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『もののけ姫』をもっと楽しむための読書案内!

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 今日、『もののけ姫』のBlu-rayがとどいた。『もののけ姫』は、(今のところ)宮崎作品の中で一番好きなんだけど、最後に見たのは金曜ロードショーで放映された時。調べてみたら2011年の夏に放映したのが一番最近みたいなので、2年ぶりくらいに見たことになる。

  今回発売されたBlu-ray、4Kでリマスターしました!、と売り出してた*1ので、大変綺麗になっているだろうと期待したが、目に見えて超綺麗になっている、というほどではなかったかな、というのが正直な感想。しかし綺麗であることは間違いないと思うので、比較したらはっきりわかるんじゃないかな。

 さて、今回2年ぶりに見直してみたわけだけれども、正直、前に見た時よりもはるかに「すごい」映画だと感じた。そう感じたのは、おそらくこの2年で、自分が日本中世史についてのちょっと勉強したからだと思う。『もののけ姫』は、日本中世史、もっといえば網野善彦歴史観を理解してからみると、何倍も楽しめるんじゃないかな。そのために、いささか不遜ではあるけれども、この本読むともっと『もののけ姫』が楽しめる、と自分が考える本を紹介したい。

歴史を知っていると、『もののけ姫』は100倍楽しめる!

 『もののけ姫』は室町時代の末期を舞台にした時代劇だ。当然、時代背景を知っていれば、よりその面白さ、物語の深さがわかろうというもの。しかし、「歴史」と聞いただけで、拒否反応を示す人も少なくないだろう。中学・高校の歴史の授業なんて、たいていの人間にとっては暗記の作業でしかない。うちの大学の講師も「(中学・高校の)歴史が好きって言うやつは、たいてい暗記大好きな変人なんじゃ!そんな変人が教師になるから歴史の授業はつまらんのじゃ!」と気炎をあげているのだが、これには正直同意せざるをえない。

 今では歴史学を専攻している自分にとっても、高校の歴史、特に日本史は退屈な時間だった。無味乾燥に政治の流れを追っていくだけに感じられてなんだか退屈で、まともに聞いてもいなかった。しかし安心してほしい。無味乾燥な日本史の知識など、『もののけ姫』を楽しむには不要だ。以下で紹介する本は、退屈とは無縁であると断言できる。

 では、何を知る必要があるのか。それは、網野善彦歴史観、すなわち網野史観である。日本史に興味を失っていた自分を変えたのが、大学で出会った先輩に教えてもらった、網野善彦その人であった。『もののけ姫』がジブリの中では一番好きなんですよねー、なんて話をしたら、「じゃあ、網野さんの本読んでみなよ。『もののけ姫』はめっちゃ網野さんの影響受けてるよ。」 と、網野善彦の本を勧められた。これが、網野さんと自分の出会いだった。それから、網野さんの著作をいくつか読み、中世って結構面白いじゃん、と思うようになった。そうして網野史観を知って、改めて今日見てみた『もののけ姫』は、いままでみたよりもはるかに面白かった。

 『もののけ姫』と網野さんの研究のかかわりは、もう呆れるほど指摘されているので、「そんなこと、とっくに知ってるわ」という方も少なくないだろう。しかし、網野さんの数多い著作のなかで、どれから読んだらいいのかわからんという人、そもそも網野さんなんて知らねえという人もいるんじゃないかと思う。そんの人の助けになれば幸いである。

 

まず何を読むべきか?⇒『歴史を考えるヒント』

歴史を考えるヒント (新潮文庫)

歴史を考えるヒント (新潮文庫)

 

  まず網野さんの著作のとっかかりとして一番いいかな、と思うのがこれ。「日本」という名前がいつから使われ始めたのか、ということをとっかかりに、「百姓」、「被差別民」など、様々なトピックが縦横に触れられる。そのいずれも、日本人が共通して、学校教育の中で無意識に刷り込まれてきた「常識」を打ち壊すものなので、単純に面白い。文章も平易に書かれているため、日本史の知識などなくてもすらすらと読み進めることができる。網野さんの著作を読むなら、まずはじめにこれだろうなと思う。これを読むだけでも、『もののけ姫』をより深く理解できるはず!

 

もののけ姫』と網野史観の関わりを知りたい!⇒『歴史と出会う』・『宮本常一『忘れられた日本人』を読む』・『歴史の中で語られてこなかったこと 』

 

歴史と出会う (新書y)

歴史と出会う (新書y)

 

  『歴史を考えるヒント』で網野さんの歴史に対する見方のおおよそは伝わると思うんですが、それが『もののけ姫』とどう関わってくるの、ということが疑問として出てくるかもしれません。それを理解するには、網野さん自身が『もののけ姫』に対して言及した文章を読むのが一番手っ取り早いに決まってる。そこでおすすめするのが『歴史と出会う』。

 網野さんは『もののけ姫』のパンフレットにも寄稿なさっていて、その文章が収録されていたり、宮崎駿監督との対談も収められてたりして、『もののけ姫』と網野さんの研究との関わりを知るためには必読なんじゃなかろうかと思います。他にも北方謙三氏との対談なんかも収録されていて、歴史小説が好きな方ならすごく楽しめるのではないかと思います。

 

宮本常一『忘れられた日本人』を読む (岩波現代文庫)

宮本常一『忘れられた日本人』を読む (岩波現代文庫)

 

 

  また、この2冊でも直接『もののけ姫』に言及している。網野さん、『もののけ姫』をべた褒めである。後者に関しては以前に感想を書いたのでそちらをご覧ください。

網野善彦 宮田登『歴史の中で語られてこなかったこと 』を読んだ - 宇宙、日本、練馬

 

網野史観をもっと理解する⇒『日本の歴史をよみなおす (全) 』 

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)

 

  『歴史を考えるヒント』で網野さんの思考の一端に触れて、さらに網野史観を理解したいなら『日本の歴史をよみなおす (全) 』がおすすめだと思う。以前ブログに感想を書いたので、詳しくはそちらで。

網野善彦『日本の歴史をよみなおす (全) 』を読んだ - 宇宙、日本、練馬

 以上、こんな感じで自分なりに網野さんを紹介してみた。専門でも何でもないのに、無謀なことをしたものだ。なにか批判や誤りがあれば指摘をいただきたい。まだ網野さんの著作を読んだことのない、どこかのだれかの参考にでもなれば幸いです。

 網野さんを知って、自分の『もののけ姫』観がどう変わったのかは、またブログに書きたいと思う。

 

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