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遠くのきみと一緒に旅する——アニメ『ゆるキャン△』感想

TVアニメ「ゆるキャン△」オリジナル・サウンドトラック

 『ゆるキャン△』、放映時に最後までみるのがもったいなくて最終話だけ未見だったのですが、映画公開前には追い付きたい...ということで、ようやくみました。以下、感想。

 山梨県に引っ越してきた少女、各務原なでしこは、偶然迷い込んだキャンプ場で同じ高校に通う少女、志摩リンと出会う。彼女との出会いをきっかけにキャンプに興味をもったなでしこは、高校で出会った新しい友人たちと、その世界を広げてゆく。

 あfろによる『まんがタイムきららフォワード』連載の漫画のアニメ化。『ヤマノススメ』などにかかわった京極義昭の初監督作品で、アニメーション制作はタツノコプロ、Prodction I.Gの流れをくむC-Station。佐々木睦美によるキャラクターデザインはキュートで、表所豊かなキャラクターたちはこのアニメの大きな魅力だろう。

 女子高生の日常を主題とし、恋愛や家族関係の葛藤などシリアスなドラマが持ち込まれない、所謂日常系的な作風は、『けいおん!』などの記憶を喚起する。この『ゆるキャン△』でも野外活動サークルなる部活が登場するが、『けいおん!』における軽音部ほど特権的な空間ではなく、むしろ部活動の外側へとゆるく開かれた関係性が一つの特徴だろう。

 彼女たちの友人関係は、部活、あるいは教室ないし学校空間を特権的な時空間としては必要とせず、スマートフォンによって接続されることで活力を得ているように思われる。こうした関係性のありかたはいかにも2010年代後半以降の我々のつながりのありようをなんとなく反映しているかも、と感じる。

 そうしたインターネットを介した経験が、友人関係の維持のみならず、この『ゆるキャン△』が主題とするキャンプ、ないし旅の経験をも拡張している点に、大きなおもしろみはある。スマートフォンを介して気軽に距離を突破し、時には助け舟を出すこともできる。眼前にあるこの景色のもたらす驚きを、遠くの友人に伝えることもできる。つねに相互につながりあう関係の息苦しさではなく、ふとした時に、空間的には離れていても「一緒にいられる」ことの喜びへと、このSNS全盛の時代の人間関係を肯定的に読み直して見せた手際こそ、この『ゆるキャン△』のえらさの一つはあるだろう。遠くのきみと一緒に旅する、その喜びこそ我々をとりまく科学技術のもたらした祝福の一つなのだ。

 この『ゆるキャン△』1期の放映された2018年もいまや遠い。流行病が我々を責めさいなむいまにあって、彼女たちが旅をし、その喜びをわかちあうさまはあまりにまぶしい。なんのうしろめたさもなく、日常を気軽に祝福する機会としての旅に出られるようになる日がくるのが、ほんとうに待ち遠しい。

 

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 『よりもい』と同クールに放映されたというのも、なんというかシンクロニシティを感じてよかったっすよね。いずれも、10年代のある種の空気を象徴する作品だと思うので...。

 

amberfeb.hatenablog.com