このところ、原作をようやく最新刊まで読んだので、満を持してアニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』をAmazonプライムビデオでみていました。以下感想。
『俺ガイル』は、総武高校奉仕部に所属することになった比企谷八幡が、部活のメンバーと協力したり反発したりしつつ、「まちがう」ことによって何かしらの問題を解決していく物語だ。事件があり、それを解決していくというフォーマットは探偵小説と相似形であるように思われるし、そもそも探偵小説と青春小説が同型であることは仲俣暁生『鍵のかかった部屋をいかに解体するか?』で指摘されているわけだが、それについては措こう。
制作会社を含めメインスタッフが大きく変わったこの2期において、物語を規定する雰囲気も少なからず変わっていく。1期において前景化していたのは、学校という密室空間――それは例えば「陰キャラ」だの「リア充」だの「優等生」だののレッテルとともに成員に意識される、所謂スクールカースト的な力関係が支配する場において、「いかにもいそうな感じ」な、類型的な人間像を背負ったキャラクターによって演じられるドラマだった。
一方2期において、それまで類型的な印象を振りまいていたキャラクターたちが次第にその輪郭に陰影を纏いはじめ、かつては類型的な振る舞いによって隠蔽されていたもの――それを内面と呼んでもいいかもしれないが――が姿を現し、類型をはみ出すかのように自律しはじめる。それが「類型」的な教室空間の秩序を攪拌することによって生じる事件が、2期において奉仕部の面々が直面する事件であり、それを事件足らしめるのは、その「類型」的な秩序にやすらい、それを守ることこそに至上の価値を見出すものたちなのだ。「類型」的な秩序と、そこから「逸脱」しようとする意思の葛藤が、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』の基底を成す。
1期の物語をこうした軸で捉えなおすとするならば、比企谷八幡は、まさに「まちがう」こと=「類型」から「逸脱」することで事件を解決へと導いてきたのであり、だからこそ彼の行為は少なくない人間の反発を呼ぶのだろう。しかし比企谷八幡がそれでも「まちがい」続けるのは、その「まちがい」こそ、「類型」からの「逸脱」にこそ「本物」に至る途があると信じるからなのだろう。その点、事件を解決に導くことで作品世界の混乱を収拾し秩序をもたらすミステリにおける探偵と、比企谷八幡は微妙に位相を異にしている。彼は事件を解決する、そしてそれによって「類型」的な秩序の維持に一役買い続けてきた。しかし、彼が立ち向かうおそらく最後の事件、この2期の結末において立ち現れた謎の解決によって生じるのは、むしろ秩序の紊乱だからだ。
しかし私たちは同時に知ってもいる。その「類型」的な秩序、それを「日常」と言い換えることもできるだろうが、それが強力な回復力をもつのかを。日常はつねに、元に戻ろうとする強力な重力をまとっていて、それによって私たちはたびたび日常に回帰するのだが、その強力な重力こそが日常が日常として存立する条件なのだ。そしてその「類型」的な日常がけっして貧しくなどないことも、私たちは知っている。奉仕部とそれにかかわる人間たちの日々がそれを雄弁に語っているのだから。しかしその重力と豊かさを知ってなお、いや知っているからこそ、そこから逸脱し「本物」を求めることの困難さを知るからこそ、彼らはそこに賭け金を置くのだろう。
その結末は未だ語られてはいないけれど、「本物」をその手にできるかは別にして、まちがい続けた結果がなんらかの形で祝福されることを祈りたい。
原作との関連からいうべきことはいくらでもあるように思いますが、それを書きとらねることは僕の役割ではないように感じられるので、ここでは書かない。
関連
一期の感想。
「類型」と「逸脱」の問題系は、「特別」をめぐる話とも絡ませることができるような気がするのだけど、それは別の機会に考えてみましょう。
この文章を書いていてなんとなく『インヒアレント・ヴァイス』のことが頭をよぎったというか、結局そのパラフレーズをしただけな気がする。
及川監督はこのあと『この美』をとってるのですね。

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【作品情報】
‣2015年
‣監督:及川啓
‣原作:渡航
‣シリーズ構成・脚本:菅正太郎
‣キャラクター原案:ぽんかん⑧
‣キャラクターデザイン:田中雄一
‣美術監督: 峯田佳実
‣アニメーション制作: feel.