7月はあっという間に終わってしまった感が。いや6月も5月も4月もそうだったような気がしてきた。光陰矢のごとしですねはい。という感じなんですが7月は意外と量だけは読んだなっていう感じがあります。量だけは。身になってるかは、うん、察しって感じが。
先月のはこちら。
印象に残った本
印象に残ったのは佐藤卓己『歴史学 (ヒューマニティーズ)』。あれ、先月も佐藤さんの本を印象に残った本として挙げた気がする。とにかく、歴史学ってなによ、tってなことを考えねば、と強く思って。それゆえ印象的なのです。そのための参照軸として小林秀雄なんかも読んでみたりしてますね、はい。
小林秀雄「モアツァルト」と批評の真髄 モーツァルト、ジン=フリークス、平賀=キートン・太一 - 宇宙、日本、練馬
というわけでのたうちまわって前に進めたかどうかも分からない1カ月を過ごしましたとさ。
読んだ本のまとめ
2014年7月の読書メーター
読んだ本の数:25冊
読んだページ数:6173ページ
ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者 (中公新書)
- 作者: 矢野久美子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2014/03/24
- メディア: 新書
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■ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者 (中公新書)
アーレントの入門書、というよりは伝記的な色が強い。ドイツに生まれてアメリカでその生涯を終えるまでの足跡辿りながら、その思想を追っていくような構成。『全体主義の起原』や『人間の条件』などの著作の内容にも触れられるものの、あっさりと流しているような印象がある。とはいえ伝記的な記述が魅力的。特にヤスパースやベンヤミンなど、様々な人物との交流は紙幅を割いて提示され、かつそれがアーレントの思索に与えた影響などを平明に記しているのがいい感じだった。
読了日:7月1日 著者:矢野久美子
関連
『ハンナ・アーレント』 不屈の精神の輝き - 宇宙、日本、練馬
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■犯罪不安社会 誰もが「不審者」? (光文社新書)
「近年、治安が急激に悪化している」という神話の虚構性を、統計的なアプローチと思想史的な観点から暴き出す。犯罪検挙率など客観的なデータのように思われるものでも、警察のその時々での方針によって基準は変化しており、それとの関連で見なければ実情を誤解する可能性がある、という話が印象的。様々な統計を引っ張ってきて、犯罪の増加という認識がいかに作られたものであるのかを論証する手際が見事。また、刑務所がハンディキャップを持つ社会的弱者で溢れかえっているというのはショッキングだった。常識に疑義を突きつけられた感が面白い。
読了日:7月3日 著者:浜井浩一,芹沢一也
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カブラの冬―第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆 (レクチャー第一次世界大戦を考える)
- 作者: 藤原辰史
- 出版社/メーカー: 人文書院
- 発売日: 2011/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 3回
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■カブラの冬―第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆 (レクチャー第一次世界大戦を考える)
第一次大戦時のドイツの食糧事情を、民衆の生活に寄り添って提示する。イギリスの海上封鎖により食料供給が絶たれるなか、様々な精神的な手段で対応しようとするも結局は革命に至るまでに民衆の不満が蓄積する様を、一次史料を引用して説得的に描く。一次史料によって飢えの苦しみがダイレクトに伝わってくる感。ナチスによる「飢餓の記憶」の巧みな利用まで話題が及び、海上封鎖を行ったイギリスよりも国内のユダヤ人へと怒りの矛先を誘導していたというのが興味深かった。
読了日:7月3日 著者:藤原辰史
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無意味なものに意味を与えるその手際と、それをおふざけ感溢れる文章で表現するユーモアが魅力的だった。最も印象に残っているのは、表紙の写真にもある麻布の谷町の挿話。不可避的に変わってゆく東京という街の中に変わり損ねた何物かをみつけ、それを面白おかしく紹介するエッセイのなかに、今にも消えゆこうとする古きものへの愛着が見え隠れしている。全体としては良くも悪くも玉石混交だと感じたが、この一編の輝きに心を奪われた。
読了日:7月4日 著者:赤瀬川原平
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■桜が創った「日本」―ソメイヨシノ 起源への旅 (岩波新書)
ソメイヨシノをはじめとする桜についての語りを、歴史的に辿る。明治初期から広まり始めたソメイヨシノに、次第に日本人の心性を読み込んだりするなど特有の意味が与えられていく様が面白い。新しいソメイヨシノがむしろ古い起源を作り出すという機制はなるほどという感じ。また、戦後も桜に特別の意味を見出す語りは生み出され続け、大日本帝国の起源という大きな物語を失って拡散し、今も同じような構造の語りがなされていると指摘。空虚なゼロ記号としての桜を、空虚と知りながらも語ってしまう、その魅力は抗い難いんだろうなーと思う。
読了日:7月6日 著者:佐藤俊樹
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マルクスの思想から、現代という時代を見つめ直す。ネグリとハートの<帝国>論に多くの部分を負っているという印象を受けた。グローバリゼーションの果てに外部は既に消失しつつあり、だからこそ国境を越えた他者との連帯が可能になる、というのが著者の認識の大枠としてある。たしかに、<帝国>の時代だからこそ共産主義の理想は現実味を帯びつつあるような気もする。著者の認識のスパンは数十年ではなく、数百年、数千年単位だと公言しており、それが良くも悪くも心に残った。
読了日:7月6日 著者:的場昭弘
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■歴史と出会う (新書y)
主に歴史学界の外の人たちとの対談などを集めたもの。宮崎駿との対談目当てに読み始めたが、自身の読書遍歴などをざっくり語った文章なども面白かった。対談のなかで特に印象的だったのは、vs.北方謙三。歴史学者と小説家が互いの特徴を認め合って語り合う様子がいい感じだった。また北方さんは歴史学の文献をかなり読み漁り、それをベースに想像を膨らませてるんだなーと。一方宮崎監督は文献よりは自身の直感を重んじ、それを事実と突き合わせるようなスタイルを感じた。
読了日:7月11日 著者:網野善彦
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『もののけ姫』をもっと楽しむための読書案内! - 宇宙、日本、練馬
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社会、メディア、主観と客観、言葉など、様々なトピックを社会学的に捉えなおす。社会学の入門書であるにも関わらず、著名な社会学者の名前や説はあんまり引用されたりせず(多くの部分で借用してはいると思うが)、エッセイ調の文章が綴られている。その中で著者の社会学観、社会学感覚とも呼べるようなものが全面で展開されているような印象を受け、読んでいて面白かった。体系的ではないにせよ、社会学が問題とする事象やそれに対する見方を感じることができる本だと思う。
読了日:7月12日 著者:若林幹夫
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■戦時期日本の精神史―1931‐1945年 (岩波現代文庫)
「転向」をキー概念として、戦時期の知識人の様相を描く。著者は国家権力の強制力と、個人の自発性の双方向的な力の動きの結果として転向を捉えている。記述の多くは戦時期に関わるものだが、原水爆反対運動など戦後の事象についても取り上げており、そのため戦時期における転向のみならず、戦後におけるそれも取り上げられる。共産主義者、キリスト者、朝鮮・アジアに対する見方など様々なトピックが論じられているので、一読しただけでは十全に理解できていない感じがする。
読了日:7月13日 著者:鶴見俊輔
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栽培植物に着目して、人類史的なスパンで農耕の展開を跡づける。『もののけ姫』に影響を与えたと言われる照葉樹林文化論について知るために読み始めたが、それにはあんまり紙幅が割かれてはおらず、世界各地の農耕の展開、変容が記述されている。ふだん当たり前のものとして気にもかけない食、ひいてはそれを支える農業という営みは、想像を絶するほどの過去から続いているんだなーと当たり前のことに気付かされた。面白く読んだんだけれども内容はそれほど頭に入ってない感じがあるのでいずれ再読しようと思う。
読了日:7月15日 著者:中尾佐助
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■69 sixty nine (文春文庫)
本当に30代の時にこれを書いたのか?と思えるほど高校生たちの高校生っぽいアホな思考をトレースしている。文体でそうみせかけているけど、やはり主人公は老獪というか、高校生離れしたずる賢さを感じさせもして。久しぶりに読んだけど、村上龍の他の作品でこれほど楽天的な、楽観的なラストってあるのかと思えるほど爽快なラストはやっぱり好き。Still crazy after all these years...
読了日:7月16日 著者:村上龍
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村上龍への愛をこめて―『69 sixty nine』と『五分後の世界』 - 宇宙、日本、練馬
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■第一次世界大戦 (ちくま新書)
第一次世界大戦の戦場から銃後の状況までを詳しく概説している。いきなり第一次世界大戦をめぐる研究動向から始まるので面食らうが、大半は近年の研究の成果を踏まえた第一次世界大戦そのものの説明に紙幅が割かれている。予想外に戦争が長引く中での指導者層の迷走だったりとか、地獄のような前線の兵士をとりまく状況、そしてあまり想起されないであろう銃後の人々の飢えなどの苦しみまで取り上げ、軍事史にも社会史にもとどまらない厚い記述になっているという印象。現代世界の端緒としての第一次世界大戦、という位置づけには納得。
読了日:7月18日 著者:木村靖二
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■教養としての大学受験国語 (ちくま新書)
受験対策の本というよりは、現代思想のアンソロジーとして読める。近代、脱構築、自己論、身体論などを取り扱った文章について著者が詳細に解説を加え、それぞれの論考の読み方を提示する。大学に入る前に思考の座標軸を知り、「思考の方法」としての教養を身につけて欲しいとの問題意識から書かれた本だが、一般教養として「知っておくべき」ことを押さえるために有用だと感じる。出版から15年経って流石に文献案内は古びてしまっているものもあるように思えたが、内容自体は未だに意義を失ってはいないと感じる。
読了日:7月19日 著者:石原千秋
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大衆教育社会のゆくえ―学歴主義と平等神話の戦後史 (中公新書)
- 作者: 苅谷剛彦
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1995/06
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■大衆教育社会のゆくえ―学歴主義と平等神話の戦後史 (中公新書)
戦後の日本社会を教育を基軸にした大衆社会=大衆教育社会として捉え、その特質を明らかにする。日本では受験による選抜で人生が大きく左右される「学歴社会」は批判されても、一方でそれが平等な「生まれ変わり」の機会であるとも捉えられ、それが学校から生じる社会的不平等を正当なものとして受容する基礎ともなった。そうした日本的な能力主義が、社会階層と学歴、能力との明らかな相関関係を見過ごすことに繋がったというのが著者の指摘。20年前に書かれた本書はこの大衆教育社会のゆらぎを示唆して締めくくられている。
現代でも大衆教育社会的な状況は維持されつつも、苅谷氏はのちの著書で社会階層間のインセンティブディバイドによる格差を指摘しているので、本書の指摘はそれほど的を外してはいないのかも。
読了日:7月20日 著者:苅谷剛彦
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■「当事者」の時代 (光文社新書)
日本のメディアが少数者に寄り添って(いる風を装って)権威を批判する構造を「マイノリティ憑依」と名指し、それを軸に日本社会を批判的に捉える。日本においてマイノリティ憑依は1960年代の社会運動の思想が一面的に読み替えられるかたちで人口に膾炙し、しかしその欺瞞もまた1990年代、55年体制の崩壊と共に明らかになったと著者は指摘する。しかし未だにマイノリティに憑依して第三者的に外部から物事を語ろうとする欲望は存在し、それを乗り越えるために「当事者」たれと主張する。
当事者たれ、とは至極全うな主張ではあると思うが、ソーシャルメディアによって、人は当事者たらざるを得ない、ということを理解する的な論調には疑問。また、マイノリティ憑依という語りの方が1930年代のアメリカ映画『ジャズシンガー』にも端的に現れていることを示しつつも、日本において1960年代を画期として登場した、とするのは何故なのか。多分それ以前から、マイノリティ憑依という語り口は存在して、メディア空間で少なからざる位置を占めていたのでは。
またマイノリティ憑依に対する疑念が生じた原因を55年体制の崩壊と結びつける論理展開も疑問。問題の捉え方が一面的にすぎるのでは。そうした論理展開の雑さが随所にみられるように思う。そこらへんは良くも悪くもジャーナリズム畑の人っぽいというか。
読了日:7月21日 著者:佐々木俊尚
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■世界は宗教で動いてる (光文社新書)
社会人向けに宗教について語った講義を文字に起こしたもの。キリスト教、イスラーム、ヒンドゥー教に仏教など、それぞれの宗教に関して現代の問題とも絡めつつ簡潔に語る。キリスト教の説明に約半分のページが割かれており、詳しく説明されていると感じるが、一方で他の宗教は簡潔にすぎる感も。最後の締めくくりは宗教というよりは宗教的なものからみた日本論という趣きで、なかなか面白いなと思ったが、各章の独立性が高く一冊通読した満足感は薄い気もする。
読了日:7月22日 著者:橋爪大三郎
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■郊外の社会学―現代を生きる形 (ちくま新書)
郊外とはいかなる場所であるのかを、自身の経験も参照しつつ提示しようと試みる。均質的で薄っぺらい「ファスト風土」などと蔑まれる郊外の、それだけでは言い尽くせない均質的かつ非均質的という両義性、薄っぺらな中にも生きられた歴史があるということを主張。自然溢れる文化的な場所としての郊外、という神話を生きる住民の現実。忘却の歴史と希薄さの地理の中にある、と筆者は表現する郊外で、確かに生きられる現実があり、それを言葉に表したことが本書の価値なんだろうか。様々な話題が展開され面白かったが十全には理解できてない感。
読了日:7月22日 著者:若林幹夫
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データはウソをつく―科学的な社会調査の方法 (ちくまプリマー新書)
- 作者: 谷岡一郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/05
- メディア: 新書
- 購入: 6人 クリック: 215回
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■データはウソをつく―科学的な社会調査の方法 (ちくまプリマー新書)
データの正しい読み取り方、使い方を平易に説明し、情報のゴミの山から有用な事実を引き出す方策を提示する。マスコミが統計やデータをどのように用いて、自分たちの政治哲学に沿った論を展開しているのか暴くのは痛快。マスコミが信用ならない、ということは理解していても、恣意性なアンケート調査などマスコミの用いる具体的な手段や、データそのものの信頼性について疑ってかからなければ、そのウソを見破ることはできずにバカをみる。著者は必要なものを見分ける能力を常に鍛えていくことの重要性を主張する。
読了日:7月23日 著者:谷岡一郎
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■網野史学の越え方―新しい歴史像を求めて
網野史学をひとつの足がかりとして、歴史学の在り方を考えるという趣旨のシンポジウムの報告、討論をまとめたもの。網野善彦の研究の位置付けや、その後の評価などが簡潔にまとまっている点がいい。無縁と資本主義の接続、原始社会の無縁を原近代と捉える見方など、網野史学の成果の今日的な読み返し、継承はこんな風に行われていたのかと驚く。中世史の研究者のみならず、近代史を専門とする研究者にとっても、網野史学は見るべきものがあるのだな、という点を知り、その可能性の一端を垣間見れた。
読了日:7月23日
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網野善彦の今日的?意義―『網野史学の越え方』に関する個人的メモ - 宇宙、日本、練馬
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■教育改革の幻想 (ちくま新書)
2002年に実施された学習指導要領に至る、知識偏重の教え込みを批判する教育改革の前提となる認識が、いずれも幻想であることを明らかにする。大学に入るハードルが現代よりはるかに高かった1950年代ですら、実証研究によって「受験地獄」は実態とかけ離れていることが示されていたにも関わらず、教育に関わる多くの人が受験による圧迫という常識的な価値観に囚われ続けていたという点に驚きを感じた。そうしたゆとり路線の結果、勉強していなかった層がますます勉強から離れていき、二極化が進行したとするのが著者の認識か。
読了日:7月24日 著者:苅谷剛彦
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■少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ (岩波新書)
少子社会が生じたのか要因を歴史的に跡づけ、その対策を提示する。少子化の要因として、結婚したとしても、かつてと違って経済的な豊かさを得られないこと、期待が満たされないことを最も大きなものとして挙げているように感じる。社会構造の変化の割りを食う形で若者の雇用が不安定化したことが、そうした状況を生じさせているという。著者は少子化の歯止めをかけるための対応と、少子社会に応じた社会設計の両者が必要だとする。
読了日:7月27日 著者:山田昌弘
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〈群島〉の歴史社会学―小笠原諸島・硫黄島、日本・アメリカ、そして太平洋世界 (現代社会学ライブラリー 12)
- 作者: 石原俊
- 出版社/メーカー: 弘文堂
- 発売日: 2013/12/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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■〈群島〉の歴史社会学―小笠原諸島・硫黄島、日本・アメリカ、そして太平洋世界 (現代社会学ライブラリー 12)
18世紀から現在に至るまでの、小笠原諸島、硫黄諸島に生きた人々の経験を掘り起こす。16世紀に端を発する世界市場の拡大が最後にたどり着いた場所としての小笠原諸島が、日本の主権に次第に回収され、そして南方進出の足がかり、捨て石として利用されていくことになる。日本の敗戦後も、日米関係、冷戦構造の犠牲になる形で、小笠原、硫黄諸島の人々は生きざるを得なかったというその経験が最も印象に残る。かつてはノマドのごとく比較的自律的に海洋世界を生きた人々の子孫が、近代社会の進展につれ難民として苦難の道を歩むことになる的な。
読了日:7月28日 著者:石原俊
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■歴史学 (ヒューマニティーズ)
メディア史を専門とする著者が、自身の研究をもとに歴史学の在り方を述べる。自身の研究の背景というか、問題関心の出発点についてメタ的に語っているのを読むのが、単純に面白かった。ランケなど近代歴史学の祖については記述されているものの、マルクス主義歴史学の隆盛から社会史の出現など、いわゆるおおまかな史学史の流れを理解していることを前提に書かれている気がするので、入門書というよりある程度歴史学について学んだ人間が自分にとって歴史学とはなんなのか、ということを見つめ直すために有用な本だと感じる。
読了日:7月28日 著者:佐藤卓己
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■哲学の謎 (講談社現代新書)
著者が「哲学の謎」、哲学における問題であると考える論点について、対話形式で語る。行為の要因としての意思の存在は証明することが出来ないのではないか、自由とは根源的な虚構であるとしか考えられないのではないか、といった疑問の提起が特に印象に残った。全体としては、言語をひとつのとっかかりとして議論することが多いように感じられ、そこらへんが野矢さんの専門に大きく関わるところなんだろうなーと感じた。
読了日:7月29日 著者:野矢茂樹
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階層秩序的二項対立における片側の優位性を、その純粋現前の不可能性を示すことで突き崩すという脱構築という手法は、「プラトンのパルマケイアー」に典型的に示されていて、あとはその対象を遷移させていっただけ、と僕は理解した。本書はそのプラトン読解のロジックを丁寧に追っていて、その結果デリダの入門書で最もわかった気になる本であると僕は思う。とはいえ、十全に理解できると感じるのは脱構築のロジックであって、その時々のデリダその人の哲学的、政治的ポジショニングとその微妙なニュアンスは未だに掴みきれない。
デリダ関連の本を読むたび「つかみきれない」と繰り返している感じがあるが、つかみきれないのがデリダなんじゃないですか(適当)。先月末も高橋哲哉さんの本を読んでいて、妙なシンクロを感じた。特に意識はしてないですよ、もちろん。
読了日:7月30日 著者:高橋哲哉
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来月のはこちら。