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ウイスキーの時間、映画の時間────『駒田蒸留所へようこそ』感想

【映画パンフレット】 駒田蒸留所へようこそ 監督:吉原正行 声の出演:早見沙織、小野賢章、内田真礼、細谷佳正

 『駒田蒸留所へようこそ』をみました。ううむ…という感じ。以下、感想。

 ウェブメディアでライターをはじめて半年の青年、高橋は、上司の命令でウイスキーにかかわる企画を担当することに。その企画は、若くして御代田酒造の社長を務める駒田琉生が、さまざまな酒造会社をめぐってウイスキーについてインタビューするというものだったが、ウイスキーにさして興味もなく、そもそも仕事にも前向きに取り組んでいない高橋は気乗りしなかった。案の定、適当な仕事ぶりとデリカシーのなさで不興を買った彼だったが、琉生の、駒田蒸留所の来歴を知り、彼自身のありかたも変容していく…。

 『花咲くいろは』に始まるP.A.WORKSの「お仕事シリーズ」の最新作は、危機に立つウイスキー蒸留所を舞台に奮闘する人々と、それを取材するライターを描く。キャラクター原案・髙田友美、キャラクターデザイン・川面恒介によるキャラクターたちはかなりシックな印象で、いかにもアニメチックな華々しさはないがスマートで好印象。記号的にデフォルメされたりするシーンはなく、全体として実写風の美意識で表情や所作が描かれている。美術監督・竹田悠介による背景美術はリアリスティックであり、かつ空の色などはわたせせいぞう風味のパキッとした色合いでもあったりして、絵画的に魅力のある画面がしばしばあらわれる。

 そうしたルックの面での手堅い仕事ぶりと対照的に、お話のほうはあまりうまくなく、とりわけ序盤の展開は過剰にストレスフルかつ鈍重。ウェブメディアでライターをつとめる高橋は、前日に取材を命じられたとはいえ、十分な下調べもせず、あげく取材先の名前も勘違いする。知識がない人物を配置することで話の流れの中で知識の解説をしたいという意図でのキャラクター設定なのだろうが、このあたりの「仕事にやる気がない」感じの生々しい描写は映画にとって明らかにマイナスだろうと思う。

 せめて取材に向かう道中で調べ物をする姿を映してこちらに最低限の知識を解説する…とかあってもよいと思うのだけれど、そもそも「仕事に前向きに取り組めない男」の成長譚がメインのストーリーラインにあって、そのありきたりさ、陳腐さが問題の核心だという気もする。

 彼のストーリーラインと対をなす、駒田蒸留所をめぐるお話のほうは、これはまったくの偶然だと思うんだけど、昨年から今年にかけて放映された朝の連続テレビ小説『舞いあがれ!』と相似形だったので驚いた。中小企業の社長の娘が主人公で、不測の事態で会社が傾き父親が亡くなり、主人公が夢を断念して家業に取り組むことになる。そして主人公の兄が外部から会社を救おうとするが摩擦を生んで…というところまで同様なのだ。おそらくこの映画の制作作業が進行するまさにその最中に『舞いあがれ!』が放映されていたのではないかと推察するが、作り手は気が気でなかったのではないかしら。

 『舞いあがれ!』(をわたくしきちんとみていたわけではないんだけど)が長尺を活かしてある立場からながめた平成史を提示してみせたのに対して、この映画はそこまで厚みのあるドラマを描き切れたわけではなく(それが悪いというのではないが)家族のドラマに収斂してしまいミニマルな印象を残す。ドラマの目線も(これは制作にあたって取材した対象からくる問題ではと推察するのだけど)あくまで経営者寄りで、携わるふつうの労働者が書割的だったのも残念。

 ウイスキーづくりは長い時間を必要とする。それは高橋がたずさわるウェブメディアが(ずさんなチェックを通して)即座に流通し、そして反応が返ってくることと対照的だ。そのことについては作中でそれほど意識的な対比はされていなかったように思うのだけれど、アニメ、あるいは映画というメディアはどうだろうかと考えてみると、ウェブメディア的な即時のレスポンスにさらされつつも、しかしウイスキー的に、長い時間のあとに顧みられる可能性も併せ持つ。P.A.WORKSによる『花咲くいろは』や『SHIROBAKO』の放映から少なくない時が経っているが、それらの作品はその時の流れによって価値を減じてはいない。すぐれた作品は疑いなく、ウイスキーの時間の流れの中でもその輝きを放つのだ。果たして『駒田蒸留所へようこそ』はウイスキーの時間に耐えうるだろうか。