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不死身のフィクション――『LOGAN/ローガン』感想

ポスター/スチール 写真 A4 パターン5 LOGAN/ローガン 光沢プリント

 『LOGAN/ローガン』を字幕版でみました。前評判の高さに偽りなしの傑作ではなかったかと思います。以下感想。

  リムジンのなかで横たわる男。そのリムジンから、めぼしいパーツを奪い去ろうとする奴らが数人。横たわっていた男は流石にたまりかねそれを止めに入る。銃声。しかしその銃声は、男の命を奪いはしなかった。かつてウルヴァリンと呼ばれた不死身の男は、その不死身さにまかせて強盗どもを八つ裂きにする。ミュータントたちはもはや世界から姿を消し、未来のアメリカは荒廃の極みにあるように思われた。その絶望の世界で、あまりに長く生きた男は自らの死期を悟りつつあった。その最後の戦い。少女と老人を連れ、北へと向かう。かつて物語のなかに描かれたユートピアを目指して。

 『X-MEN』の実写シリーズの歴史は、この17年のあいだに作品を積み重ねていくなかで、決して平たんではない道を歩んできた。別のヒーローを主役に据えた作品群が相互に連関しあい、畳みかけるように公開され続ける『マーベル・シネマティック・ユニバース』の作品群があまりに整然とサーガを紡ぐ一方で、同じマーベルコミックスの原作をもちながらも、『X-MEN』はおおざっぱで、悪く言えばとっちらかっているように思える。

 『ファースト・ジェネレーション』などの突出した快作はあったにせよ、時系列の混乱や作品内での過去作品の否定などなど諸々の要素がシリーズ全体の印象をとっちらかったものにしているような気がするのだが、そのとっちらかりぶりこそが、過去作の直接的な続編ではない、パラレルな世界のなかでウルヴァリン=ローガンが血みどろの苦闘を繰り広げるこの『LOGAN/ローガン』すら許容する異様な懐の深さを生じさせたとするならば、今まで実写版『X-MEN』が辿ってきた道は決して無駄ではなかったのだろう、と思う。かつての圧倒的な力を失ったが、それでもあがき、もがき、戦い続けるローガンの姿に、これまでのシリーズの歩みを重ねるのはいささか意地の悪い見立てのような気がするが、その無様さこそが、この作品の核でもあるように思われるのだ。

 これまでのシリーズとキャラクター的には連続性をもちつつも、この『LOGAN/ローガン』は今までの実写版『X-MEN』と決定的な断絶がある。この作品は、コミックを原作にもちつつも、そのコミック原作による映画であることから自覚的に遠ざかっている、そのことに明確な言及がなされる。何がコミックとの距離を生み出しているのかといえば、端的に言えば「人が死ぬ」、正確に言い換えるならば人が簡単に、凄惨に死ぬこと、これに尽きる。冒頭、チンピラ相手に立ち回るウルヴァリンの姿から、すでにそうした世界が予告されている。アダマンチウムの爪が、ここまで凄惨に、あっけなく、当然のように人体を切り裂き破壊したことがあっただろうか。この冒頭のシークエンスで、私たちは最早この世界はコミック的な世界ではないのだと予感する。その不吉な予感はフィルムにべったりとはりつき、そしてことごとく成就する。そうしてそうした世界であるからこそ、ローガンとローラの「死なない」という異能が際立つ。

 とはいえ、コミック的なるものとは一線を画しつつも、それは現実とは異なるおとぎ話として完全に否定されるわけではない。むしろ『LOGAN/ローガン』の物語はそうしたフィクションというものを救おうとする試みでもある。血みどろの世界での絶望的な闘争。消え去りゆくミュータント。力の制御を失いつつある師。その師によって引き起こされたカタストロフによって死んでしまったことが示唆されるかつての仲間。そのような世界でなお、ローガンの遺伝子上の子であり、不死身の能力を継承した少女ローラは、希望を失っていないようにみえる。圧倒的な戦闘力で追手を葬り、ひたすらに沈黙を貫くその少女のひたむきさは、彼女が不死身であること、無比の強さをもつことを根拠にしているわけではない。

 彼女が希望を失っていないのは、約束を交わした仲間たちが存在するからであり、その約束の徴が、現実とは異なる世界でヒーローたちの活躍を描くコミックスなのだ。フィクションこそが、あらかじめ失われた子供たちにとっての救いであり、だからコミック的なるものとは一線を画した世界を舞台にしているにも関わらず、いや、だからこそ、むしろフィクショナルなヒーロー譚を救う物語が語られているのである。そしてコミックのみならず西部劇というアメリカ映画の一種の祖型までをも露骨に作品に内在させたことは、本作の準拠するフィクションの射程をアメコミから映画(史)にまで拡大させ、強烈な文脈を作品に付与する。

 そうした私たちの理想を描いた被造物が称揚される一方で、人の手はまったく異なるものどもを生み出しもした。科学の結晶たる異能の異形と、アメコミの、あるいは西部劇の決闘という構図から、さらに壮大な見立てを引き出せそうな気がするが、それはひとまず措こう。かつて不死だったヒーローが不死性をはぎ取られてなお、その精神においては不死であり続ける、その魂が継承される限りヒーローは、あるいはフィクションは不死身なのだと、絶望の世界でそう語る墓標を打ち立てたこの『LOGAN/ローガン』は、『X-MEN』シリーズの、あるいは映画史の、あるいはフィクションそのものの救済なのだろうと思う。

 

 

ウルヴァリン:オールドマン・ローガン (MARVEL)

ウルヴァリン:オールドマン・ローガン (MARVEL)

 

 

 

 

ウルヴァリン:バック・イン・ジャパン

ウルヴァリン:バック・イン・ジャパン

 

 

 

 

 『ウルヴァリン: SAMURAI』は正直、ミュータントがあんまり活躍しないことに不満を覚えたりしたのですが、この『LOGAN/ローガン』はほぼミュータント不在にもかかわらずそういう不満はちらりともよぎりませんでした。

 

【作品情報】

‣2017年/アメリカ

‣監督:ジェームズ・マンゴールド

‣脚本:マイケル・グリーンスコット・フランクジェームズ・マンゴールド

‣出演

  • ローガン / ウルヴァリン・X-24 - ヒュー・ジャックマン、日本語吹替 - 山路和弘
  • チャールズ・エグゼビア / プロフェッサーX - パトリック・スチュワート、日本語吹替 - 麦人
  • ローラ / X-23 - ダフネ・キーン、日本語吹替 - 鈴木梨央
  • ドナルド・ピアース - ボイド・ホルブルック、日本語吹替 - 小川輝晃
  • キャリバン - スティーヴン・マーチャント、日本語吹替 - 川島得愛
  • ガブリエラ・ロペス - エリザベス・ロドリゲス、日本語吹替 - 田野めぐみ
  • ザンダー・ライス博士 - リチャード・E・グラント、日本語吹替 - 水内清光
  • ウィル・マンソン - エリク・ラ・サル、日本語吹替 - 天田益男
  • キャスリン・マンソン - エリゼ・ニール
  • ネイト・マンソン - クインシー・ホウス

 

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