を犯す女はあくまで他者、客体なのだけど、そこにむしろある種の誠実さがあるような気もした。「火車」の連想は途中でも出てくるけど、最後の最後に火のモチーフが出てくるのはうまいわね。
読了日:12月04日 著者:宮部 みゆき
https://bookmeter.com/books/580690

 

新宗教と巨大建築 (講談社現代新書)
 天理教金光教大本教など近代に簇生した新宗教が、どのように宗教の空間を編成しようとしてきたか。その中心にしばしば存在する巨大建築物に着目して論じる。原武史『地形の思想史』のある部分は本書の問題意識を継承して描かれたのだなと感じた。しかし、身近にないだけに、これほどまでに広大な空間を宗教のために編成してるというのは素朴にびっくりするわね。
読了日:12月07日 著者:五十嵐 太郎
https://bookmeter.com/books/374070

 

■評伝 田畑政治: オリンピックに生涯をささげた男
 1964年の東京オリンピック招致に尽力した男、田畑政治の評伝。著者はその傍らで仕事をしてきた人なので、当然のことながら筆致は翼賛的で、また構成も十分に練られているとはいえず、散漫である。『いだてん』放映にあわせて再刊され、同作の挿話のいくつかは本書に取材していることはわかるが、しかし語り口でいえば宮藤官九郎の創意が大いに働いていたのだなと思い知らされます。

読了日:12月09日 著者:杢代哲雄
https://bookmeter.com/books/12930907

 

花神(上) (新潮文庫)
 戊辰戦争において官軍を率いた男、大村益次郎を主役にすえ、日本列島近代化の黎明を描く。上巻では長州の村医者の息子として生まれた男が蘭学の引力に引き寄せられ、緒方洪庵の薫陶を受け、宇和島藩に取り立てられて江戸でも名をあげ、やがて故郷の長州藩に見出されるあたりまでが描かれる。司馬の技術屋への信頼がおそらくバックボーンにあり、それが1970年前後の日本列島の気分ともマッチしていたんだろうなと感じる。シーボルトの娘とのくだりのラノベ感!
読了日:12月09日 著者:司馬 遼太郎
https://bookmeter.com/books/566916

 

■旅する黒澤明:槙田寿文ポスター・コレクションより
 国立映画アーカイブでの企画展の図録(といっていいんだろうか)。アヴァンギャルドというか、ポップなポスターが目についておもしろく眺めました。
読了日:12月14日 著者:
https://bookmeter.com/books/15110847

 

■テスカトリポカ
 メキシコで麻薬カルテルの幹部だった男が、家族を皆殺しにされ、奇妙な縁の繋がりで日本列島、川崎界隈へと流れつき、恐るべきビジネスを開始する。乾いた筆致で描かれる残虐極まる暴力と、現実を異化するアステカの神々と儀式とが混然と混ざりあい、グローバル資本主義を背景とした、しかし土着のノワール小説が生成された、見事な仕事でしょう。夢中になってページをめくり、夢の中にまで殺し屋たちが現れるほどのめり込みました。
読了日:12月16日 著者:佐藤 究
https://bookmeter.com/books/17327850

 

現代社会はどこに向かうか――高原の見晴らしを切り開くこと (岩波新書)
 見田宗介の最晩年の仕事は、経済成長が鈍化した日本をはじめとする先進国で、しかし人々の幸福感は高まっているとし、そこに近代社会の終わりと新たな社会の黎明をみる。見田はこれを自身の代表作とみなしていたようだが、構成はエッセイの寄せ集めで、流石に老齢からくる衰えは滲んでいるし、ある意味古市『絶望の国の幸福な若者たち』の変奏のようにも読めてしまう感じを受けて、はっきりいってよい本じゃないと思う。
読了日:12月16日 著者:見田 宗介
https://bookmeter.com/books/12915002

 

■文化史のなかのマーラー (ちくまライブラリー)
 NHK交響楽団の機関誌に連載されていたエッセイを所収。のち『マーラーと世紀末ウィーン』に改題して文庫化。ショースキーの名著『世紀末ウィーン』とか、各セクションに種本があってそれを手際よく紹介しているような感じを受けた。マン『ヴェニスに死す』はマーラーへの目配せがあるんだよとか、いろいろ教えてもらいました。
読了日:12月18日 著者:渡辺 裕
https://bookmeter.com/books/1418338

 

■花殺し月の殺人――インディアン連続怪死事件とFBIの誕生
 マーティン・スコセッシ監督『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の原作。映画をみてから読みましたが、映画がかなり律儀にエピソードを拾いつつ、キャラクターの水準では見事に脚色しているのがよくわかります。しかし悪の親玉のような人物の罪が明らかにされても、その裏に無数の未解決事件が浮かび上がる結部の不気味さ、やるせなさはすごい。映画はそれを別の種類のものに置き換えている気もして、それはそれで成功しているとも思うのだけれど。

 読了日:12月25日 著者:デイヴィッド グラン
https://bookmeter.com/books/12787041


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近況

歴史と家族、その奥行き────『ナポレオン』感想 - 宇宙、日本、練馬

 

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