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〈超人〉はそこにいる――會川昇『超人幻想 神化三十六年』感想

超人幻想 神化三六年 (ハヤカワ文庫JA)

 

 読みたい読みたいと思っていた會川昇『超人幻想 神化三十六年』をようやく読みました。いつの間にやら『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』は二期がはじまってるし世界のスピード速すぎる。以下感想。

  「神化」。我々が、「昭和」の代わりに持つかもしれなかった、ある時代の名。その呼び名が選ばれた、我々の生きていた世界とよく似た、しかしはっきりと違った世界。そこでは維新を掲げた青年将校のクーデターが帝都を戒厳令下におくには至らず、また我々が時たま「幻の」という枕詞とともに語る東京五輪が行われ、そして、〈超人〉と呼ばれる人々が、世界に、いや歴史にあいまいな足跡を残していた。

 神化36年。戦争中はあれほど宣伝された〈超人〉の姿を、現実に目にすることは難しかった。そんな時代、テレビ局でディレクターを務め、〈超人〉への憧れを胸に抱き続けた男、木更嘉津馬が〈超人〉の予感を感じ取る時、物語は幕をあける。

 嘉津馬がディレクターを務める人形劇の生放送の最中、突如出現した豹の姿の〈超人〉の攻撃をうけ現場は滅茶苦茶。命これまでと思われた嘉津馬は、しかし気付くと生放送直前のスタジオにいたのであった。ドゥマと名乗った豹の〈超人〉は何者なのか。彼を取り巻くGHQの陰謀とは。そして、時間跳躍とおぼしき経験を嘉津馬にもたらしたのは誰なのか。そうした様々な謎をフックとしたミステリであり、タイムスリップSFでもあり、現実と虚構がないまぜになった偽史ものでもあり、と実に様々な相貌をもつ『超人幻想 神化三十六年』だが、なによりも、フィクションの、フィクションであるがゆえの可能性というか、フィクションを生きろ!と強く叫んでいる物語だと俺は勝手に思って、それが非常に心にきました。

 〈超人〉が結びつけられているものとして、なによりも「戦争」がある、ということは言うまでもない。作中のクライマックスにおける大立ち回り、豹の〈超人〉ドゥマ=谺勲と、恐怖のミイラ男バトラ=神田光との不死身の超人同士の戦いが、戦争中のいざこざの復讐戦として戦われていることに象徴されるように、戦争に狩り出され各地で戦った〈超人〉たちには戦争の影がまとわりつく。かつて會川×水島は『UN-GO』において戦争中に故郷から遠く離れた南方に打ち捨てられた神の情念を掘り返したが、『超人幻想』ではより生々しいかたちで、南方の戦争の記憶が現前する。〈超人〉とはかつての戦争の影でもある。

 とはいえ、嘉津馬にとっての〈超人〉は戦争の影とは別の位相をもつ。彼にとって超人とはまずなにより、ブラウン管の向こう側で輝く存在なのだから。

テレビは、現実とは違う、超人を映し出すものだ*1

  五輪の舞台に立ち、ブラウン管を通して眺められたとき、はじめて父は超人として嘉津馬の前に現前する。テレビを通して〈超人〉を発見した嘉津馬は、たぶん、テレビアニメ(ドラマでも映画でもなんでもいいわけだけど)を眺めて日々〈超人〉と出会う可能性に開かれている我々の似姿なくてなんなのだ*2

特別な力を持ち、その力を無垢な弱い存在を守るために捧げようと日夜努力する、<超人>とはそういうものだ、という幻想を持つ権利。もっといえば、誰でも<超人>になることを夢見る自由。それは本来誰にも奪えるものではない。それなのに嘉津馬も、誰もが、時に失いかける。奪っていくのはいつだって、世界じゃない、自分だ。*3

 実在するかもわからない、幻燈の像。それでもその幻想を信じ続ける権利はいつでもあるのだし、本来誰にも奪うことなどできはしない。そうである限り、我々は〈超人〉と出会うことができるのだと、そういうことなんだと思いました。その信仰の極北に、優れた作品を世に知らしめるためならば東京を灰燼に帰しても、無数の死を積み重ねることも厭わない、という 嘉津馬の倒錯はある、という気も。

 

 『超人幻想 神化三十六年』、ありえたかもしれない歴史の豊かさを示唆しているようなディティールがすごい好きで、漫画の神様は手塚治虫という名前じゃなかったかも、いや男でもなかったかもしれないぜ、とか、平井太郎江戸川乱歩の20面相ってのが二・二六事件を防いでたのかも、みたいな、そういうフィクションと現実がまざりあった世界がすごいいいなーと。アニメもみます、はい。

関連

  アニメ1期感想。

 

 以前映画『バクマン。』をみたときも近しい感覚を得た、という気がします。

 

 

 

 

 

なんというか、フィクションへの距離感がすごくナデシコ感を感じたというか。「ちなみに僕の好きだったアニメでは、ちゃーんと敵にも味方にも正義があった。 もっといろんなアニメを見るべきだったね」ってことだと思います、たぶん。ほんとか?

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UN?GO 因果論 (ハヤカワ文庫JA)

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  嘉津馬のモデルは、放送作家で人形劇→有名小説家ってライフコースから井上ひさしを想起したりしたんですがどうなんだろうか。モデルうんぬんより著者自身の思いを投影した存在という側面のほうが大きい気はしますが。

 

2016/04/03追記

 嘉津馬のモデルは辻真先さんだそうです。あとがきに謝辞があったのにも関わらず検索とかしなかった自分の愚かしさに赤面。コメントを通してご教示いただいた鈴木ピクさんありがとうございました。

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*1:p.31

*2:あとがきから察するに、會川の世代の体験でもあるのだろうけれど。

*3:p.341

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