先日、就職して地元に戻った友人が久々にこっちに来たんですね。もう一人こっちで働いてる友人も一緒に、焼肉食べたりなんなりして旧交を温めたわけなんですけど、そんとき『劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME』を観ました。僕以外の2人はもう立派な社会人をやってるんですが、作品の見方が僕とは全然違うもんだなーと感慨を抱いたりもして。それはともかく、よく思い返したらこの作品の感想をちゃんと書いておかなかったなと今更気付いたので、簡単に書いとこうと思います。
『劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME』は、四十万皐月の物語である
『花咲くいろは HOME SWEET HOME』 これぞ「劇場版」 - 宇宙、日本、練馬
Blu-ray盤が発売された際に上の文章を書いた時には、劇場版『花咲くいろは』は皐月の物語が前景で展開されつつも、テレビシリーズの延長として喜翆荘の面々の魅力が振りまかれている作品、ぐらいの認識だったんですよ。まあそういう見方もありっちゃありかなと思うんですが、それから何度も何度も見返して、『HOME SWEET HOME』はテレビシリーズの延長という以上に、皐月の物語に他ならない、というような認識に変化しました。テレビシリーズで提示された、「仕事人間、ダメな母親」というある種のステレオタイプ的な皐月の像を、完全に書き換えたといっていいんじゃないか。『HOME SWEET HOME』を経て、皐月はステレオタイプを完全に脱し、ようやく一人のリアルな人間になったといっても過言じゃないんじゃなかろうか。
その皐月に対する認識の変化は、観客だけが感じ取るものではない気がして。主人公である松前緒花もまた、母親の過去に思いをはせることを通じて、自分の中の皐月の像を塗り替えていく。
「ママも・・・やりたいことを探してたんだ。そして見つけた、らしい」
「当たり前だけど。物心ついた時からママは大人で」
「しかもめちゃくちゃ大人で、何考えてるかわかんないし、太刀打ちできないし・・・。でも、やっぱり大人で」
「そんなママに・・・私みたいに輝きたいとか。何かを見つけたい、とか。そんな時期があったんなんて・・・」
文章にするとすげーこっ恥ずかしい独白だと思うんですが、緒花が業務日誌から母の過去に思いをはせるこの場面に、『HOME SWEET HOME』のよさが凝縮されていると思うわけですよ。視聴者であるわれわれと同様に、緒花もまた四十万皐月の物語を読むという構造。
その皐月の半生の物語は、緒花の視点からみたら「恋をして変わる」物語なんだろうけど、僕は「故郷と決着をつける」物語だと思うんですよ。
皐月にとって「故郷」の表象となるのは、喜翆荘であり、その女将であり自身の母である四十万スイ。皐月にとっての「故郷」との対決は、母との対決において代理される。思春期の母への反発、そして松前綾人との出会いそして別れを経て、皐月はようやく「故郷」と折り合いをつける。そして、「人生を楽しむ」ために走り出すラストシーン。ラストシーンの解放感は、長い長い時間をかけてようやく「故郷」と和解しえた皐月の心情をこれ以上なく表現してるんじゃなかろうかと。とはいっても、テレビシリーズから考えると「故郷」にかかわる得も言われぬ感覚は、皐月の中にくすぶっているのかもしれないけれども。
なんかあんまり要領を得ない感じですが、こんなことを思ったりしたのでした。その友人二人と、『氷菓』の「クドリャフカの順番」編をみたりもしたので(文化祭の季節だし)、その感想も近いうちに書き留めとこうと思います。
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【作品情報】
‣2013年/日本
‣監督:安藤真裕
‣脚本:岡田麿里
‣演出:斎剛文、許琮、倉川英揚、安藤真裕
‣出演