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雑誌のゆるさを愛する——『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』感想

映画チラシ『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』5枚セット+おまけ最新映画チラシ3枚 

 『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』をみたので感想。

 フランス、アンニュイ=シュール=ブラゼに編集部を置く雑誌、『フレンチ・ディスパッチ』。編集長が死に、その遺言によって決まったその雑誌の最終号が、映画となって我々に投げ出される。

 ウェス・アンダーソンの新作は、架空の街の架空の雑誌の記事を連作短編風味で語ってみせる。枠物語的な構造、極めて人工的な美意識がむき出しの画面は、いうまでもなく『グランド・ブダペスト・ホテル』の反復であり、同作で培った技術をまた別のお話を語るために使ってみせる。とはいえ、その画面をつらぬく美意識が、物語の構造と仕掛けと完全にかみ合っていた『グランド・ブダペスト・ホテル』と比べると、人工的な画面は「そうでなければならない」ような必然性の支えを欠いており、やや空転しているような気もする。

 とはいえ、見知った顔の俳優たちが入れ替わりたちかわり画面をにぎやかす楽しさ、ある種の脱力感を感じさせるほら話のような物語は非常に心地よい。それはどちらかといえば弛緩した楽しみなのは間違いないんだけど、そういうゆるさこそ、日々読み捨てられてゆく雑誌というメディアの味なのかもしれない。塀の中の画家、学生運動の輝き、そして警察署の料理長の冒険、それらに教訓など読むのは野暮の骨頂というものだろう。巨匠になんてなってやるものかよという飄々たる佇まいが憎いぜ、アンダーソン!