『シビル・ウォー アメリカ最後の日』をみたので感想。
アメリカ合衆国から独立を表明した各州により、内戦が勃発した近未来。西部連合、フロリダ同盟とよばれる勢力は、ワシントンD.C. に向かって進軍し、陥落もそう遠くないと思われた。そんななか、ホワイトハウスに立てこもり、ジャーナリストの取材を拒否してきた大統領に、最後にインタビューするため、著名な戦場カメラマン、リー・スミスと知人たちは、陸路1000キロ超の道を踏破し、ワシントンD.C. を目指すのだった。
『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランド監督による、内戦まっただなかのアメリカ合衆国を旅するロードムービー。見知った風景のなかで恐るべきことどもに直面させられる旅路はさながら『地獄の黙示録』アメリカ版か、あるいは伊藤計劃『虐殺器官』がみせたビジョンの再現か。
内戦の原因はいくつかほのめかされる(大統領の3期目、FBI解散など)がさほど深くは触れられず、大統領側も劣勢とはいえある程度の求心力を保っているようだが、政治的な対立軸は明示されず、あくまで内戦のアメリカを地を這うようにすすむジャーナリストたちを、(すべてを見渡す鳥の目ではなく)虫の目で追っていくような映画になっている。
序盤、戦地の近くで休息するなか、銃声が遠くから響き、夜空に火砲の痕跡が輝くさまは、地続きのところでまさしく戦争が起こっているのだと感じさせ、全体としてこのような暗示、ほのめかしが巧みで、内戦のリアリティ感覚のようなものがうまく演出されているように感じられた。
ジェシー・プレモンス演じる赤いサングラスの男の登場場面の、冷や汗がでてくる嫌な感じは白眉で、何を考えているかつかめない、銃を持っている相手との対峙する極限の緊張感が素晴らしかった。その後、死に向かう仲間をのせて、夜の闇、燃え盛る森の火花を散る中、自動車を走らせる場面は、サム・メンデス監督の『ジャーヘッド』の、暗闇のなかで燃え盛る油田を歩く場面に匹敵する抒情性。
そうした静かな場面が印象的な一方、実際に銃火の飛び交うなかに、カメラを手に飛び込む主人公たちを描くシークエンスも緊張感あふれていて素晴らしい。最後、ワシントンD.C. での決戦はどことなくゲームっぽさがありつつも外連味ある攻防が演出され、クライマックスにふさわしい場面になっている。