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一瞬と永遠をつなぐワイヤー ――『ザ・ウォーク』感想

【映画パンフレット】 ザ・ウォーク   監督 ロバート・ゼメキス キャスト ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ベン・キングズレー、シャルロット・ルボン、ジェームズ・バッジ・デール

 

 『ザ・ウォーク』を3D字幕版でみました。率直にいって、映画館でこんな恐ろしいめに遭うとは思ってませんでした。半端ない手汗をかく羽目になった。大変よかったです。以下適当に感想。

  1970年代初頭、ニューヨークに新たな摩天楼が姿を現そうとしていた。空を切り裂く二つの塔、ワールドトレードセンタービル。その世界一の高さに魅入られたフランスの大道芸人フィリップ・プティは、二つの塔のあいだにワイヤーを張り、それを渡り切るための準備を進めていた。

 自由の女神の頭部からワールドトレードセンターを眺めるフィリップが、大道芸人の道を志し仲間を集め偉業を成し遂げるまでの経験を語る、という構成になっているこの映画の魅力は、なんといっても「高さ」を嫌というほど味わえることにある。僕、you tubeなんかに上がってる高所作業の動画とかみて手に汗を滲ませるのがわりに好きなんですが、『ザ・ウォーク』はある意味その超絶豪華版ともいえる。映画館でこんなに手汗をかくことあるか?というレベルで身体に直接訴えかけてくるものがあった。世界貿易センタービルからの眺めはいわずもがな、ノートルダム大聖堂の綱渡りはもちろん、5メートルくらいの高さ(目測で)だろうと思われるサーカスの綱渡りもそれはそれは恐ろしく撮られていて、これはもう一種の恐怖映画だと思いました。

 もちろん上空400メートルで綱渡りをやろうっていうフィリップは高さなど意にも介さないわけですが、彼の共犯者のひとりに高所恐怖症の男、ジェフを配することで、この高所がいかに想像を絶する恐怖を喚起するのかはひしひしと伝わってくる。そのジェフを当たり前のように命綱なしでビルの縁に立たせて作業させるフィリップの姿ははっきり常軌を逸していて、それに象徴されるようにフィリップは狂人一歩手前のような感じで描かれもするのだけれど、のちのフィリップの語りによってその狂気がうまい具合に統御されていて、全体として明るく楽観的な雰囲気があるのはよかったです。

 それと、ジェフ以外にもフィリップを支える共犯者たちがみんないいやつで、彼らが一致協力してワールドトレードセンターに忍び込み準備を進めるくだりはポップな犯罪映画という感じ。いや実際違法行為なわけですけれども。その計画を着々と進めていくテンポも非常に軽快で、高さに怯えているとき以外は極めて快適なんですよね。それがまた高さの恐怖を引き立てるわけですが。

 

 そんな犯罪行為をしてまで、フィリップが綱渡りをしようとするのは、その一瞬の芸術的行為によって永遠に名を刻むため。一瞬と永遠とのあいだをつなげるために、フィリップは命を賭してワイヤーを渡るわけです。そのフィリップの芸術に、フィリップが考えていた以上の意味が含みこまれていることを、『ザ・ウォーク』は雄弁に語る。いや含みこまれてしまったというべきか。

 ワールドトレードセンターから眺める景色はそれはそれは恐ろしいのだけれども、同時に途方もなく美しくもある。世界の頂上から見下ろしたかのような街の風景が、これ以上なく美しく切り取られている。その風景がやがて失われてしまうことを、ワイヤーを渡るフィリップはもちろん知らないし、自由の女神の上から二つの塔を眺めるフィリップすらそんなことは考えていもしなかった。しかしこの映画をみるものは、その風景がもはや失われてしまったことを知らないはずがない。

 フィリップの偉業は、一瞬を永遠のものへと昇華させたものであると同時に、ありえたかもしれない永遠、変わらずあり続けたのかもしれない風景の美しさを、一瞬のなかに封じ込めたものでもあった。その意味で、二つの塔をつなぐワイヤーは、永遠と一瞬とを双方向的に架橋する芸術そのものなのだと思う。そして多分、ワールドトレードセンターのツインタワーがそうであるように、永遠と一瞬もまた極めて似通った姿をしているのだ、きっと。『ザ・ウォーク』という映画は、そうした一瞬と永遠のあいだに張られたワイヤーのただなかに私たちを立たせてくれる、そういう稀有な映画だと思いました。

 関連

 フィリップ・プティと仲間たちに取材したドキュメンタリー『マン・オン・ワイヤー』も非常におもしろかったです。

 

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The Walk

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【作品情報】

‣2015年/アメリカ合衆国

‣監督:ロバート・ゼメキス

‣脚本:ロバート・ゼメキス、クリストファー・ブラウン

‣原作: フィリップ・プティ『マン・オン・ワイヤー』

‣出演

  • ジョゼフ・ゴードン=レヴィット - フィリップ・プティ内田夕夜
  • ベン・キングズレー - パパ・ルディ(麦人
  • シャルロット・ルボン - アニー・アリックス(渋谷はるか
  • クレメント・シボミー - ジャン=ルイス
  • ジェームズ・バッジ・デール - ジャン=ピエール
  • チェーザレ・ドンボーイ - ジェフ
  • ベン・シュワルツ - アルバート
  • ベネディクト・サミュエル - デヴィッド
  • スティーヴ・ヴァレンタイン - バリー・グリーンハウス