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映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

活劇と思想——『老人Z』感想

老人Z HDマスター版 [DVD]

 dアニメストアで『老人Z』をみたので感想。過去の作品に手軽にアクセスできるのはほんとサブスクのありがたさだと感じます。以下、感想。

 日本列島。高齢化が進行し、介護が大きな社会問題になっている時代。そんな折、厚生省が肝いりで開発したという最新介護ロボット、「Z-001号機」が発表される。その被験体として選ばれた寝たきりの老人に、介護ボランティアとして接していた看護学生、三橋晴子は、あまりに非人道的にみえるロボット介護のありかたに憤る。そして彼女の実習先の病院に、老人が介護ロボットを通して発信した、助けを求めるメッセージが届き、晴子と友人らは大きな事件に巻き込まれていく...。

 1991年に公開されたオリジナルアニメ映画。大友克洋が原作としてクレジットされ、キャラクターデザインは江口寿史。この大友・江口のビッグネームはのちに映画版『スプリガン』でもタッグを組むが、そこらへんの空気感はよくわからんにゃんね。監督はのちに『BLOOD THE LAST VAMPIRE』をてがけることになる北久保弘之。アニメーション制作はグロス請けで多彩な作品にかかわるA.P.P.P.。

 この作品の最大の魅力は、なんといっても江口寿史のキャラクターがよく動くこと、これに尽きる。30年経っても古びない異様な強度に驚くばかり。最近では2021年に放映された『Sonny Boy』のキャラデザも記憶に新しいところですが、江口寿史的なキャラクター、というのはこの『老人Z』から『Sonny Boy』までまったくぶれていないのがすごい。

 高齢社会、または高度に発達したコンピュータないしAIという主題は、作品を思弁的なものにすることも容易だったように思う。しかしこの『老人Z』はあくまで活劇に徹していて、ある種の思想のために作品を奉仕させるということをしない。それは明白にこの作品の美点ともいえるだろうし、あるいは大友克洋大友克洋たらしめているのは、むしろそうしたある種の徹底した無思想性なのかも思う。

 たとえば『老人Z』と類似のモチーフーー身体の自由のきかない男性が、機械の身体を得て街を破壊しながら疾走し、騒動を巻き起こす——を扱った作品として、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の第2話「暴走の証明 TESTATION」が想起される。『老人Z』があくまでコメディタッチのライトな雰囲気で騒動を描くのに対して、「暴走の証明」は暴走する多脚戦車の正体を探るミステリ仕立てで、ラストももの悲しい手触りを残す、なんとなく高級な感じのする挿話になっている。

 どちらが優れているということではなく、この対比のなかになんとなく作家性が浮き彫りになっている気がするのだ。『攻殻SAC』の神山健治は、のちに『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』で高齢社会を主題に据えるが、その手つきのなかには、無論、『老人Z』のような明るくて野放図な調子はない。それは作家性以上に、高齢社会という問題が切迫したものとして迫っているか否か、という時代性の問題でもあるかもしれないけれど。

 しかし、思想の支えを必要としない作品は強い。それこそが大友克洋の、あるいは演出家としての北久保弘之の腕力のなせるわざかと感動した次第。