『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(原題:The Big Short)をみました。以下適当に感想。
なぜそんな馬鹿なことを誰も見抜けなかったのか。歴史を眺める人々は言う。そんな将来的にはじけるにきまってるバブルに、なぜ浮かれていられたのだと。しかし歴史の後知恵を頼みにできる我々には必然と思える出来事も、渦中にいたほとんどの人々にとっては予想だにしない出来事だった。たぶんそのようにして失敗は繰り返され、歴史は積み上げられてゆく。過去の愚行を笑いながら、自分自身がその愚行を反復していることなど気付きもせずに。
ウォール街(ソロモン・ブラザーズ)で働いた経験をもち、その内幕を暴露したノンフィクション『ライアーズ・ポーカー』で華々しくデビューしたマイケル・ルイスが、リーマン・ショックに取材して執筆した『世紀の空売り』が原作。マイケル・ルイス原作の映画といえば『マネーボール』や『しあわせの隠れ場所』(原作の邦題は『ブラインド・サイド』)なんかがあるけれど、そのどちらもスポーツ業界のお話で、金融関係の本の映画化はされてないんじゃないかと思う。たぶん。『ライアーズ・ポーカー』も『世紀の空売り』も、金融業界に疎いぼくみたいなやつにも「なんとなくわかったような感じ」を味わえるとても楽しい本だったのだけれど、それが映画になっているのは想像し難いものがあった。しかしまあ『マネー・ショート』は驚くほど原作に忠実に映画化されていたのでした。自分の貧困な想像力がかなしい。
『マネー・ショート』が原作を大きく改変しているのではないか、と感じたのは、金融関連の説明は映像だと冗長じゃないかとか、登場人物の名前が実在の人物から改変されている、というのもあったのだけれども、なにより上に張った予告編の構成によるところが大きい。『世紀の空売り』は、リーマンショックに際してサブプライムローンの破たんをいち早く予期して巨額の利益を得たトレーダー三組(なんて数えるのが適切かわからんが)の三者三様の立ち回りを追っていくような構成になっている。この三者はそれぞれ違った理路でそちらがわに賭けるのだけれど、三者が共謀してそうした、というわけでは全然ない。ところが上の予告編のカット割りだと本編でまったく接点のない三者が一堂に会して会話してるっぽくみえたんですよね。
ところがどっこいこれは俺の勝手なミスリードで、映画は原作に忠実に、三者三様(プラスそれを扇動するドイツ銀行の男)の賭けを同時並行的に描き、なおかつドラマの流れを切らないくらいの按配で観客向けの説明を挿入するという演出で、原作の味をびっくりするぐらい再現している、という感覚。それに加えて、クリスチャン・ベールをはじめとする俳優たちのテンション突き抜けた演技をみているだけで楽しくて、「お勉強」的な感じがまったくしない。
ハイテンションで賭けに興じる姿は印象的なのだけれども、クライマックスに漂うのは勝利の余韻ではなく、逆に圧倒的な徒労感。システムの破たんで自分たちは莫大な利益を得るけれども、逆にそのしわ寄せを受ける人々も当然いるのだ、と気づく。そしてそれは金融システムの欠陥に気付かずに大企業でマネーゲームに興じていたトレーダー、その大企業の重役、その欠陥を見抜かなければならない立場にいながら見落としてしまった者たちではまったくなく、そんな狂騒とはかけ離れたところにいる大多数のアメリカ合衆国の国民、とりわけ経済的に弱い立場にいる人たちなのだと。
自分たちの勝利を喜ぶこともできない男たちに漂う寂寥感は、「華麗なる大逆転」とは程遠い。原作のラストにおかれた象徴的なエピソードは、たぶんわたしたちは過ちを再び繰り返さずにはおられないのだろう、という予感を濃厚にただよわせるものだった。原作から5年の時を経て公開されたこの映画版が、マイケル・ルイスのペシミズムを裏付けるような形で締めくくられていること。それは原作以上にみるものに倦怠感を与えるんじゃなかろうか。
というわけで大変面白かったです。
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映画的な語りなおし、というとやっぱり『マネーボール』圧倒的に好きです。『しあわせの隠れ場所』は未見。あらすじをみるに原作のおもしろい部分(evolution of a game)がオミットされとるんじゃないの~みたいな印象があるんですがどうなんですかね。
ブラインド・サイド しあわせの隠れ場所 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: マイケル・ルイス,河口正史,藤澤將雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/01/23
- メディア: 文庫
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【作品情報】
‣2015年/アメリカ
‣監督:アダム・マッケイ
‣脚本:アダム・マッケイ、チャールズ・ランドルフ
‣出演
- クリスチャン・ベール - マイケル・バーリ(実名)
- スティーヴ・カレル - マーク・バウム(スティーブ・アイズマン)
- ライアン・ゴズリング - ジャレド・ベネット(グレッグ・リップマン)
- ブラッド・ピット - ベン・リカート
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