玉木俊明『人に話したくなる世界史』を読んだので感想。
本書は、経済史家の著者による、世界史のなかの流通・交易について触れた短い文章から成る。著者の玉木は(おそらく)イギリス史の大家である川北稔門下で、エマニュエル・ウォーラーステインの世界システム論を批判的に継承し、一般向けの著作も多くものしている。学部生のころ、『近代ヨーロッパの誕生 オランダからイギリスへ』を読んで読書会をしたことが懐かしく思い出される。
同著はけっこう手堅い内容だったが、近年の著者は『先生も知らない世界史』や『物流は世界史をどう変えたのか』のようなキャッチ—なタイトルの本を出していて、本書のタイトルもそういうキャッチーさを感じたので手に取ってみたのであった。
このタイトルから、世界史にかかわるトリヴィアルな雑学本を想起して手に取ると、中身があまりに「ちゃんと」しているので結構面食らうと思う。最初の章で扱われるアレクサンドロスの東征から、ヴァイキングとイスラーム商人の関係、大航海時代などなど、著者の専門である流通史というか、グローバル・ヒストリー的な見方からみた世界史の一断面が誠実に提示されてゆく。全体としては著者の専門であろう近世から近代初期の記述の分量が分厚い。
話題としては著者の専門外のことにも触れているので、そのエクスキューズとしてこのタイトルなのかもしれないが、もっと適切に本書の中身をあらわすタイトルはなかったんかいな、と思わされる。アンリ・ピレンヌやウォーラーステインなどの大家を議論の俎上に載せて批判的に言及していて、ああ現在の研究水準だとそういう批判があるのね、と素直に勉強になったのであった。
一国史的な観点からはフェリペ2世の帝国の全容がかなり想像しづらく、それが彼の治世の評価をみえにくくしている、といった指摘もあり、グローバル・ヒストリーという視角からみえてくるものがクリアに提示されている。また、貿易そのものの利益ではなく「手数料」で儲けることで、経済の規模の拡大がそのまま利益の拡大につながり、安定的に勝者の立場に立てる、すなわち賭けの胴元は強い、というのは別段新奇なことでもないんだろうが、世界史の文脈で語られると結構盲点やったなという感じであった。
おもしろく読んだが、これを話して面白がってくれる人をみつけるのは結構難儀なんじゃないかしら。


