宇宙、日本、練馬

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人間がどんだけエライんだよ―『チャッピー』感想

チャッピー

 

 『チャッピー』をみました。ニール・ブロムカンプ監督作品をみるのは『第9地区』以来。僕は『第9地区』のザクッとしたバイオレンスとか奇妙に切ない感じとかが好きなんですけど、『チャッピー』にもその雰囲気が漂っていてよかったです。以下で感想を。ネタバレが含まれます。

 機動警察、暴力フルスロットル

 2016年、南アフリカ共和国ヨハネスブルク。相次ぐ凶悪犯罪に対抗するため、政府はロボット警官隊の導入を決定。圧倒的な耐久力と制圧力を備えた人工知能は、犯罪組織をいくつも壊滅させるなど、着実に成果を挙げていた...。

 ニュース映像的な導入部分で、SF設定を見事に現実世界の延長線上にに落とし込んで見せる手際は見事。『ロボコップ』よろしく、世紀末観ただよう(失礼)街でロボットたちが悪党どもを成敗するシークエンスは短いながら本当に楽しい。チタンで出来たロボット警官隊は銃弾なんてものともしないし、悠々とジャンプで屋根に飛び乗り、煉瓦の壁はあっけなく破壊し、容赦なく悪党どもに弾丸をぶちこむ。

 観る前はこの社会の設定を知らなかったので、チャッピーくんなんだかイングラムみたいだなあ、とか思ってたんですけど、ドロイドは警察用のロボットだってんだから、もうパトレイバーみたいなもんじゃないですか。そりゃフォルムも似るわけです。パトレイバーは勿論そんなに暴力が前景化するような雰囲気の作品ではないわけですが、『チャッピー』の暴力のあからさまさをみると、日本よ、これがロボットの本当の使い方なんやで...と雄弁に語られているような気がしました。嘘です。

 

蛙の子は蛙、なのか...

 そんな中で、警官ドロイドの生みの親、ディオン博士は「意識」のプログラミングに成功し、それを廃棄される予定だったドロイド、22号に独断でインストールしようとする。しかし、悪党どもに拉致された博士は、インストールには成功するものの、22号は悪党どもの手に渡ってしまう。

 チャッピーと名付けられた22号は、紆余曲折を経てギャングスタロボットと化していくわけなんですが、その過程がやはり本作の大きな見どころじゃないかと思います。赤ん坊からいっちょ前のギャングスタになるまでの過程を、見た目ではなく、ふるまいの変化として見事に描いている。生まれたばかりのチャッピーの「赤ちゃんっぽさ」から、恐ろしい父親に隠しごとをしようとする少年的な所作、そしてオラついたあんちゃんみたいな歩き方から仕草まで、これは丁寧にモーションがつくられてるなと感心しきりでした。すごく本物っぽい。

 ニンジャとヨーランディという悪党を親に持ったチャッピーが、そうして成長していく様は、悪党の子がまた悪党になる、という社会的再生産を早回しでみているような感じもして、どこか物哀しさもある。

 

「意識」の価値は

 成長したチャッピーは、自身の命の短さを嘆き、延命が彼の行動の大きな目標となる。そのために、「意識」をプログラムに落とし込み、異なるボディに移そうとする。本来無限に近い時間を生きれるはずのプログラムに、廃棄されたボディをあてがうことで、生命への執着という意志、自己保存という大きな目的を与えたのは上手いことやったなあと。なんというか、こういうAIって無限の時を生きれるがゆえに有限の生に憧憬を抱くってのがお決まりのパターンだと思ってたんですよ、なんとなく。それとは正反対の、「生きたい」という欲望をセットすることで人間と同じステージにチャッピーを立たせた。そのことは大きな意味をもつと思うわけです。

 それと逆さまに、人間をAIの側に引きずり落としもする。それはディオンとヨーランディを救うため、チャッピーがとった手立てに象徴的に示される。とりわけヨーランディは、自身の情報がちっさいUSBにまで縮小されているわけで、ある意味で人間が人間足りうるために必要なものって、実はそれだけなんだぜ、みたいなニヒルな感じを受ける。プログラムから意識が生まれるなら、意識もプログラムに落とし込める。所詮人間様もその程度のもんよ、みたいな。

 それと人間の醜さと、チャッピーの無邪気さ・高潔さも対比されているよなーと。無抵抗の幼いチャッピーをぶちのめして悦にいるチンピラ。自分の目的のためなら「息子」にすら平気で嘘をつく。一方のチャッピーは無邪気ゆえにバンバン暴力をふるいもするけど、最終的には悪党すら許す。チャッピーを通して人間のくだらなさを逆照射する、みたいな感じだと思うわけです。

 

 そんな感じで『チャッピー』、面白かったです。

 

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【作品情報】

‣2015年/アメリカ

‣監督:ニール・ブロムカンプ

‣脚本:ニール・ブロムカンプ、テリー・タッチェル

‣出演

  • チャッピー - シャールト・コプリー
  • ヴィンセント・ムーア - ヒュー・ジャックマン
  • デオン・ウィルソン - デーヴ・パテール
  • ミシェル・ブラッドリー - シガニー・ウィーバー
  • ニンジャ - ワトキン・チューダー・ジョーンズ(ダイ・アントワード)
  • ヨーランディ - ヨーランディ・ヴィッサー(ダイ・アントワード)
  • ヤンキー - ホセ・パブロ・カンティージョ
  • ヒッポ - ブランドン・オーレット
  • ピットブル - ジョニー・セレマ
  • 本人役 - アンダーソン・クーパー