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『陸軍』 戦争と親の情

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 『陸軍』をレンタル&視聴。恥ずかしながら、木下恵介監督の作品は見たことが無かった。原恵一監督の『はじまりのみち』が公開されたことで、その存在を知った。『はじまりのみち』は未見だが、木下監督のような巨匠を、若年層に知らしめるという意味でも(現に俺がそうだ)、有意義な企画だったんじゃないかな。そんなわけで、『はじまりのみち』で大きくクローズアップされているという『陸軍』をレンタルしたわけである。

  興味深かったのが、戦時中の空気をこれでもかと感じられた点。冒頭の小倉城落城の際、敗軍の兵が語った「これからは藩ではなく、国に忠義を尽くして外国と戦わねばならぬ」という遺言は、国民国家誕生以前の人間の言葉とは思えなかったが、国に忠義を尽くすことが絶対の是とされたであろう戦時下の雰囲気がひしひしと伝わってきた。

 

 そんな雰囲気を漂わせながらも、反戦映画として見れるところがこの『陸軍』の素晴らしさであろう。反戦のメッセージは、親の情という視点から語られる。劇中では、子を思う親心=子に生きていてほしいというごく当たり前の(と我々には思える)感情が、批判にさらされ、抑圧され続ける。当時は、死んでもいいから立派に軍人の勤めを果たしてほしい、ということもまた親心であったかもしれないが、それが無批判に肯定されることはない。必ず誰かしらが反論したり、浮かない顔をしていたりする。抑圧され続けながらも、子に生きていて欲しいという願いが確かにあるのだ。

 親の情を捨て、子を天皇陛下のために戦わせる。それが、戦争という極限状態における「当たり前」だったのだろう。その「当たり前」に疑義を呈する。それがどんなに困難なことであったか、Wikipediaなどで木下監督の事情を知ればはっきりとわかる。困難な中でも、親子の愛の尊さ、それを奪う戦争というものの異常さを鋭く抉りだした『陸軍』は、遠く時間を隔てた我々からみれば、強烈な反戦のメッセージではないか。

 異常な「当たり前」に力強く立ち向かう監督と田中絹代氏らの姿は、安易に国防軍の議論などが行われている今こそ、目に焼き付けるべきであると思う。

 

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新編天才監督木下惠介

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