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赤い彗星はいかにして鍛えられたか────アニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』感想

機動戦士ガンダム THE ORIGIN VI 誕生 赤い彗星

 『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』で高まったガンダム熱により未見だったアニメ版『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』をみました。以下、感想。

 人々が宇宙に建設されたスペースコロニーに住むようになって数十年。地球から遠く離れたサイド3、ムンゾ共和国の指導者、ジオン・ズム・ダイクンは、宇宙に居住するスペースノイドの、地球連邦からの独立を訴えようとした矢先、劇的なかたちで病死する。ジオンの死を暗殺だと言い立てて地球連邦への憎悪を煽る名門、ザビ家を筆頭に、ジオンの後継者をめぐって暗闘が繰り広げられるなか、ジオンの子、キャスバルアルテイシアの運命もまた、巨大な歴史の渦に巻き込まれようとしていた。

 安彦良和による『機動戦士ガンダム』の再解釈である漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』。2015年から2018年にかけてのアニメ化は、そのなかからシャア=キャスバルの出生と立身出世のエピソードを中心に、『機動戦士ガンダム』の前日譚ともいうべき作品となっている。監督は『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』などの今西隆志、総監督として安彦良和もクレジットされている。

 安彦はのちに映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』で監督を務めることになるが、同作はこの『THE ORIGIN』の延長線上にあった企画だったのだな、と改めて感じた。3DCGで描画されるモビルスーツはもとより、ときにコミカルな表情をみせるキャラクターたちの味わいは、はっきりと安彦によって打ち出された方向性だと感じる。キャスバルアルテイシアの飼い猫、ルシファーのデフォルメされた様子はどこか牧歌的だし(だからその死後、作品の雰囲気も一層殺伐としてくる)、『機動戦士ガンダム』ではいかつい悪の将軍という印象だったドズル・ザビも、家族思いで子煩悩、時にコミカルな調子をみせる憎めない男という感じになっている。

 さて、作品をとおしてのお話は、しばしばサイド7のアムロ・レイの様子が映されはするものの、全体としてはシャア・アズナブルの誕生譚という趣になっていて、父との死別によってはじまる権力闘争に巻き込まれ、母の非業の死、そして幾度も差し向けられる刺客…と、尋常ではない幼少期を送っていることが、映像化されてみると改めて感じられる。

 突っ込むのは野暮というものではあるが、偶然自分とそっくりの人間と出会い、その少年を替え玉にして暗殺の危機を回避し成り代わる…という筋立てはいかにも出来すぎで、士官学校時代の傑出した存在感といい、のちの時代にシャア・アズナブル顕彰のために(第2次ネオ・ジオン抗争前夜とかに)制作されたプロパガンダムービーのような感じもする。

 シャアの卓越した技量はしばしば描かれるが、『機動戦士ガンダム』前夜なのでモビルスーツ同士の白兵戦はほぼ描かれず、ルウム会戦において宇宙艦隊を相手に縦横無尽の活躍をするシャアらを描くシークエンスが全体のクライマックスになっている。モビルスーツの速さと火力は印象付けられるものの一方的な虐殺といっていい場面なので、シャアに拮抗する敵もおらずその点ややおもしろみに欠けるが、まあそのあたりは『機動戦士ガンダム』をみよということでしょう。

 

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