宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

システムとどう対峙するのか?―—『PSYCHO-PASS サイコパス』感想

f:id:AmberFeb:20140105002804j:plain

 

 新年あけましておめでとうございます。このお正月は例年通り怠惰にすごしました。やったことといえば、『PSYCHO-PASS サイコパス』全22話を一気に観たぐらいで。せっかく見たので、感想というか、考察というか、とりあえず思ったことを書いておこうと思います。

感想: ポスト『攻殻機動隊』にはなれなかったが…

 『PSYCHO-PASS サイコパス』、リアルタイムでは見ていなかったんですが、なんとなく『攻殻機動隊』っぽいな、みたいなイメージがありました。近未来が舞台で、主人公が警察だし。1話のアバンを見た時、その見立ては間違ってなかったな、と思いました。空撮で都市をなめまわしてから、事件現場へとカメラが行く感じ、完全にデジャブ。『イノセンス』じゃないですか、これ!ググったらこんなインタビューも。

 

美術を『イノセンス』などの経験がある平田秀一さんがやられています。これはいかがですか? 

 

―― 本広

これはもう、シビれました。いや、素晴らしいですよ。

イノセンス』の世界ですね。塩谷監督には「冒頭は空撮からお願いします」と話しました(笑)。

僕にとって平田さんの美術設定はアートなんです。その一枚が全部アート。毎回上がってくるのが楽しみです。*1

 

 総監督である本広氏も、多分に攻殻を意識している。いやしかし、『PSYCHO-PASS サイコパス』はポスト攻殻にはなりえていないように思える。はっきり言って、自分は攻殻機動隊*2ほど面白くなかった。

 その理由は、多分いろいろあって、主要人物が全員人格的に完成されている攻殻と、そうでないサイコパス、一話完結のエピソードが少なくなかった攻殻SACと、ほぼ全編槙島に絡む事件を取り扱ったサイコパス、みたいな、登場人物、構成上のところの好き嫌いがあるというのも大きいと思う。

 しかしそれでも、一つの事件の結末の意外性、推理していく主人公チームのカッコよさ、セリフ回しの妙とか、両者を同じ土俵に乗せると明らかに攻殻機動隊に軍配があがる。類似する作品を改めて視聴して、いかに攻殻機動隊SACが、優れたテレビシリーズだったのかを改めて感じることになった。

f:id:AmberFeb:20140105005004j:plain

 とはいっても、『PSYCHO-PASS サイコパス』には、攻殻にはない魅力があるとも感じていて、それがぶっ通しでみれた理由でもある。サイコパスの魅力とは、上でも述べたが、キャラクターの人格がまだ未完成で、それゆえ物語を通して彼らが変容することから生じていると思う。

 『PSYCHO-PASS サイコパス』には、間違いなく常守朱の成長譚という側面がある。彼女が如何にその社会認識を変容させ、そして社会と向き合っていくのか。彼女の成長を追体験する我々も、社会とどう向き合っていくのかを考えざるを得なくなる。それでは、社会=システムと向き合う彼女の戦略とは、いったいいかなるものなのか。

 

システムとどう対峙するのか?

 本作の社会を象徴するのは、シビュラ・システム。市民の精神状態を科学的にスキャンし、犯罪を侵す可能性が高くなったものに何らかの措置を講じるシステムである。また、それぞれの市民に適切な職業に就かせるよう働きかけるシステムでもある。

 このシステムの不完全性は、劇中で様々な点から示される。適正に応じて、職業選択の自由は大幅に狭められているし、犯罪者になる可能性ありと判断されれば、身体の自由すら奪われる。犯罪抑止にしても、全ての犯罪者を認識できないし、システムの穴を突かれた場合、犯罪を全く阻止できずに無法状態になる恐れもある。最終的には、科学性に裏打ちされている*3と思われていたシステムの判断自体が、一部の人間の恣意的な判断に左右されていたことも明らかになる。

 しかし、不完全でありながらも、このシステムの限界は見えない。それは、最終話のラストが、第1話の状況と完全にオーバーラップし、円環を描くような形で物語の幕がとじることに端的に表されていよう。

 このシステムに、どう対峙するのか。主人公、常守朱は、システム打倒を目指そうとするわけではない。秩序維持のためには、システムに乗っかるしかない。システムの不完全性を自覚したうえでも、なおかつシステムの効用は最大限に享受する。覚めた目線でシステムと折り合いをつける。その覚めた目線を獲得したこと、それこそが朱の成長だったのはないか。

 そのような戦略を、とりつつ、変革の可能性自体は閉ざさずいること。そんなシニカルな、現代社会の市民像を提起したという点で、朱の成長譚としての『PSYCHO-PASS サイコパス』は、なかなか見応えのある、いいアニメだったと思う。続編が動いているようだが、そこで社会は、市民はどう描かれるのか。それを楽しみに待ちたい。

 

関連

「正しくない社会」のなかで、それでも「正しく」あれ―『PSYCHO-PASS サイコパス 2』1話感想 - 宇宙、日本、練馬

選択可能な未来の行きつく先は地獄か、それとも...―『PSYCHO-PASS サイコパス 2』感想 - 宇宙、日本、練馬

 

 

PSYCHO-PASS サイコパス VOL.1【Blu-ray】

PSYCHO-PASS サイコパス VOL.1【Blu-ray】

 

 

 

 

*1:ttp://animeanime.jp/article/2012/09/30/11598.html より引用

*2:以下では攻殻機動隊=SAC、テレビシリーズみたいな文脈で使うと思います

*3:そもそも「科学性」も、恣意的に「科学性」という尺度が選択されているだけなのであるが…