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真の必殺剣——『ケモノヅメ』感想

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 Netflixで配信が終わる前に駆け込みで『ケモノヅメ』をみていました。以下感想。

  夜な夜な、人を喰らう鬼が都市を徘徊しているらしい。その食人鬼を殺す使命を背負った剣客集団、愧封剣。その次期当主と目される朴訥な男が出会った運命の女は、食人鬼の血をひいていた。その事実があらわになり、剣士たちから逃げる男と女。人と鬼とを思うままに利用しようとする黒い影。

 湯浅政明のテレビシリーズ初監督作。WOWOWで放映されたためエロスとバイオレンスが匂いたつ。その後も湯浅とタッグを組んで仕事を残すことになる伊東伸高の個性全開のキャラクターデザイン、荒々しいタッチと描線で描かれるキャラクターと世界、極めて大胆な色づかい。放映から15年経った現在、作家性が極めて強烈に発揮されたそのルックの、ある種の無時代性がこの個性的なアニメに未だ強烈な魅力を付与している。

 人も鬼も容赦なく利用するトリックスター、大葉久太郎の存在感はすさまじく、故・内海賢二の怪演もあいまって、後半部においては主役二人は完全に喰われているといってもいいだろう。愧封剣の近代化をすすめていた主人公の弟が、結局大葉という巨魁の前ではままごとに興じる半端者でしかなかったという悲哀。巨大な体をもつ探偵といい、魅力的なサブプロットが結局大葉というモンスターの掌のうちに収斂してしまうような広がりのなさはやや残念ではある。しかしそれでも、1クールをノンストップで語り切ってしまうスピード感は娯楽作品としてまったく正しい。

 湯浅政明は原作としてもクレジットされていて、その後のフィルモグラフィに通じる部分が見出せるのもおもしろい。ほとんど変幻自在といっていいキャラクターの描線はもとより、『DEVILMAN crybaby』の仮借ない暴力性のルーツにこの『ケモノヅメ』を置いてもよいだろう。異なる種族の交感は『夜明け告げるルーのうた』を想起させる。

 一方で、ある種の主題を語ることに頓着しない職人ぶりは、ポスト震災という時代と正面から向き合う近年の仕事とは対照的でもある。この『ケモノヅメ』の監督は、なにかある種の思想やメッセージを語ることにまったく興味がないように感じられるからだ。それが作品に軽快さを与えていて、それがドライな暴力性に満ちたこの作品の魅力でもあるのだが、同時にドラマをトリックスターに簒奪させてしまう結果も導いてはいないだろうか。

 結局のところ、桃田俊彦は愧封剣の奥義であるところのケモノヅメを使うことはしなかった。それはこの時の湯浅政明が、未だ自身の奥義を会得してはおらず、そして他者を簒奪して我が物顔で用いる必殺剣にも運命をゆだねはせんぞ、という決意表明の徴であったのかもしれない。