『セプテンバー5』をみたので感想。
1972年、ミュンヘンオリンピック。オリンピック中継を行っていた衛星放送のTV局、ABC放送。中継がいったん終わり多くのメンバーが帰路に就く中、選手村で立てこもり事件が発生したとの報が舞い込む。本来、政治的な事件は担当ではないはずだったが、リアルタイムで動き出す事態を前に、それを中継し、世界に届けることを決断する。その選択は、いったいいかなる帰結を迎えるのか。
ミュンヘンオリンピックでおこった、「黒い九月」によるイスラエル選手団襲撃、立てこもり事件を、それを報道する衛星放送のクルーにフォーカスして描く。同事件は(というよりもその後の展開が主眼ではあるが)スティーブン・スピルバーグ監督による映画『ミュンヘン』の題材にもなったが、イスラエルによる報復を描いた同作に対して、こちらは徹頭徹尾、リアルタイムで進行する事態を描く。
そのため、基本的にカメラはテレビスタジオのなかを映すので、緊迫した状況は続くもののかなりミニマルな映画という印象になっている。衛星放送をめぐるディテールなどは細かに描写されるし、またなんとか選手村に入ろうと選手になりすましたりといったフィクション顔負けの出来事もあり、そのあたりは見所だろう。
一方で、イスラエルによるガザの虐殺が続く中で素直にこの映画を楽しんでいいものかという葛藤はやはりあり、それがイスラエルを被害者として提示するこの映画に言及することを難しくしているようなところはある。基本的に映画の中で価値判断は提示されないものの、この事件の構図だけでいえばパレスチナがテロリストでイスラエルが被害者であり、それ以上の込み入った関係は説明されない。いま・ここで、それでいいのか、というのはやはり思う。単に、スリリングなサスペンスの題材として受容していいのか、それは非倫理的な態度ではないか、そんなことが頭から離れなかった。