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大海の真ん中で ――『白鯨との闘い』感想

ポスター/スチール写真 A4 パターンD 白鯨との闘い 光沢プリント

 

 『白鯨との闘い』(原題:In the Heart of the Sea)を2D字幕でみました。『進撃の巨人』かと思っていたら『野火』だったので大層驚いたのですが、これはこれでよさがありました。以下適当に感想を。

  19世紀前半。海の男たちは鯨を追いかけていた。その肉体に蓄積された油を求めて。鯨を追う者たちの聖地、アメリカ合衆国マサチューセッツ州、ナンタケット島に、それぞれ別の思いを秘めて鯨を捕えようとする男がふたり、捕鯨船エセックス号に乗り込む。歴戦の一等航海士、オーウェン・チェイスは金と自身の船を得るために。新米の船長、ジョージ・ポラードは、おそらく名誉のために。その動機が大きく異なるのは、たぶん、その出自の違いが強く影響している。腕は一流だがナンタケットにおいては「よそもの」であるチェイスと、由緒ある船乗りの家系の出身であるポラード。見事に対照をなす二人に率いられるエセックス号の航海は、天にも見放され、捕鯨は遅々として進まない。高まる緊張感が、二人をある賭けへと向かわせ、エセックス号はある海域へと舵を切る。鯨が大量に棲みついているらいしが、同時に巨大な悪魔が船乗りを待ち構えるという、その海へ。

 エセックス号の生き残りである老人に、ハーマン・メルヴィルが取材するという形で語られる「白鯨との闘い」の物語の核心は、飢えと渇きと絶望との闘いにある、と感じた。だから原題の”In the Heart of the Sea”、(直訳するなら「海の中心にて」みたいな感じだろうか)のほうが邦題よりもはるかに内容を伝えている、という気がする。

 巨大な白鯨の無慈悲な攻撃は、船乗りたちに「闘う」猶予すら十分には与えてくれない。陸を出て海の上に足を踏み入れたならば、そこは人類にとって自由になる領域ではない。白鯨の圧倒的な暴力は一方的にエセックス号を蹂躙し、人の弱さを骨身に叩き込む。

 しかし海の男たちの闘いはむしろそこから始まる。海の真ん中、救助の望みの無い、食料も水もわずか、陸地ははるか遠く、という絶望。スクリーンの大画面に映しだされる大海は、その絶望をはっきり浮かび上がらせる。それでも男たちは闘うことを、生きることをやめない。許されざる罪を犯そうとも、決して。

 そうして男たちの一部はその闘いに勝利する。そして、また別の闘いが始まる。ある男は陸へとあがり、またある男はもはや鯨と闘うことをやめて。このエセックス号の物語の結末に、メルヴィルはおそらく満足しなかったのだろう。彼は、それでもなお悪魔との戦いを続ける人間の姿をこそ、語り手の口から聞き届けたかったのではないか。そのメルヴィルの理想が結実したものとしてエイハブの物語、すなわち『白鯨』が生み出されたのだよ、というのが『白鯨との闘い』の見立てなんだろうか。

 

 なんというか、期待してたのと違ったけれどこれはこれでおもしろかった、という感じでした。大海のなかでじりじりと追い詰められていく絶望感、みたいなものはすげえなと思ったんですが、いかんせん『野火』の印象がいまだ脳裏に強く焼き付いていて、『白鯨との闘い』にそれほど心を揺さぶられなかったのもまた事実というか。これはぼくがきちんと『白鯨との闘い』をみれてないってことでもあると思うのであれですが。それはともかく、楽しかったです、はい。

 

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火星に鯨いなくてほんとワトニーさんは助かったと思いますよ

 

 

白鯨との闘い (集英社文庫)

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  『マスター・アンド・コマンダー』なみに帆船がかっちょよくって素晴らしかったんですが、白鯨さんナポレオン麾下の戦艦より強いとおもいました(小学生並みの感想)

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【作品情報】

‣2015年/アメリカ合衆国

‣監督:ロン・ハワード

‣脚本:チャールズ・レーヴィット

‣原作:ナサニエル・フィルブリック『復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇』(文庫化に際して『白鯨との闘い』に改題)

‣出演