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冒険のささやかで偉大な報酬────J・R・R・トールキン『ホビットの冒険』感想

ホビットの冒険 上 (岩波少年文庫 58)

 『ホビットの冒険』を読みました。およそ20年越し!以下、感想。

 ホビット庄で穏やかに日々を過ごしていたホビット族のビルボは、ある日どやどやと家にやってきた魔法使いガンダルフと、故郷をなくしたドワーフたちとともに、竜退治の冒険に赴くことになってしまう。ホビットドワーフの一行は、黄金竜スマウグに奪われた故郷を取り戻し、財宝をその手にできるのだろうか。

 その名も高き『指輪物語』の前日譚。わたくしは小学生の時、『ロード・オブ・ザ・リング』公開で盛り上がっていた時期に、石塚2祐子犬マユゲでいこう』で映画を見る前に『ホビットの冒険』を読むべし!というレコメンドを真に受けて手に取ったのだが、途中で読むのをやめてしまった。今回手に取ったのも、そのとき中途で投げ出した瀬田貞二訳の岩波少年文庫版。20年以上ぶりの再読で、いやこの訳文は小学生には格調高すぎるわね...という気持ちに。

 ホビットたちの冒険の道中は結構悲惨な目にあい、とりわけひもじい思いをしている時間が思いのほか長くて、かなりかわいそうな感じがする。かわいそうといえば、序盤はガンダルフがビルボをかなりぞんざいに扱うので(というかいきなり家におしかけて冒険に連れ出すというのが涼宮ハルヒばりの無茶苦茶ぶりではある)、ビルボくんがかなり気の毒になってくる。『ロード・オブ・ザ・リング』をみているとガンダルフは迫力ある賢者!というイメージだが、いきなりこの『ホビットの冒険』を読むと強引なじい様という感じだ。もっとも、ビルボの手記をもとにしているという形式(でしたよね、たしか)の『ホビットの冒険』ですから、ビルボにはそのようにみえていた、ということなのかもだが。

 さて、驚いたのは黄金竜スマウグがホビットドワーフとほぼ関係なく打倒されること、そして終盤の読みどころはむしろ、財宝に目がくらんだドワーフの王、トーリンと、ほかの種族たちとの緊張感あふれるやりとりにあるということ。

 スマウグはビルボ一行が力をあわせて知恵をしぼって、そしておそらくガンダルフが大活躍して打倒されるものと予断をもって読んでいたので、ぽっとでの勇者が弓の一撃で打倒してしまうのは、いやはや。この『ホビットの冒険』がいかに後世のロールプレイングゲームに影響を与えたか、ということは知ってはいたが、わたくしの思考がまさにロールプレイングゲームに規定されていたのであるなあと。

 また、結部、竜の財宝を得、大いくさを生き延びたビルボが、故郷で英雄として遇されるわけではない、という落としどころは非常にスマート。死んだものとみなされ家を競売にかけられて...という悲喜劇、ホビット庄では変人扱い、しかしかけがえのない友人を得たのだという、ささやかだが輝かしい結末はしみる。