読書メーターのテンプレを使って、2月に読んだ本をまとめておこうと思います。先月のはこちら。
2014年1月に読んだ本ー哲学を学びたい - 宇宙、日本、練馬
2月は哲学・現代思想系の本を読んでいこうと思ったんですが、結局リチャード・ローティの本をちょっと読んだくらいでなんとなく気が変わって、歴史学の「古典」的な著作をよんでいった感じになりました。
印象に残った本
- 作者: ジョンダワー,John W. Dower,三浦陽一,高杉忠明
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2004/01/30
- メディア: 単行本
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今月一番印象に残ったのはジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』上下巻。敗戦後の日本社会を描いた著作。市井の様子から、天皇制、憲法を巡る問題まで幅広く取り上げ、占領軍と日本人とが相互に影響し合って「戦後日本」を作り上げていく様子を丹念に描写していて、大変面白かった。
雨宮昭一『占領と改革―シリーズ日本近現代史〈7〉』なんかは、ダワーは「支配者と被支配者が手を取り合って歴史をつくっていくサクセスストーリー」を描いてしまっている、と批判しているけれども、それにとどまらない読みを可能にするテキストだと思う。日本に住んでいるものなら、だれしも不可避的に影響をうけている、終戦直後という時代を知るためにも、必読の書だと感じます。
あと、大塚久雄の著作をいくつか読んだので、それでまた記事を書こうかな、なんて思っています。
読んだ本のまとめ
集中講義!アメリカ現代思想 リベラリズムの冒険 (NHKブックス)
- 作者: 仲正昌樹
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2013/11/22
- メディア: Kindle版
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■集中講義!アメリカ現代思想―リベラリズムの冒険 (NHKブックス)
アメリカの現代思想の流れが、リベラリズムを軸に整理されていた。英語圏の哲学の流れと、コミュニタリアン、リバタリアンなどの立ち位置がなんとなくわかった気になった。巻末の図で、それぞれの研究者の関係性がまとまっていて大変便利。
読了日:2月1日 著者:仲正昌樹
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/35310476
アメリカ未完のプロジェクト―20世紀アメリカにおける左翼思想
- 作者: リチャードローティ,Richard Rorty,小沢照彦
- 出版社/メーカー: 晃洋書房
- 発売日: 2000/11
- メディア: 単行本
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■アメリカ未完のプロジェクト―20世紀アメリカにおける左翼思想
アメリカのポストモダニズム哲学者であるローティの論考。デューイなどの進歩主義的な左翼を再評価し、社会改良の運動を進めるべきだと主張する。その社会改良とは、文化左翼的な差異の政治ではなく、経済的な格差に目を向ける必要があるというのがローティの主張か。差異の政治にも、社会内のサディズムを減少させたという意義を認めつつも、そのことが経済的問題を覆い隠すように働いたという指摘は、今のアメリカの状況をみるに説得的。デューイを大変高く評価しており、読んでみようという気にさせられた。
読了日:2月2日 著者:リチャードローティ
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/35333631
■分析哲学講義 (ちくま新書)
分析哲学の入門書。扱う問題は言語論から心身問題、時間論まで多岐にわたり、それぞれの問題に対して、分析哲学のアプローチがどのようなものなのかを解説する形式。分析哲学の、良くも悪くも厳密さを重視する方法の意義は理解できたが、ローティをして「退屈」と言わしめた理由もわかった気がする。巻末の文献案内が便利。
読了日:2月3日 著者:青山拓央
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/35379375
■社会科学における人間 (岩波新書)
小田中直樹さんの本で紹介されていたので読んだ。ロビンソンクルーソーに現れる人間類型を糸口に、マルクス、ウェーバーの議論を解釈し、人間類型という方法論の重要性を説く。本書の議論の多くはウェーバーの説に対する解釈であるが、マルクスとウェーバーを接合した、と評される大塚史学の一端が垣間見れた気がする。ただ、小田中さんの著書でも指摘されていた通り、ロビンソンクルーソーの解釈は、他者の存在を意図的に無視している節があり、現在妥当性があるかは疑問だなとも感じる。
読了日:2月3日 著者:大塚久雄
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主にウェーバー社会学に関する、4つの独立した講演を集めた本。『社会科学における人間』と内容的に結構重複している。大塚史学の核心部分が表れているのは、マルクスとウェーバーを軸に社会科学の方法論を論じた最初の講演か。他はウェーバーを大塚なりに解釈したものが2つ、ロビンソンクルーソー論が一つ。ウェーバー理解は、理念と経済的な利害状況、心理的な利害状況の三者の緊張関係を軸に社会を論じようとした、という感じか。
読了日:2月4日 著者:大塚久雄
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■欧州経済史 (岩波現代文庫)
ヨーロッパ、特にイギリスにおける産業革命の要因を、マルクス主義的唯物史観を準拠枠として論じる。封建的諸制度と「中間的生産者層」との対抗関係を軸に、中世的な都市経済圏、問屋制度が衰退し、かつての農村部がマニュファクチュアを原動力として勃興していく様を提示する。これほどマルクス主義の影響は強かったのか、というのが正直な感想。大塚史学のキモである(とされる)ウェーバーの要素はあまり感じられなかったのは、本書があくまで経済の展開に力点を置いているからか。
読了日:2月5日 著者:大塚久雄
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■国民経済―その歴史的考察 (講談社学術文庫)
大塚の論考を、「国民経済」に言及しているものを中心にまとめたもの。デフォーを引用しつつ、自立型の国民経済を形成したことにより、産業革命を達成したイギリスと、中継型の国民経済しか形成できなかったために没落したオランダ、という対比のもとに「正しい国民経済」の成立要件を探る。しかし大塚の論ではその後のイギリスの停滞は説明出来ないように思えるし、率直に言ってもはや研究としての意義は薄いと感じる。大塚史学の現代的な意義とは何なのか。それを引き出すためにいつか再読したい。
読了日:2月5日 著者:大塚久雄
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アーレントの入門書。信じられないほど平易で読みやすい。アーレントの思想をトピックごとに整理して跡づけている。仲正流に解釈したアーレントの思想は、単一的な党派性の危険性を説き、わかりやすいものを疑ってかかれ、という風な感じか。わかりやすさを疑え、というのもある意味わかりやすい思考のパターンな気がする。実践することが難しいんだろうが。
関連
『ハンナ・アーレント』 不屈の精神の輝き - 宇宙、日本、練馬
読了日:2月13日 著者:仲正昌樹
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- 作者: ジョンダワー,John W. Dower,三浦陽一,高杉忠明
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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■敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人
アジア太平洋戦争に敗れた日本人が、敗戦の経験とどう向き合っていったのか。敗戦後の日本社会の様子がディテール豊かに描かれており、単純に読み物として面白い。著者はアメリカ人で、それゆえアメリカ人に理解できるように書かれているため前提知識がほとんど必要なく、加えて訳もこなれているため大変読みやすい。日本人が「敗北を抱きしめる」、その在り方はいかなるものであったのか。その問への回答は上巻では断片的にしかなされていないと感じたが、下巻で提示されるだろう。
読了日:2月17日 著者:ジョンダワー
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社会学入門―“多元化する時代”をどう捉えるか (NHKブックス)
- 作者: 稲葉振一郎
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2009/06
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■社会学入門―多元化する時代をどう捉えるか (NHKブックス)
社会学の入門書というよりは、近代論を軸に社会学という学問の成立、変容の過程を提示した本だった。近代という時代の様相と社会学という学問の特質を結びつけた議論は説得的。社会学は「社会的な意味・形式とその変容可能性」についての学問である、という。現在は一般理論の挫折を経て、中範囲の理論と異化というふたつの方向に向かっている、というのが稲葉氏の認識。
読了日:2月20日 著者:稲葉振一郎
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中世から20世紀に至る、西洋音楽の通史。それぞれの時代性をコンパクトに提示して、バロックや古典派といったそれぞれの楽派の特徴をわかりやすく説明している。クラシック音楽についてほとんど知らないと自負しているが、そんな自分が読んでも理解できるほど平易で、時代性を踏まえた音楽の解釈は単純に知的好奇心が満たされ面白かった。20世紀のジャズ、ポピュラー音楽までをも射程に収めた説明がなされているのが白眉。素晴らしい本だった。
読了日:2月20日 著者:岡田暁生
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/35839919
■ヨーロッパ世界の誕生―マホメットとシャルルマーニュ (名著翻訳叢書)
「マホメットなくしてシャルルマーニュなし」。ブログに感想を書いた。
学術書の古典を読む意味とは―アンリ・ピレンヌを読んで考えたこと - 宇宙、日本、練馬
読了日:2月21日 著者:佐々木克巳
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- 作者: ジョンダワー,John W. Dower,三浦陽一,高杉忠明,田代泰子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2004/01/30
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■敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人
上巻は敗戦を民衆がいかに受け止めたのか、という話題が中心だったが、下巻に収録されている後半部分は政治的なトピックが軸になっている。天皇制や憲法、検閲制度や東京裁判が主に扱われている。上巻から通して著者の述べたかったところは、戦前に形成された官僚機構や経済制度は敗戦を経てなお存続し、米国の占領を経てさらに強固なものへと変容していった、というところか。占領期の功罪をバランスよく記述してその結論を導きだしており、優れた歴史叙述とはこういうものなのだな、と感じる。
読了日:2月23日 著者:ジョンダワー
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脱常識の社会学 第二版――社会の読み方入門 (岩波現代文庫)
- 作者: ランドル・コリンズ,井上俊,磯部卓三
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/03/16
- メディア: 文庫
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■脱常識の社会学 第二版――社会の読み方入門 (岩波現代文庫)
社会学の入門書。社会学史や理論の解説ではなく、著者自身の理論(ゴフマン、デュルケムやらマルクスらを批判的に継承してる感じの)から社会問題の原因を探っていくような形式になっている。その原因も、タイトル通り「脱常識」的なものなので大変面白い。社会学とは何よりも「合理性の基盤」を疑ってかかるものである、というのが著者の社会学観であることが最初の二章で提示され、それから権力、犯罪、家族の問題が取り上げられる。最終章は若干趣が異なり、アンドロイドを作るという思考実験を通して会話、創造性のメカニズムを考える感じ。
読了日:2月27日 著者:ランドル・コリンズ
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社会経済史学を専門とする著者の論文集。歴史学をひとつの社会思想と捉え、大塚久雄の問題意識を継承して人間形成などの難問に向き合うことの意義を論じる。論文のトピックは言語論的転回や理論の適用など、歴史学の方法に対する示唆に富むものが多く、また立ち戻って何度も繰り返し読み返したい、そう思える本だった。様々な困難の中にあってなお、歴史学の存在意義とその価値を強く訴える著者の主張は、歴史学を学ぶものとして身の引き締まる思いがする。
読了日:2月28日 著者:小田中直樹
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/36030745
来月のはこちら。
2014年3月に読んだ本ー乱読気味だが得るものはあった!(はず) - 宇宙、日本、練馬