宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2015年4月に読んだ本

 今年度の始まりは悪い方向にふっきれてしまった感があります。思いたって録画したアニメを一気見したりすることがままあって、これは絶対よくない。でも『アルドノア・ゼロ』も『ガングレイヴ』もおもしろかった。

地球の鼓動は恋、火星の鼓動は愛―『アルドノア・ゼロ』感想 - 宇宙、日本、練馬

守りたかった男、自由になりたかった男―アニメ『ガングレイヴ』感想 - 宇宙、日本、練馬

 今見てる『SHIROBAKO』も世評どおりむっちゃ面白いので、これは大型連休中にみたい。まあ毎日が大型連休みたいなもんなんですけども。はい。

 先月読んだ本はこちら。

2015年3月に読んだ本 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

僕はかぐや姫 (福武文庫)

僕はかぐや姫 (福武文庫)

 

  一冊選ぶとしたら、やっぱこれですかね。5年越しに再会したらとんでもなく尊かった。感想はこんな感じです。

amberfeb.hatenablog.com

 

 他にも、いろいろ面白かったです(こなみ)。

スタバの繁栄と「僕らの欲望」――ブライアン・サイモン『お望みなのはコーヒーですか?――スターバックスからアメリカを知る』のメモ - 宇宙、日本、練馬

月世界の革命をなぞる―ロバート・A・ハインライン『月は無慈悲な夜の女王』感想 - 宇宙、日本、練馬

 

読んだ本のまとめ

2015年4月の読書メーター
読んだ本の数:25冊
読んだページ数:6856ページ

 

未来への帰還―ポスト資本主義への道

未来への帰還―ポスト資本主義への道

 

 ■未来への帰還―ポスト資本主義への道

 『<帝国>』を世に問う以前、政治的亡命先のフランスから、監獄が待つイタリアへの帰還前後に書かれた/話されたものを所収。断片的なエッセイが多いが、構成的権力やら帝国やらマルチチュード、生政治など、<帝国>論の発想は散見されるように思われる。というわけで簡単なネグリへのイントロっぽい感じがある。それに加えて、労働の問題、愛の問題などへのネグリの切り方みたいなものが簡潔に示されていて、ある種の箴言集みたいにも読めるかも。それとネグリの苛烈な経歴も簡単に整理されていてよい。
読了日:4月1日 著者:トニネグリ
http://bookmeter.com/cmt/46236704

 

ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る (光文社新書)

ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る (光文社新書)

 

 ■ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る (光文社新書)

 日本における講演の記録とその後の質疑応答、アンダーソンについての解説から成る。アンダーソン自身の関心は、ナショナリズムからグローバリゼーションの分析へと移っているように思われるが、特に面白く読んだのは自著『想像の共同体』についての批判的な解説。そのテクストから溢れ出る詩的な情熱の源泉は、著者自身が文学を重要視していることや経済など物質的なもの以上に人間の認識の変容に大きな関心を寄せているからなのかなー、と。人間の心理に深く分け入っていくその分析の魅力を再確認した。

 梅森氏によるアンダーソンの研究に関する注解も、平易かつ日本に生きる人間の立場から書かれていることもあって、面白く読んだ。
読了日:4月2日 著者:梅森直之
http://bookmeter.com/cmt/46270941

 

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

 

 ■暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

 『イミテーションゲーム』をきっかけに再読。やはりエニグマ暗号機をめぐるドラマは面白い。技術的な限界のなかで、それを使う人間の癖、傾向に狙いを定めて暗号を突破するってのがめちゃくちゃよくて、下巻のコンピューターの発達の帰結による途方も無い戦いより浪漫を感じたりもする。

関連

歴史を変えた人間のことは、多分誰も知らない―『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』感想 - 宇宙、日本、練馬


読了日:4月2日 著者:サイモンシン
http://bookmeter.com/cmt/46276220

 

民俗学への招待 (ちくま新書 (064))

民俗学への招待 (ちくま新書 (064))

 

 ■民俗学への招待 (ちくま新書 (064))

 95年頃に書かれた民俗学にまつわるエッセイをまとめたもの。短いエッセイゆえに、民俗学的なものの見方の色んなバリエーションをつまみ食いできたような印象。物事を伝統的な習俗との関わりから捉え直すような姿勢が、民俗学の根底には流れているような印象を受けた。一方で「学校の怪談」やパソコン通信をめぐる都市伝説のような現代のフォークロアの話題も面白く読んだ。近代以降に出現した若者たちの間で語られるフォークロアでも、欧米と日本ではその舞台が異なっている、というのが印象的。欧米は都市の不気味さ、日本は学校の閉鎖性。

 柳田國男の時代の民俗学と、現代のそれとでは当たり前だけど質が変わっているよなーと改めて。現代の民俗学は都市の問題にも関心を払っているのだなと。民俗学に関係ない部分で印象に残ったのは、95年という時代の刻印が強く刻み込まれていること。阪神大震災地下鉄サリン事件という出来事のインパクトを改めて感じた。
読了日:4月3日 著者:宮田登
http://bookmeter.com/cmt/46286599

 

日本社会の家族的構成 (岩波現代文庫―学術)

日本社会の家族的構成 (岩波現代文庫―学術)

 

 ■日本社会の家族的構成 (岩波現代文庫学術)

 戦後日本の民主化という課題を念頭に、家族制度を検討する。武士層の道徳をモデルとした明治以降の家族制度の中において、恭順を是とする「孝」というイデオロギーにより家父長の権威は強化され、そしてそうした構図が家族という枠を超えて天皇制国家のあり方にさえ敷衍した。そうした擬制としての家族こそが、戦前の日本において全体主義を生じせしめた、というのが著者の描く日本社会と家族制度の関係性だろうか。絶対的な強制と親愛とが矛盾なく両立される擬制家族主義、という発想が特に印象深かった。
読了日:4月4日 著者:川島武宜
http://bookmeter.com/cmt/46322618

 

ラカンの精神分析 (講談社現代新書)

ラカンの精神分析 (講談社現代新書)

 

 ■ラカン精神分析 (講談社現代新書)

 ただページをめくっていただけという感があり、ラカンについて何かわかったのかというと、全然何もわからなかったという気がする。数式で人間の精神を代表させようとするのがはっきり疑問で、「本当か?」と思うことしきり。しかしラカンの伝記的記述はその強烈な人柄が感じられ面白く読んだ。精神分析学会内での対立、異端であったがゆえの知識人との接点、そして結局訪れる運動の挫折。こんな意味不明なのに参照されるのはやっぱりわからないというのが本音だが。

 読書メーターの、「よっしゃ〜!!(壁に向かって投げる)」という感想に爆笑しました。
読了日:4月5日 著者:新宮一成
http://bookmeter.com/cmt/46336428

 

定本 物語消費論 (角川文庫)

定本 物語消費論 (角川文庫)

 

 ■定本 物語消費論 (角川文庫)

 漫画や玩具などが「それ自体が消費されるのではなく、これらの商品を部分として持つ<大きな物語>あるいは秩序が商品の背後に存在することで、個別の商品は初めて価値を持ち初めて消費される」とする物語消費という類型を提起した論考と、90年前後に発表されたエッセイからなる。「物語消費」というアイディアの面白さはさておいて、多くの頁を占めるエッセイから強く当時の雰囲気を感じ、時代の証言といった趣が強い。偽史への欲望、おまじないブーム、『大霊界』などなど、<物語>が希求された社会の雰囲気に、後のオウムの影が見えるような。
読了日:4月6日 著者:大塚英志
http://bookmeter.com/cmt/46369428

 

いま、柳田国男を読む (河出ブックス)

いま、柳田国男を読む (河出ブックス)

 

 ■いま、柳田国男を読む (河出ブックス)

 民俗学の古典として名高い『遠野物語』と晩年に自身の人生を振り返った『故郷七十年』を主に参照しつつ、柳田國男の現代的な意義を探る。故郷、家族、災害など、トピックごとに独立性の高い論考からなっているが、それらのいずれも上記の問題意識によって書かれているように思われる。柳田の思想によって現代の問題に解決を与えるというよりは、柳田の見出した課題が現代においても重要さを失っていないという指摘をしているような感じ。とはいえ、いま柳田を読む意味がストレートにわかったかというと微妙で、ある程度勉強してから読めばよかった。
読了日:4月6日 著者:石井正己
http://bookmeter.com/cmt/46374090

 

僕はかぐや姫 (福武文庫)

僕はかぐや姫 (福武文庫)

 

 ■僕はかぐや姫 (福武文庫)

 「僕」と称する女子高生がそれと別れを告げるまでを描く表題作と、救いの確証を得たかった人魚とそれゆえに彼女と一緒に生きられなかった異人の物語「人魚の保険」を所収。青春の瑞々しさと息苦しさとを切実に描く表題作が白眉。優等生としてでも不良としてでもなく、「僕」として生きようとした十七歳の目で切り取られた世界の美しさと鋭さが突き刺さる。そんな「僕」という生き方を、やがては手放さなければいけない予感。それと向き合い「わたし」となる瞬間の切なさが刺さる。

関連

かぐや姫になれなかった<僕>―松村栄子『僕はかぐや姫』感想 - 宇宙、日本、練馬


読了日:4月7日 著者:松村栄子
http://bookmeter.com/cmt/46396693

 

柳田国男―その人間と思想 (講談社学術文庫 115)

柳田国男―その人間と思想 (講談社学術文庫 115)

 

 ■柳田国男―その人間と思想 (講談社学術文庫 115)

 柳田の伝記。叙情詩を愛する文学青年から、大学で農政研究へと関心を移し、やがて民俗学へと結実するという流れか。それほど多くない全体のページ数のなかで、幼少期から青年期の記述が少なくない紙幅を占めていた印象。そうした幼少期の体験が、その後の柳田の関心を形成していったことを強調しているような。柳田の考える「国民」が、現在生きる国民というだけでなく、過去、未来に列島に生きる人々も含んだものだった、という主張が印象的。そこから戦時の柳田批判に繋げられそうだなと感じたけど、そういう論旨ではなかった。
読了日:4月8日 著者:橋川文三
http://bookmeter.com/cmt/46411756

 

 ■物語の体操 物語るための基礎体力を身につける6つの実践的レッスン (星海社新書)

 本書で提示される「物語の作り方」の骨子は、いかに既存の物語を真似るか、であるように思う。物語の構造や登場人物の役割、世界観など、すでにあるものから普遍的なものを抜き出し、それを自分で語り直してみる、という作業。そうしたなかでしかし、模倣に過ぎないと思われるものでもどこかしら自身の個性のようなものが発露するのだという主張は、新書版に新たに付された補講によっても強化されている印象。そうした講義のなかでも、近代日本文学における「私」の問題を提起した第6章が批評的にはもっとも面白かった。
読了日:4月8日 著者:大塚英志
http://bookmeter.com/cmt/46419566

 

無限論の教室 (講談社現代新書)

無限論の教室 (講談社現代新書)

 

 ■無限論の教室 (講談社現代新書)

 アキレスと亀の問題から入り、カントールの無限集合論、ラッセルのパラドックスを経由してゲーデル不完全性定理に至る。教授をはじめとする登場人物が魅力的で読み物として楽しく読んだのだけれども、後半の軸になる対角線論法がイマイチ頭に入ってこなかったので、本書の知的な面白さの半分も堪能できてないのではという気もする。とはいえ、「無限」をはじめとするさまざまな数の捉え方や、後半に怒涛のようなひっくり返しが続くのはスリリングで楽しかった。
読了日:4月12日 著者:野矢茂樹
http://bookmeter.com/cmt/46501591

 

近代政治哲学:自然・主権・行政 (ちくま新書)

近代政治哲学:自然・主権・行政 (ちくま新書)

 

 ■近代政治哲学:自然・主権・行政 (ちくま新書)

 16世紀から18世紀にかけての政治哲学の変遷を、ホッブズスピノザ、ルソーなどの思想家を取り上げて論じる。その際の軸となるのが、自然状態、社会契約、そして主権の問題であるように思われ、それについてそれぞれの思想家がどのようなスタンスを取ったのかが明確に比較検討され、それぞれの哲学のエッセンスともいうべきものが抽出されているように感じられた。著者の問題意識は『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題 』で論じられた行政権の強大さにあるように思われ、その問題への対応を近代政治哲学の思想家たちに見て取っていると感じた。

 今日的な問題意識が根底にあるとはいっても、近代政治哲学から一足飛びに結論を導き出すような理路はとっておらず、哲学に学問的な厳密さを求める著者の姿勢が現れているように思われた。註も充実していて教科書的なわかりやすさと学問的な厳密さとの両者を備えていると感じた。

読了日:4月14日 著者:國分功一郎
http://bookmeter.com/cmt/46541162

 

月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748)

月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748)

 

 ■月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748)

 地球によって搾取される月世界の人々が、独立を求めて立ち上がる。三人と一台を軸にじわじわ進行していく革命の様子がじっくりと詳細に描写され、なんとなく説得力がある。また結婚のあり方に象徴される月世界独特の社会制度など月世界の背景の描写も大きな紙幅が割かれており、それがこの物語の魅力かも。長大な尺もあいまって、世界観と革命戦士の心情にどっぷり浸れた。革命が成就するも、かけがえのない友を失うラストには物悲しさも漂い、しんみりとした余韻がある。

関連

月世界の革命をなぞる―ロバート・A・ハインライン『月は無慈悲な夜の女王』感想 - 宇宙、日本、練馬


読了日:4月14日 著者:ロバート・A.ハインライン
http://bookmeter.com/cmt/46561214

 

カルチュラル・スタディーズ入門 (ちくま新書)

カルチュラル・スタディーズ入門 (ちくま新書)

 

 ■カルチュラル・スタディーズ入門 (ちくま新書)

 カルチュラル・スタディーズとはなんぞや、ということを、その影響を受けた潮流やら同時代の政治状況などを整理したのち(1章)、対象とその扱い方を個別具体的に提示していく(2章)。メディア研究やサブカルチャーフェミニズムや人種の問題など、多岐にわたるその関心をそれぞれ簡潔に解説していて勉強になる。つまみ食い的に様々な問題の「切り方」を知ることができる感じがしてお得感があるんだけれども、所詮はつまみ食いという感じもし、本書で得られた知見を生かせるかっというとちょっと難しいよなー、とも。

 とはいえ「カルスタ」とひとくくりにして語ること自体が今はそれほどなされないという気もするので、カルチュラル・スタディーズの入門、みたいな本書の目的は現在ではすでに失効してるような気もするのですが、どうなんだろ。その社会にコミットすることを躊躇わない姿勢みたいなものは、なんというか意義あるものとは思うのだけれども。
読了日:4月15日 著者:上野俊哉,毛利嘉孝
http://bookmeter.com/cmt/46583193

 

多文化であることとは――新しい市民社会の条件 (岩波現代全書)

多文化であることとは――新しい市民社会の条件 (岩波現代全書)

 

 ■多文化であることとは――新しい市民社会の条件 (岩波現代全書)

 多文化化が進行する現代社会における市民社会、シティズンシップの問題について論じる。民族的な差異や国籍の違いが中心に置かれているが、その中でも女性や子どもなどのトピックも詳しく触れられる。各章ごとに独立性が高く感じられ、7章などは日本における多文化化の歴史と現在の概説として勉強になった。ヨーロッパや日本における個別の事例が多く提示されているが、情報量が多く咀嚼しきれなかった感もあり。即席の解決策はもちろん示されていないわけだが、多文化社会の現状と課題をざっくり概観することができたようなきがする。
読了日:4月18日 著者:宮島喬
http://bookmeter.com/cmt/46626985

 

学生と読む『三四郎』 (新潮選書)

学生と読む『三四郎』 (新潮選書)

 

 ■学生と読む『三四郎』 (新潮選書)

 学生が一年かけて『三四郎』を読み解きながら文学研究の手法を学んでいく様を教師の視点から記述する。石原ゼミの実践の記録といっていいほど、具体的にどのような指導をし、それに学生がどう反応したのかというのがありありと浮かんでくる。どういうスタンスで大学の教員が指導を行っているのか、ということがなんとなくわかった気になる。文学研究をやってる学生はこんな感じに指導されてるのかーとも。著者の鬼の熱血教師は読んでいて単純に面白かった。熱心な先生に指導してもらえるってのは幸福なことだと改めて思った。
読了日:4月18日 著者:石原千秋
http://bookmeter.com/cmt/46643023

 

ドゥルーズ 流動の哲学 (講談社選書メチエ)

ドゥルーズ 流動の哲学 (講談社選書メチエ)

 

 ■ドゥルーズ 流動の哲学 (講談社選書メチエ)

 ドゥルーズの哲学を、年代順に辿る概説書。過去の哲学者に独自の読みを提起し、そののち自身の哲学の構想、ガタリとの共同作業へと進んでいった流れがなんとなくわかった気になる。哲学史の重みを背負って、なおかつ新たな哲学を生み出そうとしたドゥルーズのスタンスは、その哲学的な道具立て(分裂症とパラノイア、領土化と脱領土化…)にも通じる、相対立するものが互いに浸透していくような、アンビバレントなものを感じた。これでドゥルーズの著作の位置付けなどは抑えられるのでドゥルーズを読む準備としていい感じなのかも。
読了日:4月20日 著者:宇野邦一
http://bookmeter.com/cmt/46701700

 

 ■レッドアローとスターハウス: もうひとつの戦後思想史 (新潮文庫)

 西武線沿線にフォーカスを当てた、戦後日本の政治思想史。団地と鉄道といったインフラが住民の政治意識を少なからず規定し、社会主義的な思潮や運動が影響力をもっていた様を、具体的な団地の場所に即して論じる。またそうしたインフラ整備に巨大な影響力をもった西武というグループの「西武天皇制」ともいうべき特質の提示にも大きく頁が割かれている。堤が目指したアメリカ的なものより、むしろ共産圏的な生活世界が現れていたという皮肉。70年を一つの区切りとする従来の歴史観に、西武沿線の実態に即したオルタナティヴを示している。
読了日:4月23日 著者:原武史
http://bookmeter.com/cmt/46754489

 

サヨナラ、学校化社会 (ちくま文庫)

サヨナラ、学校化社会 (ちくま文庫)

 

 ■サヨナラ、学校化社会 (ちくま文庫)

 大学での指導の経験や、自身の来歴、時事的な話題への言及など様々な話題が俎上にのぼるが、学校的な価値観が社会に広く浸透した「学校化社会」の病弊と、それへの処方箋というのが本書全体を貫くトピック。学校的な価値観のもとでの競争は、敗者の不満と勝者の不安を生み出し誰も幸福にしない。そのような状況のなかで、自分の好きなことをやることの意義、一方で社会に必要とされる技能、知恵を身につける必要性を説いている。「学校化社会」という軸で社会の問題をみる、というのはなかなか的確というか、いろんなものが見えてくるなと感じた。
読了日:4月24日 著者:上野千鶴子
http://bookmeter.com/cmt/46776196

 

幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉 (岩波新書)

幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉 (岩波新書)

 

 ■幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉 (岩波新書)

 ペリーの来航から大政奉還を経て西南戦争までの通史。決して無為無策ではなかった幕府の外交政策、イギリスの方針から鑑みて侵略的進出の可能性は薄かったことなど、教科書的な「常識」がひっくり返される記述が印象的。近代国家が急速に形成されるなかで社会全体が大きく動揺していたことが、一揆の過激化などの事例から感じられる。そうしたなかでアジアへの侵略の道へと踏み出していくことになった、というのが大雑把な見取り図だろうか。政治史の叙述に加えて、ヨーロッパの人々が幕末の日本をどうみたのか、という記述も多く面白く読んだ。
読了日:4月24日 著者:井上勝生
http://bookmeter.com/cmt/46789134

 

感じない男 (ちくま新書)

感じない男 (ちくま新書)

 

 ■感じない男 (ちくま新書)

 ミニスカへの執着や制服フェチ、ロリコンなどについて、著者自身の経験に基づく内在的セクシュアリティ研究の視点から論じる。それらの根となっているのが、快楽を空虚感と抱き合わせでしか味わえない「男の不感症」であり、そしてその大元には、自身の体への嫌悪感があるとする。そうした男の不感症の乗り越えのため、「真の快楽」を追求するのでなく、感じないことを認めてやさしさに感情を振り分けることを提起する。著者自身の経験に基づく分析は具体的かつ真に迫るものがあり、共感できる部分が少なくなかった。
読了日:4月25日 著者:森岡正博
http://bookmeter.com/cmt/46797083

 

僕の叔父さん 網野善彦 (集英社新書)

僕の叔父さん 網野善彦 (集英社新書)

 

 ■僕の叔父さん 網野善彦 (集英社新書)

 網野善彦を叔父にもつ著者の「極私的網野論」。幼少期の網野との出会いのエピソードのような思い出話と、学問的な歩みとが渾然一体となっていて、読み物としても網野史学入門としても面白く読んだ。『蒙古襲来』から『無縁・公界・楽』を経て『異形の王権』に至るまでの道筋を、甥の立場から論じている。網野がその歴史観を形成していくにあたって、民俗学的なもの、人類学的なものとの接触が大きな契機となっていたような印象。それは著者の専門と立場がそう見せているのかもしれないけど。平泉澄の掘り返しなど、個別のエピソードも面白かった。
読了日:4月27日 著者:中沢新一
http://bookmeter.com/cmt/46855607

 

未来形の読書術 (ちくまプリマー新書)

未来形の読書術 (ちくまプリマー新書)

 

 ■未来形の読書術 (ちくまプリマー新書)

 夏目漱石研究、また受験国語に関する本で知られる著者による読書論。本を読むとは「自分探し」であり、それは言葉からこぼれ落ちた世界の果てまで「自分」を追いかけていく試みなのだ、ということを前提に、小説や評論の読み方をレクチャーする形式になっているが、小説、評論の読み方は受験本で開陳されたものと大きく重なるので、むしろ読書の前提となる姿勢みたいなものが本書固有の内容という印象。しかし読み方の提示もすっきりとまとめられているので、なんというかベスト盤的な印象を受けた。本書で石原流の読解のエッセンスはわかるかも。
読了日:4月28日 著者:石原千秋
http://bookmeter.com/cmt/46874580

 

お望みなのは、コーヒーですか?――スターバックスからアメリカを知る

お望みなのは、コーヒーですか?――スターバックスからアメリカを知る

 

 ■お望みなのは、コーヒーですか?――スターバックスからアメリカを知る

 スターバックスの成功と停滞を題材に、現代人の持つ欲望のあり方を論じる。「真正さ」が担保されたコーヒーを飲みに、あるいは快適で清潔な居場所を求めて、あるいはセンスのよい音楽を探しに、人々はスターバックスへと足を運ぶ。そうした人々の欲望に適合したことが成功の要因であり、次第にそれを満たせなくなっていったことが停滞の原因でもある。スターバックスが満たしてくれたものは今日では独立系コーヒーハウスによって担われているだけであって、現代人の欲望は取り立てて変わってはいないのだ、というのが結論だろうか。

関連

スタバの繁栄と「僕らの欲望」――ブライアン・サイモン『お望みなのはコーヒーですか――スターバックスからアメリカを知る』のメモ - 宇宙、日本、練馬

読了日:4月29日 著者:ブライアン・サイモン
http://bookmeter.com/cmt/46896054

 

来月のはこちら。

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