宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2015年5月に読んだ本

 一ヶ月間ずっと『SHIROBAKO』のことを考えていたという気もします。はたらきたいという気持ち。うそです。いやうそじゃないかも。

宮森あおいの辿りついた場所―『SHIROBAKO』感想 - 宇宙、日本、練馬

 

 今月はあんまりよろしくない理由で図書館に通い詰めていたので、濫読がはかどりました。いくないですね。

 先月のはこちら。

2015年4月に読んだ本 - 宇宙、日本、練馬

 

 印象に残った本

思想としての全共闘世代 (ちくま新書)

思想としての全共闘世代 (ちくま新書)

 

  1冊選ぶとしたら、小阪修平『思想としての全共闘世代』。地方から東京に出た小阪の心情に、おなじく大学進学を機に上京した僕としては、こう、ねえ。

九州と東京の落差、高校までの生活と東京に出てからの生活や環境、なによりも自分の考えや行動の落差、そして今思いなおしてみても急激な時代そのものの変化によって、はじめて新幹線に乗った時とそれ以降では、ぼくはまったく違う世界の住人になってしまったような気がする。

 もはや半世紀近く離れた時代の、まったく違った世界のありようと、それでもそこに横たわる故郷と東京の問題系。

読んだ本のまとめ

2015年5月の読書メーター
読んだ本の数:36冊
読んだページ数:8655ページ

自分と向き合う「知」の方法 (ちくま文庫)

自分と向き合う「知」の方法 (ちくま文庫)

 

 ■自分と向き合う「知」の方法 (ちくま文庫)

 学ぶこと、ポルノグラフィ、宗教、障害など、様々な問題について触れたエッセイ集。冒頭で示される「自分を棚上げにしない」知のあり方がエッセイのなかに通底しており、自分と向き合って問題に取り組むスタンスが印象に残る。障害児をめぐる問題など、如何ともし難いように思えるジレンマを突きつけられるような文章が少なくなかったように思う。中でも最後に収められた村上泰亮への追悼文が、特に記憶に残る。死の間際に交わされた会話を生々しく想起させられ、胸をうたれた。
読了日:5月1日 著者:森岡正博
http://bookmeter.com/cmt/46945452

 

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)

 

 ■思考の整理学 (ちくま文庫)

  知的生活をめぐるエッセイ集。「東大生の熱い支持多数!」と帯にあるが、内容は散発的な思いつきをザツな論理展開で書き散らしたものが少なくない上に梅棹『知的生産の技術』などもはや古典といえる名著のよせあつめばかりという印象。「東大生が読んでいる」という箔がついているから売れてるだけじゃないかと感じた。今更有難がって読む本ではないと思う。

 特に、「第一次情報と第二次(メタ)情報」、「第一次現実」と「第二次現実」のように区分を設けて論じようとしている箇所は概念上の混乱がひどく特に意味をとりにくく「整理」とは程遠い。また適当なアナロジー(「生物学的にインブリーディングがよろしくないとすれば、知的な分野でもよかろうはずがない。」p167)や根拠の示されない決めつけ(「もともと、都会の人と田舎の人とを比べると、田舎にいる人間の方が外国語にあこがれる気持ちが強い。」p184)など、ちょっと酷いなと。

 読書メーターでは好意的な感想を寄せている方が多いように感じられるので、僕の読み方が悪いのかもしれませんが、ネット上のそこかしこにみられる所謂「ライフハック」と同様の浅薄さを感じました。
読了日:5月1日 著者:外山滋比古
http://bookmeter.com/cmt/46949002

 

終末観の民俗学 (ちくま学芸文庫)

終末観の民俗学 (ちくま学芸文庫)

 

 ■終末観の民俗学 (ちくま学芸文庫)

 人々の中にある「終末」のイメージを、江戸期から現代の都市に至るまで民俗学的に探る。第1章では災害、第2章では「世直し」が「終末」のイメージの観点から論じられるが、それを通して見えてくるのは、解説の吉見俊哉が指摘するように「怪異の感覚は秩序の感覚と、終末の感覚は蘇生の経験と表裏一体」だということ。終末のイメージの中から、未来の創造を目指すような志向が胚胎したというのは面白いなと感じた。また昭和末期、世紀末が近づいていく中での時代の不安が刻印されているという印象を抱いた。

 吉見氏の解説目当てに読んだみたいなところがり、本文の内容の理解は...。
読了日:5月2日 著者:宮田登
http://bookmeter.com/cmt/46968548

 

はじめてのインド哲学 (講談社現代新書)

はじめてのインド哲学 (講談社現代新書)

 

 ■はじめてのインド哲学 (講談社現代新書)

 インド哲学史の概説。「自己と宇宙の同一性の経験」という、著者が「インド精神のもっとも重要なテーマ」とするものを軸として、主に12世紀頃までのインド哲学の展開が解説される。なんというか、ウパニシャッドにしても仏教にしても、宗教と渾然一体となっているという点で、いわゆる今日の「哲学」との懸隔を感じたが、それはいかに自分が西洋中心主義的な言葉の使い方に馴染んでいるかの証左という感じも。知らないことが多すぎて全然頭に入らなかったような気がする。

 『鋼の錬金術師』の「全は一、一は全」のインスピレーションのもとは「ウパニシャッド」なんじゃないか、という気付きをえたのが一番の収穫。いいのか、それで。
読了日:5月3日 著者:立川武蔵
http://bookmeter.com/cmt/46987512

 

地図の遊び方 (ちくま文庫)

地図の遊び方 (ちくま文庫)

 

 ■地図の遊び方 (ちくま文庫)

 地図にまつわるエッセイ集。地図がそれぞれの国や時代の政治や文化、歴史に規定されている、というスタンスはうっすらと貫かれているが、全体としては楽しい雑学エッセイ集という感じ。冷戦下での地図をめぐる不便さや、世界各国で異なる地図記号、絶対に使われることのない郵便番号など、話の種になりそうな雑学が散りばめられていて面白かった。しかしカーナビやスマホの普及は地図の立ち位置を大きく変えてしまったよなーと、ちくま文庫版に付された筆者あとがきを読んで改めて思った。紙の地図の未来はどっちだ。
読了日:5月4日 著者:今尾恵介
http://bookmeter.com/cmt/47036687

 

境界線の政治学

境界線の政治学

 

 ■境界線の政治学

 「境界線」を一つの軸として、911後の政治思想を論じた論考を所収。政治的な決定は、それがいかなるものであっても境界線を引くこととは無縁ではない。そのような観点からエルネスト・ラクロウやマイケル・ウォルツァーなどが批判される。それらの政治思想の陥穽は指摘されるものの、著者がそれに代わるものを提示しているかといえば微妙な気がしますが、性急な決定ではなく、境界線の外部に排除される人々の存在を見つめる必要があるのだという全体を通してのスタンスには納得。納得、納得だけども、という感じ。

これまでどうして境界線を引くことができたのかといえば、それは単に事実上引かれたのである。…一度引かれると、それを維持しようとる力がさまざまな形ではたらくので、まるでその選択に何らかの必然性があったかのような錯覚が生まれることが多い。

読了日:5月5日 著者:杉田敦
http://bookmeter.com/cmt/47059345

 

権力の系譜学―フーコー以後の政治理論に向けて

権力の系譜学―フーコー以後の政治理論に向けて

 

 ■権力の系譜学―フーコー以後の政治理論に向けて

 フーコーに関わる論考三編と、ロアルド・ダール、リベラル-コミュニタリアン論争についてそれぞれ取り上げた論考を所収。フーコーに関わるものは、その思想を平明に解説しつつ、それのもった政治学へのインパクトに重点が置かれている印象。ハーバーマスとの対比の中でフーコーの立ち位置を浮かび上がらせる三章は特に面白く読んだ。こういうの読むと、やっぱり近代主義って分が悪いのでは、と思っちゃう。ただ、フーコーの、特に後期の思想の理解は本書が刊行された当時から結構深められているようにも思うので、若干古くなってるのかもなあ、とも。
読了日:5月6日 著者:杉田敦
http://bookmeter.com/cmt/47074404

 

教えることの復権 (ちくま新書)

教えることの復権 (ちくま新書)

 

 ■教えることの復権 (ちくま新書)

 かつての生徒の側から大村の実践を捉え返し、そこから教師の使命たる「教えること」の重要性を説く。生徒の視点から大村の指導の様が鮮明に浮かび上がってくるようで、その指導力に驚嘆する。大村のいう「教えること」というのは専門教科の指導のことであるが、ゆとり教育からの揺り戻しが生じている現在でも、未だ重要視されているとは言い難いと感じる。詰め込みでも生徒の自主性に完全に委ねるでもない、大村流の「教えること」を実践するのはたやすくはないだろうと思うが、目指すべき理想の指導のあり方の一つとしてありうると思う。しかし結局大村の実践は名人芸だよなあ、とも。

 読むことをめぐる以下の大村の発言が印象的。

大人になって文学を読んで心を動かされることがあっても、その感動をじょうずに表現できるとは限らないでしょう。表現できないなら、感じてないのと同じだ、なんていうことはありませんよ。気持ちがよくわかって、思わずぼろぼろ涙が出るような、そういうふうに読めたらそれでいいはずです。

読了日:5月7日 著者:大村はま,苅谷夏子,苅谷剛彦
http://bookmeter.com/cmt/47097686

 

漱石を読みなおす (ちくま新書)

漱石を読みなおす (ちくま新書)

 

 ■漱石を読みなおす (ちくま新書)

 伝記的事実を抑えながら、漱石の作品の中に見出される様々な「ゆらぎ」を読み取ろうとする。漱石という筆名に含まれた意味、正岡子規との関わり、ロンドン留学の経験と進化論的パラダイムとの遭遇、金の力、フロイトなどなど、取り扱われる論点は多岐にわたり、様々にゆらぐ漱石の像が浮かび上がってくるというきがする。伝記的な記述はなるほどなあという感じだったけれども、各作品の中読解はもっと頁を割いて論じてほしいと思うことが少なくなかったというか、情報量が多くて咀嚼しきれなかったかも。
読了日:5月8日 著者:小森陽一
http://bookmeter.com/cmt/47137754

 

雑踏の社会学 (ちくま文庫)

雑踏の社会学 (ちくま文庫)

 

 ■雑踏の社会学 (ちくま文庫)

 80年代前半の東京の様子を写したエッセイ集。アカデミックな意味で社会学ではないのでタイトルは詐欺だと思ったが、実際の街歩きを基にしたエッセイであるが故に時代が強く刻印されている。ちょうど渋谷にパルコができて東京の盛り場が移り変わっていく時代だったのだなあと。これでもかと著者オススメの名店が紹介されているが、今ではどれほど残っているのかということを考えると、普通に読む分には単なるおっさんの思い出話以上のものではないかも。

 この本をきっかけに『マイ・バック・ページ』を観ました。

当たり前のようにあるそれの重み―『舟を編む』感想 - 宇宙、日本、練馬

読了日:5月8日 著者:川本三郎
http://bookmeter.com/cmt/47139623

 

増補 書藪巡歴 (ちくま文庫)

増補 書藪巡歴 (ちくま文庫)

 

 ■増補 書藪巡歴 (ちくま文庫)

 書誌学にまつわるエッセイ集。まず言葉の選び方、使い方の上品さに驚く。近世文学の教養はここら辺にあらわれるのだろうか。内容で特に印象深かったのは、著者の院生時代のエピソード群。師に恵まれて学問に打ち込むものの、この先自分がどうなるのかわからない。その状況を後から振り返り学恩を噛みしめるような筆致に心を動かされた。
読了日:5月10日 著者:林望
http://bookmeter.com/cmt/47182018

 

団地の時代 (新潮選書)

団地の時代 (新潮選書)

 

 ■団地の時代 (新潮選書)

 団地をめぐる対談。同い年だが団地で育った原と、大学進学で上京してきた重松とで認識の違いがあり、都民独特の心象地理みたいなのがあるのだなあと感じた。団地とマンション、西武沿線と東急沿線、などなど比較することでそれぞれの特質が見えてくるわけだが、今後団地的な共同性や西武沿線の住みやすさが見直されるかも、という見立ては原の個人的な思い入れを感じた。かつて団地が先進的なものとみなされていた時代があった。そのことをリアルタイムでは体験していないからこそ、それを回顧するおしゃべりを聴くのは結構楽しかった。

 東村山の国立療養所多磨全生園の周りを囲む木々の壁をめぐる重松の発言が印象的。コンクリートほど圧迫感はないが、触れればけがをするし、木を伐っても根までとらなきゃだめだから、よりソフトだけども厳しい、みたいなニュアンスだった気がする。メモとっときゃよかった。
読了日:5月11日 著者:原武史,重松清
http://bookmeter.com/cmt/47223081

 

不良のための読書術 (ちくま文庫)

不良のための読書術 (ちくま文庫)

 

 ■不良のための読書術 (ちくま文庫)

 「本を最後まで読むのはアホである」という帯の文句が内容を的確に要約している。面白くなさそうなら読むのをやめろ、役に立ちそうなところをつまみ食い的に読んで自分のものにしろ、というのが著者の主張。タイトルにある読書術よりは、出版・書店業界事情に大きな紙幅が割かれている。そこらへんの事情はAmazonをはじめとするネット書店が隆盛を極める今日では結構古くなっている部分も少なくないよなーと思いながらも、都内の書店事情なども20年で結構様変わりしたのだなあと面白く読んだ。
読了日:5月12日 著者:永江朗
http://bookmeter.com/cmt/47227951

 

共産主義者宣言 (平凡社ライブラリー)

共産主義者宣言 (平凡社ライブラリー)

 

 ■共産主義者宣言 (平凡社ライブラリー)

 同時代の社会主義者たちの批判にあてられた後半部分はともかく、前半の分析は現代社会をマルクスが見ているのかと思うほど真に迫る。「生産の絶え間ない変革、あらゆる社会制度の止むことのない変動、永遠の不安定と動揺こそ、以前のあらゆる時代から際立ったブルジョア時代の特色である」とか。解説をよせた柄谷の影響によるものかもしれないけど。現状分析の鋭さとアジテーションの苛烈さに、マルクス主義なるものが広範に影響力を持ち続けた理由の一端を垣間見たような。

つまり、ブルジョア社会では、過去が現在を支配し、共産主義社会では、現在が過去を支配する。ブルジョア社会にあっては、資本が自主性をもち人格をもち、逆に生きた個人は、自主性も人格ももたない。

読了日:5月12日 著者:カール・マルクス
http://bookmeter.com/cmt/47234650

 

中世とは何か

中世とは何か

 

 ■中世とは何か

 昨年逝去したアナール派の中世史の大家が、自身の生涯や研究を振り返る形で語る。その形式から散漫な印象も受けたが、ルネサンス以前の「暗黒時代」としての中世というイメージが構築される過程や、煉獄という概念が果たした機能などなど、個別の話題は面白く読んだ。改めて感じるのは、中世という時代におけるキリスト教の存在感。本書の多くもキリスト教に関わる叙述に占められている。なるほどなーと思いつつも、西洋中世という時間と場所に途方もない懸隔を感じる所以はそこなんだよなー、と。

 西洋中世をめぐるイメージの構築の話題が一番面白かった。ヤーコブ・ブルクハルトの功罪。
読了日:5月14日 著者:J.ル=ゴフ
http://bookmeter.com/cmt/47285422

 

啓蒙都市ウィーン (世界史リブレット)

啓蒙都市ウィーン (世界史リブレット)

 

 ■啓蒙都市ウィーン (世界史リブレット)

 啓蒙専制君主として知られるマリア・テレジア、ヨーゼフ2世の統治下で、バロックの色彩を帯びカトリックの強い影響下にあったウィーンが開放的な「啓蒙都市」へと変容していく様を跡付ける。国政レベルでは失敗と評される両者の改革が、都市というミクロコスモスを確かに変容させたことを示し、ウィーンで花開いた進取的な文化を平明に提示している。その一方で、都市から下層階級的な、伝統的なものを排除したからこそ啓蒙都市たり得たことにも注意を促す。その意味で、本書の描く変容するウィーンの姿は近代化の典型なのかもしれないなーと。パリやら東京やらと比較してみると面白いのかも。
読了日:5月15日 著者:山之内克子
http://bookmeter.com/cmt/47302314

 

言語ゲームと社会理論―ヴィトゲンシュタイン ハート・ルーマン

言語ゲームと社会理論―ヴィトゲンシュタイン ハート・ルーマン

 

 ■言語ゲームと社会理論―ヴィトゲンシュタイン ハート・ルーマン

 ヴィトゲンシュタイン言語ゲームを<言語ゲーム>論へと換骨奪胎し、それを社会科学へと移した例としてハートの法理学を読み解く。そして最終的にはルーマンの法理論との比較を通してハートの言語ゲーム論の意義を際立たせる、というような構成。平易な言葉で書かれており、ヴィトゲンシュタイン言語ゲームの説明はストンと落ちるようなところがあったが、後半になるにつれ論の展開に追いつけず理解が及ばなくなり、ルーマンの法理論の解釈はぜんぜんわからなかった。

 本書(の一部)をさらに噛み砕いた同著者の『はじめての言語ゲーム (講談社現代新書)』が出版されており、提示されたルーマン解釈も相当批判されている本書をいま読む意味は薄いのかも。

読了日:5月15日 著者:橋爪大三郎
http://bookmeter.com/cmt/47312715

 

戦う哲学者のウィーン愛憎 (角川文庫)

戦う哲学者のウィーン愛憎 (角川文庫)

 

 ■戦う哲学者のウィーン愛憎 (角川文庫)

 博士論文のために私費留学した先のウィーンでの悲喜こもごも。一切妥協なくウィーンの人々と渡り合おうとする義道先生の強さに痺れる。その怒りは強情なウィーンの人々だけではなく、彼らをなんとなく優位に置くような思考の態度をとっている日本人にも向けられるのでこわい。出てくるウィーンの人々は大概嫌な奴なので、ヨーロッパの人々に対する変な先入観が植えつけられたかも。そんな憎しみのエピソードが大半を占めるのにもかかわらず清らかな読後感なのは、やはり最後のエピソードの所為だろう。ひどく心を揺さぶられた。
読了日:5月16日 著者:中島義道
http://bookmeter.com/cmt/47317184

 

新京都学派: 知のフロンティアに挑んだ学者たち (平凡社新書)
 

 ■新京都学派: 知のフロンティアに挑んだ学者たち (平凡社新書)

 日文研の創設者たちの姿を描いたノンフィクション。著者の梅原猛への猛烈な傾倒が感じられ、そこから既存のアカデミズムを批判していく姿勢が顕著で、その露骨な紋切り型に辟易した。「権威主義的な歴史学」と革新的な梅原みたいな構図は梅原をヒーローにするかもしれませんが同時に著者自身の知性を疑わせるのでは。他にも「脱構築」という専門用語を適当な含意で使っているように思われる*1、章のタイトルが野暮ったい*2などなど、気になる点が多数あった。新京都学派の学者たちの威を借りてアカデミズム批判をしたいという魂胆が透けて見える。
読了日:5月16日 著者:柴山哲也
http://bookmeter.com/cmt/47325814

 

大学生の論文執筆法 (ちくま新書)

大学生の論文執筆法 (ちくま新書)

 

 ■大学生の論文執筆法 (ちくま新書)

 論文執筆の具体的なハウツーを教授するというよりは、論文の一つの発想法、「線を引くこと」を身につけるための簡潔な論文のアンソロジーといった印象。学生に「人生論的論文執筆法」と題して論文とは如何なるものなのか伝える第一部と、「線を引く」実践の効用を具体例に即してみていく第二部から成る。大学受験本と同じく、研究者がどのように文章を読み解きどう解釈するのか、ということの一つの例を思考に寄り添って追体験できるのが魅力だと思う。
読了日:5月17日 著者:石原千秋
http://bookmeter.com/cmt/47372402

 

私の東京町歩き (ちくま文庫)

私の東京町歩き (ちくま文庫)

 

 ■私の東京町歩き (ちくま文庫)

 雑誌『東京人』に掲載されたエッセイをまとめたもの。東京の下町を主な舞台に、著者が気ままに町歩きする。25年前に書かれたものなので、現在ではもう残っていないだろうなあと感じるような、古い東京の姿がはっきりと浮かびあがる。特に佃島、月島あたりは今と全然風景が違うんじゃなかろうかと感じた。そんなわけで現在の東京の下町の姿をイメージできる人にとってはかなり楽しい本だと思うが、そうではない自分にとっては今読んだところで100パーセント楽しめる本ではないかも、という印象。
読了日:5月18日 著者:川本三郎,武田花
http://bookmeter.com/cmt/47375392

 

ついこの間あった昔 (ちくま文庫)

ついこの間あった昔 (ちくま文庫)

 

 ■ついこの間あった昔 (ちくま文庫)

 戦後10〜20年頃に撮られた写真に、著者が解説とも昔語りともつかないエッセイを添える。この本の趣旨がそういうものなので、紋切り型の「昔はよかった」式の思い出話が百出するが、この本を読んであえてその発想にケチをつけるのは野暮というものだろう。東京と地方の変化の様子はもちろん一様ではないのだということを、写真とエッセイから実感する。こうした風俗がもはやどこにも残っていないであろう現代だからこそ、「ついこの間あった昔」の思い出は面白く読めるという感じがする。
読了日:5月19日 著者:林望
http://bookmeter.com/cmt/47407552

 

 

思想としての全共闘世代 (ちくま新書)

思想としての全共闘世代 (ちくま新書)

 

 ■思想としての全共闘世代 (ちくま新書)

 全共闘の経験を一つの軸に、それを経験した世代の個人史が語られる。上京してなしくずし的に全共闘に関わっていった著者の経験は、ひどく隔絶した過去のことにも思え、だからこそ新鮮で面白く読んだ。革命や内戦がリアリティをもって語られ、そしてそれが生きられたという時空間。その描写が著者の語りと本書の中核をなすのだが、そのような現実を生きた人々が、その後どのように「普通の社会」に適応していったのか、という部分に強く心を撃たれた。全共闘という経験がそれほどまでに決定的なものだったのだなと。
読了日:5月21日 著者:小阪修平
http://bookmeter.com/cmt/47447930

 

社会学入門―人間と社会の未来 (岩波新書)

社会学入門―人間と社会の未来 (岩波新書)

 

 ■社会学入門―人間と社会の未来 (岩波新書)

 社会学という学問のあり方、近代・現代社会の特質、戦後日本社会の変容、来たるべき社会の構想など、様々なトピックが縦横に論じられる。入り口は社会構造についての社会学的な見方の解説など「入門」っぽさがあるが、後半になるにつれ見田の専門領域へと深く分け入っていき、骨のある内容になるなあと再読して改めて思った。副題にもあるように、未来への想像力を強く喚起されるような本だと感じる。

 ブログにメモを残しました。

見田宗介『社会学入門―人間と社会の未来』メモ - 宇宙、日本、練馬


読了日:5月21日 著者:見田宗介
http://bookmeter.com/cmt/47459654

 

近代都市とアソシエイション (世界史リブレット)

近代都市とアソシエイション (世界史リブレット)

 

 ■近代都市とアソシエイション (世界史リブレット)

 19世紀後半のイギリス、とりわけロンドンにおける労働者クラブの様子を概説する。労働者の気晴らしのために(パブでの飲酒など「伝統的」な余暇活動ではなく)健全で「合理的」な余暇活動の場として上からの要請で作られた労働者のクラブが、やがて自立していき、余暇活動にとどまらない機能を果たすようになった。そうした結社のあり方を新自由主義的な思考が幅を利かす現代へのアンチテーゼとして対置するのはハーバーマスっぽいなあと思ったりもした。現代まで脈々と息づくイギリス独自の労働者文化の源泉の一つ、みたいな印象。
読了日:5月22日 著者:小関隆
http://bookmeter.com/cmt/47477181

 

おまえが若者を語るな! (角川oneテーマ21 C 154)

おまえが若者を語るな! (角川oneテーマ21 C 154)

 

 ■おまえが若者を語るな! (角川oneテーマ21 C 154)

 宮台真司を主な批判の対象とした、「若者論者」批判の書。宮台はじめ香山リカなどの論説をとりあげて、それが如何に無根拠な印象批評的な水準にあるのかを逐一指摘する。先に概念枠組みを設定しそれに当てはめる「レジーム先行型」議論の不毛さはなるほどなという感じ。しかし彼らの若者論が無根拠だったとして、じゃあなぜそれが説得力をもって広範に流通してしまったのか、ということが問われるべきではと感じる。世代論の不毛さはともかくとしてそのような印象論がある人たちには魅力的に映ることこそが問題だと思うので。

 批判ってなんか建設的なビジョンがないと意味がないんじゃないのかなー、とも。そういう点で中野敏男さんの仕事はすごいなと。

今だからこそ、「戦後的なるもの」を問い直す―中野敏男『大塚久雄と丸山眞男 ―動員、主体、戦争責任』に関するメモ - 宇宙、日本、練馬

読了日:5月22日 著者:後藤和智
http://bookmeter.com/cmt/47481399

 

団地の空間政治学 (NHKブックス No.1195)

団地の空間政治学 (NHKブックス No.1195)

 

 ■団地の空間政治学 (NHKブックス No.1195)

 高度成長期に出現した団地という居住空間に着目し、そこで生じた政治的な思考の動きを論じる。大阪、千葉、東京それぞれの団地に寄り添うように叙述が展開され、具体的な政治的なスタンスの特質が浮き彫りにする。そこらへんのディテールが本書の魅力なのだろうなあと思う反面、それぞれの地域にある程度の思い入れがないと惹きつけられないかなあとも。とはいえそうしたディテールの積み重ねがあるからこそ、団地族から団地妻へ、というフレーズに象徴される団地のイメージの変遷は説得力をもっているという気もする。
読了日:5月23日 著者:原武史
http://bookmeter.com/cmt/47497135

 

老人力 全一冊 (ちくま文庫)

老人力 全一冊 (ちくま文庫)

 

 ■老人力 全一冊 (ちくま文庫)

 老化に伴う記憶力その他諸々の能力の減退を「老人力」と名付け、屁理屈をこねくり回す。リアルタイムでの記憶はあんまりないので、この言葉ってそんなに世間で流行ってたのか、というところにまず驚く。ジジイの開き直りみたいな文章なのに押し付けがましいうざったさがなくてすらすら読めるからか。その場のノリで生じた悪ふざけにいろいろ意味とか理屈を与えていく、みたいな思考の動きを楽しんでいるのが文章越しで伝わってきて、楽しく読めた。
読了日:5月24日 著者:赤瀬川原平
http://bookmeter.com/cmt/47525146

 

書いて稼ぐ技術 (平凡社新書)

書いて稼ぐ技術 (平凡社新書)

 

 ■書いて稼ぐ技術 (平凡社新書)

 フリーライターの仕事術を自身の経験をもとに解説する。不安定な時代だからこそむしろフリーライターになろうじゃないかという主張は安易な逆張りという感じだが、フリーライターがいかに仕事を得て、どうやって生活していくのかということが具体的にわかって面白く読んだ。「やりたいこと」じゃなくて「やれること」をやるんだ、というフリーライターとしての仕事のスタンスという点は特に印象的。とはいえ、不安定でパイの奪い合いをやってる職業に若者を積極的に引き込むのはどうなんだって感じも。それが冗談じみた逆張りだとしても。
読了日:5月24日 著者:永江朗
http://bookmeter.com/cmt/47530602

 

うるさい日本の私 (新潮文庫)

うるさい日本の私 (新潮文庫)

 

 ■うるさい日本の私 (新潮文庫)

 ほとんど意味がないであろう電車内のアナウンスなど、効力がないにも関わらず音が流され続ける「音漬け社会」との戦闘の記録。ほとんど創作実話なのではないかというほど狂気に満ちた情熱でクレームを入れ文句を言い騒音を発する主体、そしてそのような無用な気遣いを望む「善良な人々」を罵倒する様が楽しい。楽しいんだけどあんまり健康的でない楽しさという気がする。結末で語られる「察する」文化から「語る」文化への革命の構想は面白かった。面白かったけどそんなにドラスティックに実現はして欲しくない。
読了日:5月26日 著者:中島義道
http://bookmeter.com/cmt/47568110

 

日本の10大新宗教 (幻冬舎新書)

日本の10大新宗教 (幻冬舎新書)

 

 ■日本の10大新宗教 (幻冬舎新書)

 日本における新宗教の概説。カルトとの区別がつかない(と著者が考える)団体は取り上げられておらず、天理教や大本など戦前、戦後直後からの流れをもつ団体を中心に解説されている。エホバの証人などのキリスト教系の新宗教や、近年活発に政治活動を行っていたりメディアを賑わしたりしている幸福の科学などが扱われていないのが若干不満でもあったが、記述は簡潔かつ平明で勉強にはなったという気がする。
読了日:5月26日 著者:島田裕巳
http://bookmeter.com/cmt/47574757

 

赤×ピンク (角川文庫)

赤×ピンク (角川文庫)

 

 

■赤×ピンク (角川文庫)
 地下格闘技で闘う三人の少女の、三者三様の物語。三人の少女にそれぞれ変化が訪れて各章は閉じられるんだけれども、その何れもそれまでの自分の人生を縛っていた何かに決着をつけ、新たに一歩を踏み出す瞬間が描かれている気がして、それに爽やかな感じを受けた。その一方でその瞬間は人生において一つの通過点でしかなくて、その後も彼女たちはそれぞれいろいろ苦労を重ねるんだろうなあ、みたいな切なさもあって。切なさと爽やかさの同居したような、不思議な読後感。
読了日:5月27日 著者:桜庭一樹
http://bookmeter.com/cmt/47608021

 

生き延びるためのラカン (ちくま文庫)

生き延びるためのラカン (ちくま文庫)

 

 ■生き延びるためのラカン (ちくま文庫)

 やたらとくだけた口語調で書かれたラカンの入門書。ラカンその人のことより、その分析手法、思考がどんな風に使えるのか、みたいな点に力点が置かれていて、なんとなく親しみやすい。意味不明な数式とかも出てこないし。しかし理解できたかと言われるとまったく別問題で、個別の話題でなるほどなーとはなっても、結局現実界想像界象徴界ってなんやねん、という感じで、僕自身がラカンを使ってものを考えることができるのにはほど遠いなあと。よくもこんな具体的な事実に当てはめられるよなあーと改めて思った。

 文フリでゲッツした同人誌で大層叩かれていたけど、そんなに悪い本でもないんじゃないかという感じ。こういうこというと専門の方に怒られちゃいますね。
読了日:5月28日 著者:斎藤環
http://bookmeter.com/cmt/47612326

 

先生はえらい (ちくまプリマー新書)

先生はえらい (ちくまプリマー新書)

 

 ■先生はえらい (ちくまプリマー新書)

 「先生」とはいかなる存在なのか、コミュニケーションの構造に着目して語る。コミュニケーションには必然的に誤解の余地が残されており、それこそがコミュニケーションの魅力でもある。誤解の余地からこちら側の解釈しなければならない謎が生まれて、そうした謎を最大限に読み解きたい、読み解かねばならないと思う相手こそが「先生」たり得るのである、的な感じか。誤解こそが「理解」を生じせしめる可能性をもっているという逆説はなるほどなと。中高生向けなので文章は若干鼻についたが面白く読んだ。
読了日:5月28日 著者:内田樹
http://bookmeter.com/cmt/47627017

 

日本の近代建築〈上 幕末・明治篇〉 (岩波新書)

日本の近代建築〈上 幕末・明治篇〉 (岩波新書)

 

 ■日本の近代建築〈上 幕末・明治篇〉 (岩波新書)

 幕末期から明治の終わり頃までの、日本における建築の変遷を跡付ける。上巻では西洋諸国の植民地を経由して日本まで辿り着いた西洋建築が、紆余曲折をへて日本人自身によって設計されるようにまでが扱われる。冒険技術者たちのラフな仕事、見よう見まねで作ったが故に独特のちぐはぐさをもってしまった初期の建築、そしてお雇い外国人の指導のもと研鑽を積んだ辰野金吾らの登場、というのがおおまかな流れか。具体的な建築に即しているのでよくわかったような感じになった。
読了日:5月30日 著者:藤森照信
http://bookmeter.com/cmt/47672723

 

法哲学講義 (筑摩選書)

法哲学講義 (筑摩選書)

 

 ■法哲学講義 (筑摩選書)

 法哲学の概説書。法哲学とは何か、「法実証主義」とはいかなる立場なのかというところから入り、ケルゼン、ハート、ドゥオーキンの法哲学を概観して正義論、メタ倫理学を最後に扱う。細部の議論は込み入っていたのでぼんやりと読み進めてしまったが、具体的な例を示して批判を展開するところが少なくなく、なんとなく面白く読めた。著者の展開する批判のほとんどになるほどと膝を打ったが、それは「はじめに」で注意された「批判的な読み」ができてないからだよなあと。文献ガイドが丁寧で、勉強のとっかかりとしてよさそうだなあと感じた。
読了日:5月30日 著者:森村進
http://bookmeter.com/cmt/47680576

amberfeb.hatenablog.com

 

*1:「神話の脱構築つまり、史実に基づいた部分と偽造された部分の区別にとりかかったのである。」って絶対脱構築って言わないと思う

*2:「民衆の中に入っていく姿勢」って章タイトルとしては控えめにいってもダサすぎるでしょ。