アンソニー・ギデンズ著、秋吉美都・安藤太郎・筒井淳也訳『モダニティと自己アイデンティティ――後期近代における自己と社会』を読んだのでメモ。
モダニティの顕著な性格の一つは、外向性と内向性、すなわち一方でのグローバル化する力と、他方での個人的性向という二つの「極」のあいだの相互結合が強くなっていることにある。*1
冒頭でモダニティの性格をこのように述べられている。本書で考察されるのは、主にモダニティにおける「個人的性向」の側面、言い換えれば近代において個人はどのような力に晒され、どのような状況に直面しているのか、ということ。
先日読んだ『近代とはいかなる時代か?』の原著出版は1990年、本書は1991年。本書におけるモダニティの理解も、『近代とはいかなる時代か?』の延長線上にあるように感じられた。モダニティの特質に関する簡潔な記述は序盤に出てくるので、前著を読んでなければ理解が困難、ということはまったくなく、むしろ語り自体がより洗練さrているという印象を受けたのでこっちだけ読めばよかったのでは?と正直思った。
ギデンズはモダニティのダイナミズムの要因を、
- 時間と空間の分離
- 社会システムの脱埋め込み
- 社会関係の再帰的秩序化と再秩序化
の3点に求めているが、個人のアイデンティティの問題と最も密接に関連するのは再帰性という側面だろう。日々新たな情報に接することで、思考・行動が修正を迫られる、というのが再帰性という言葉で言い表されている状況だと思うのだけれど、それがアイデンティティの問題と深く結びつくのだとギデンズはいう。
モダニティの再帰性は自己の核心部にまで及ぶ。別な言い方をすると、ポスト伝統的な秩序においては、自己は再帰的プロジェクトとなるのだ。*2
再帰的プロジェクトとしての自己、とはいったいいかなるものなのか。本文で具体的に述べているのはおそらくこのへんだろう。
何をすべきか?どう振舞うべきか?誰になるべきか?これらは後期モダニティの環境に生きる者すべてにとっての中心的な問題である――そしてこの疑問に私たちのすべてが、何らかのレベルにおいて、言葉で、あるいは日々の社会行動を通して、答えている。*3
モダニティが徹底化した状況では前景化してきて、どのように自己を形作っていくか、という「ライフ・ポリティクス」が(搾取や抑圧に対抗する「解放のポリティクス」に代わって)大きな課題となる。そのような再帰的な自己のありかたは、モダニティの特質と深くかかわるジレンマに直面させられる。ギデンズがジレンマとして提起するのは以下の4つ*4。
- 統合対断片化:自己の再帰的プロジェクトは、無数の文脈に置かれた出来事や媒介された経験を統合する。それを通して特定のコースが描かれなくてはならない。
- 無力さ対専有:モダニティによって得られるようになったライフスタイルこ選択肢は、専有の多くの機会を提供するが、それはまた無力感をも生み出す。
- 権威対不確実性:最終的な権威が不在である状況においては、自己の再帰的プロジェクトはコミットメントと不確実性のあいだで舵を取っていく必要がある。
- 個人化された経験対商品化された経験:自己の物語は、個人的専有が消費の標準化する力に影響を受けるような状況のなかで構築されなくてはならない。
以上、本書をざっと読んで、再帰的プロジェクトとしての自己に関わる部分を要約した。「経験の隔離」とか「純粋な関係性」とかリスク論にかかわる部分なんかも、アイデンティティの問題と深くかかわっているんだと思うんだけれど、まあとりあえずこんなところで。解説で一度読んで理解するのは難しいので何度も読んでほしい、とあったけれど、たしかに情報量が多くて全然咀嚼しきれていない感じ。図書館で借りて急いで読んだんですが手元においときたいかも。
モダニティと自己アイデンティティ―後期近代における自己と社会
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