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誰もが呼びかけられている―『ヒカルの碁』感想

ヒカルの碁完全版 20 (愛蔵版コミックス)

 

 先日『SHIROBAKO』を視聴したんですけど、最終的に、「ああ、これって『ヒカルの碁』じゃないか...」と一人で勝手に感動してたんですよ。それで『ヒカルの碁』をちょっと読みなおしてたんですけど、やっぱり重なる部分があった。ということでそこらへんを意識して感想を書いとこうと思います。

 囲碁の幽霊に憑かれて

 『ヒカルの碁』は、平安時代に最強を誇ったという棋士、藤原佐為の幽霊が現代日本の小学生、進藤ヒカルにとりつくところから物語は始まる。佐為の頼みによって嫌々ながら碁を打ち始めたヒカルが、同年代のライバルである塔矢アキラとの出会いなどを経て、やがてその魅力に取りつかれ、自ら積極的に囲碁の世界へと身を投じていく。そうしたヒカルの成長物語が、『ヒカルの碁』の核である。

 幽霊である藤原佐為は、ヒカルの師として彼を囲碁の世界へと導き、鍛え上げる。しかし、彼は単にヒカルの師というだけではない。物語の結末を先取りして言えば、彼は囲碁の、もっというならば人間の歴史を具体化させたものだった、といえる。

 佐為は、ヒカルを媒介としてアキラと闘い、ネットを通してアキラの父である塔矢行洋とも対局する機会を得る。こうした機会は、彼を単にヒカルの師にとどまらないものとして、囲碁の世界に大きな波紋を投げかける。塔矢行洋は、佐為が「自分と打つため」に現代に姿をあらわしたといってはばからない。

 佐為はヒカルが自分自身を超えてゆく可能性を認めたとき、安堵して消えてゆく。佐為が消えた直後、ヒカルは碁を打つ意味を見失い、佐為を探してあてどなく彷徨う。本因坊秀策ゆかりの地をめぐったり、彼と縁を結んだ碁盤を訪ねてみても、そこに佐為の姿はない。

 しかし伊角と仕方なしに碁を打つ中で、ヒカルは佐為と再び出会う。彼がその姿をはっきり認めたのは、他でもない、碁盤の中、自らの打つ石の軌跡のなかだった。ここでヒカルにとって、佐為は人称化された師ではなくなる。佐為はもはや師という存在をはるかに越えて、囲碁の歴史そのものの具象になる可能性が開かれた。そのことを多分、ヒカルはこの時点では意識していないだろうが。

 ヒカルははじめに、佐為という一人の幽霊に憑かれた。そしてこの伊角との一局を経て、囲碁の幽霊という、より巨大な意志の集積にとりつかれることになるのである。

 

誰もが幽霊に憑かれている

 ヒカルが囲碁の歴史そのものを背負う、という可能性はこの時点で開かれていたわけだが、いまだそれはヒカルには自覚されない。その可能性の扉が一気にこじ開けられ、囲碁という世界だけでなく人類のすべての営為にまで拡大されたのが、連載最終話、「あなたに呼びかけている」なのである。

 ヒカルは日中韓の団体戦北斗杯の舞台で、本因坊秀策の評価をめぐり、韓国代表の高永夏と激しく対立する。ヒカルにとって、秀策が否定されることは自身の師を侮辱されることであり、また背負う歴史を否定されたことと等しい。だからヒカルは高永夏に強烈な敵愾心を燃やす。

 高永夏は問う。なぜ碁を打つのかと。接戦の末敗れたヒカルは、こう答える。

「遠い過去と、遠い未来をつなげるために」

 これに対して高永夏は「オレ達はみんなそうだろう」と。それを受けて、中国代表を率いる楊海は、さらにその含意を拡大させる。

「遠い過去と遠い未来をつなげる?そんなの今生きてるヤツ誰だってそうだろ」

棋士囲碁も関係ナシ。国も何もかも関係ナシ」

「なぜ碁を打つのかもなぜ生きてるのかも一緒じゃないか」

  過去を背負って、未来へつなげるというヒカルの思いは、囲碁という競技も、国なんてちっぽけなものをも越えて、だれしもがそうなのだという普遍の位置へと押し上げられる。そうして『ヒカルの碁』は、無限の可能性と、負うべき責任との両方を我々の前に示し、幕を閉じる。佐為は「あなたに呼びかけている」。呼びかけられた我々は、それに応える可能性に開かれている。呼びかけにこたえること、それが幽霊に憑かれるということなのかもしれない。

 

関連

 囲碁をアニメに代えてこれをなぞっているが、『SHIROBAKO』なんですねえ(適当)

amberfeb.hatenablog.com

 

ヒカルの碁』について書いた文章。

「奈瀬明日美の碁」、あるいは『ヒカルの碁』の院生論 - 宇宙、日本、練馬

二人じゃなきゃダメなんだ―『カレイドスター』と『ヒカルの碁』についての雑感 - 宇宙、日本、練馬

 

 

 

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ヒカルの囲碁入門

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