『風立ちぬ』は非常に自分好みの映画だった。夢に生きる男、堀越二郎が己の才能を賭して挑んだ戦闘機の設計は、結局のところ「最後はぼろぼろ」になって終わる。そこから「生きる」と決意する物語なのである。挫折を経て再出発する男の物語、そんな風に私は物語を解釈した。奈緒子との恋愛はあくまで添え物だ、なんて言うとあまりにもホモソーシャルに毒されすぎているだろうか。
奈緒子との恋愛はさておくとして、主人公堀越の飛行機に賭ける情熱は『ライトスタッフ』の主人公たちをなんとなく想起させた。どちらも、プロとしての誇りがあって、純粋な情熱から飛行機作りであったり、高度記録であったり、宇宙進出へと邁進する。
『風立ちぬ』では、純粋な情熱から生まれた技術の結晶が、結果的に人を(敵も味方も)殺すことになるという葛藤について、何度か登場人物が言及するものの、それに対する主人公の苦悩は描かれない。もはやこの程度の葛藤など、主人公の中ではとうに決着がついているのであろう。このプロとしての割り切り、みたいなところが『ライトスタッフ』の主人公たちに通ずる部分があるんじゃないかな~。飛行機を設計する場面とかは、恋愛パートに比べるとそんなに時間が割かれていない気もするんだけど、プロフェッショナルの心意気、みたいなところを感じられる素晴らしい場面がいっぱいあって、心に響いた。
あと劇中のクライマックスもすごいオーバーラップした。『風立ちぬ』では、堀越が1935年試作機の開発を成功させた後、すぐに1945年へとジャンプする。そこで彼は、あらんかぎり破壊しつくされた国の姿と、自分の開発した零戦に乗って死地へと赴く若者の夢をみる。
『ライトスタッフ』では、一人高度記録に挑み続けるチャック・イエーガーが、天に届かず墜落、しかしなんとか生還する。
その後堀越は、自分の才能が枯れたことを自覚しつつも、生きていくことを選ぶ。ここが、なんとなくチャックの姿と重なって見えた。全てを失ってもなお生きようとする男の背中は、なににもましてかっこいい。
私は「挫折からの再出発」というモチーフが好きだ。『マネーボール』なんかがもろにその物語の類型を表していると思うが、この『風立ちぬ』もその類型にあてはめられると思う。最近なにをやっても上手くいかない自分自身と重ねてみているからか。それはともかく、大震災後の日本の状況とも重なる気がする。その点で、まさに『風立ちぬ』は大震災後のジブリ映画に相応しい。初見の感想を殴り書きしてみた。また見に行く機会があったら感想書きたいな。
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