宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

運命を知る/選ぶこと――『龍の歯医者』感想

前編・天狗虫編

 

 Amazonプライムビデオでようやく『龍の歯医者』前後編をみまして、めちゃくちゃよかったです、はい。以下感想。

 

 彼の国には龍が住まうという。古の契約により人と共に在るその龍は、現代――少なくとも銃や艦船やらの近代兵器が用いられるほどには「現代」――においても、戦争のゆくえを左右する力を持っていた。その龍の唯一の弱点は歯。その歯を虫歯菌から守る異能の集団が、龍の歯医者。日々虫歯菌と戦う彼らだったが、そんななか龍の歯から敵軍の軍服に身を纏う少年が出現する。凶事の前兆ともいわれるその出来事だったが、彼らの日常は続く。何故なら彼らは、すでに自らの究極の運命を受け入れてそこにいるのだから。

 『日本アニメ(ーター)見本市』短編版で龍の歯医者になった少女野ノ子と龍の歯から出現した少年ベルの二人を主人公に据えたこのTV版(と呼ぶのが適当だろうか)『龍の歯医者』は、これがテレビアニメかよと驚愕するゴージャスな画面にまずビビる。 アニメーション制作が『エヴァンゲリヲン新劇場版』のスタジオカラーということもあって、主に2Dの作画で描かれる人間たちと、3DCGで描かれる虫歯菌とが違和感なく一つの画面に収まっているような感触。現実ではあり得ない身体能力で飛び回る人間たちの作画なんかはもう外連味に溢れていてそれだけで気持ちいい。

 監督・鶴巻和哉、脚本・榎戸洋司の『フリクリ』・『トップをねらえ2!』を手掛けたコンビに舞城王太郎が加わるという布陣なわけだけれど、お話的にはとりわけ舞城王太郎の色が非常に色濃いのではなかろうか、という印象。龍の歯医者たちが自らの最期――「来る際」を受け入れることで龍の歯医者になる、というのは短編版で描かれたわけだけれど、このテレビ版はその運命を知る者たちが如何に生きるのか、という問いを掘り下げていく。野ノ子をはじめとして、龍の歯医者たちは自らの運命を受け入れて日々を過ごしているように思える。しかし、その運命に唯々諾々と従うだけの生に疑問を抱き、運命に抗おうとするものが現れる。その運命を受け入れたものと、運命に抗うものとの対立が、この『龍の歯医者』の物語を規定する。

 ぼくは舞城王太郎のよい読者ではないのだけれど、彼がこれまで作品のなかで語ってきたことは、我々は巨大な運命を受け入れる、受け入れるしかない、しかしそれでもなお我々には生きる意味というものがある、そういうことだったのではなかろうかと思う。

「この世の出来事は全部運命と意思の相互作用で生まれるんだって、知ってる?」

 これは『ディスコ探偵水曜日』で印象的に反復されるフレーズだけれど、「運命と意思の相互作用」のなかには、変えようのない事柄、「運命」による拘束が含みこまれるわけで、それがこの世の出来事を、あるいは『ディスコ探偵水曜日』の物語を形作る力としてはたらく。

 その意味で、龍の歯医者たちはそのような運命の拘束を引き受けそこに立つ、いわば『ディスコ探偵水曜日』の後裔ともいえる者たちである。「龍は運命に抗うことを許さない」のだから。このテレビ版の物語は、唯一「来たる際」を知らない龍の歯医者であるベルが、自分の究極の運命を未だ知らない少年が、それを自ら選び取り引き受ける物語だ、というふうに要約できるだろうか。

 私たちは、私たちの究極の運命を知らない。私たちがどこに辿り着くのか、それは誰にもわからない。運命を知らないという点において、ベルは唯一、龍の歯医者たちのなかで、私たちに連なる人間だろう。しかし彼は自らの意思で自らの「来たる際」を選び取り、彼岸へと再び旅立つ。その意味で、彼は最期に野ノ子と同じ地平に立ったといえると思うのだけれど、私たちが「来たる際」を知るのは多分まさにその「来たる際」においてでしかないのと同様、彼もまたそうだったはずで、すなわち『龍の歯医者』とは死者たちの物語に他ならないのかもしれない、とも思う。

 それはともかくとして、運命に抗おうとする者の目論見はさしあたっては宙づりにされ、彼女と運命を受け入れ生きるものとの対立は対立のままにして、物語の幕は一旦閉じられた。その続きが舞城王太郎の手で語られること、あるいは再び映像で語られることを楽しみに待ちます。

 

関連

舞城作品で感想書いたの、今思い返すと『暗闇の中で子供』しかなかった(『ディスコ探偵水曜日』を再読したいと願って幾星霜)

 

運命を受け入れる/抗うという軸で考えると、『エヴァ』って圧倒的に後者の話だという気がして、新劇場版で前景化しているゼーレとヴィレの対立ってどちらも後者の側に賭け金をおき、「どうやって抗うか」という次元の対立って気がするのですよね。

 

 

 『日本アニメ(ーター)見本市』関係作品ってソフト化はどうなっているんですかね。『龍の歯医者』はぜひとも手元に置いておきたいなーと思うような作品だったので。

日本アニメ(ーター)見本市サウンドトラック第一弾

日本アニメ(ーター)見本市サウンドトラック第一弾

 

 

 

 

【作品情報】

‣2017年

‣監督:鶴巻和哉

‣原作:舞城王太郎

‣脚本:舞城王太郎榎戸洋司

‣キャラクターデザイン・作画監督:井関修一

‣アニメーション制作: スタジオカラー

‣出演

広告を非表示にする