宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2016年11月に読んだ本と近況

ぼちぼち元気でいます。

先月のはこちら。

2016年10月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

失われた時を求めて〈1 第1篇〉スワン家のほうへ (ちくま文庫)

失われた時を求めて〈1 第1篇〉スワン家のほうへ (ちくま文庫)

 

  先月末から、ちくま文庫版でプルースト失われた時を求めて』にチャレンジし始めました。現在3巻を読んでいますがマジで終わりがみえないのでつらい。しかしここに書き留めておくことで諦めねえぞアピールをしていきたい。

 

読んだ本のまとめ

2016年11月の読書メーター
読んだ本の数:26冊
読んだページ数:8652ページ
ナイス数:181ナイス

https://elk.bookmeter.com/users/418251/summary/monthly

 

暴力の人類史 下

暴力の人類史 下

 

 ■暴力の人類史 下

 下巻では、主に心理学的な観点から、暴力の誘発要因となる動機(「五つの悪魔」)と、暴力の抑制要因になる機能(「善なる天使」)について論じたのち、暴力を減少させてきた歴史的な力について考察する。本書のデータと主張は、近代的なるものを擁護しそのポジティブな面を救い出すものであるように思われる。とりわけ政府の力によって暴力は著しく規模も頻度も低下した点が、人類史上の画期として示されていたような印象。とにかく細部の議論が面白く、退屈とは無縁に長い旅を終えられたなという感覚がある。

読了日:11月01日 著者:スティーブン・ピンカー

https://elk.bookmeter.com/books/9253340

 

「学力」の経済学

「学力」の経済学

 

 ■「学力」の経済学

 ご褒美で釣ることで学力は上がるのか?「褒めて伸ばす」のは正しいのか?ゲームは学力を下げるのか?などなどの疑問に経済学的な観点から答える。実験などによって得られた科学的根拠に基づいて教育政策は行われるべきである、というのが著者の立場。ご褒美で釣るにせよ、褒めるにせよ、ご褒美の与え方、褒め方で学力に与える影響は異なる、というのはなるほどなーという感じ。子供の学力に影響を与える教員の質を高めるために教員免許は撤廃したほうがよいのではという提案があったが、それ以前に教員という仕事を魅力的なものにしないとダメでは。

 読書メーターの感想をみてみると馬鹿の一つ覚えみたいに「教育にもエビデンスが大事!!!!」みたいなやつが百出していてうんざりするのだけど、3秒後にはみなさんそんなこと忘れてるんじゃないのって感じ。本書がおもしろいのはその姿勢じゃなくて個々の個別研究の結果でしょうに。
読了日:11月02日 著者:中室 牧子
https://elk.bookmeter.com/books/9757763

 

 ■小さな倫理学入門 (慶應義塾大学三田哲学会叢書 ars incognita)

 偶然性、〈私〉、欲望などなどのトピックを取り上げた20の断章からなる。一息で読めそうな分量だったので図書館でぱらぱらとページをめくったのだが、そういう読み方よりは手元に置いてちまちまと読み返したりすることが、この本との適切な向き合いかたなのかなという気がした。眠りの表象不可能性の話がとりわけ印象に残った。
読了日:11月03日 著者:山内 志朗
https://elk.bookmeter.com/books/9857745

 

歴史の歴史

歴史の歴史

 

 ■歴史の歴史

 1980年代から2000年代にかけて書かれた論文をまとめたもの。史学史から暦、地図、身体などなど扱われている分野は多岐にわたり、一冊通読するよりは興味のある箇所を適宜拾い読みしていくような使い方をするべき本なのだろうなという感じ。その点、岩波書店から出ている所謂講座本に書かれたものなどが多く、言及対象の研究史をさらって整理してくれているような論文中心で大変使い勝手はよさそう。冒頭の主観/客観をめぐる歴史学の歩みなんかの文章はもっとはやくに出会いたかった。
読了日:11月03日 著者:樺山 紘一
https://elk.bookmeter.com/books/8799376

 

社会学の歴史I--社会という謎の系譜 (有斐閣アルマ)

社会学の歴史I--社会という謎の系譜 (有斐閣アルマ)

 

 ■社会学の歴史I--社会という謎の系譜 (有斐閣アルマ)

 「社会学者たちがいったいどのような「謎」を社会のなかに発見し、それとどう格闘してきたか」をたどってゆくことで語られる社会学史。二巻構成で本書はヨーロッパにおける社会学の始まりから、第二次大戦前後のアメリカの社会学までが扱われる。「謎」に着目することで社会学者の問題意識をクリアカットに示しているという感じがして、それが類書が少なくないなかで本書のもつ特有の魅力なのかなと感じる。図書館で借りて急ぎ足で読んでしまったのだけど、手元に置いてまたじっくり読みたいと思える本だった。
読了日:11月04日 著者:奥村 隆
https://elk.bookmeter.com/books/9077812

 

メディアと知識人 - 清水幾太郎の覇権と忘却

メディアと知識人 - 清水幾太郎の覇権と忘却

 

 ■メディアと知識人 - 清水幾太郎の覇権と忘却

 清水幾太郎を、マスメディアを活躍の場とするタイプの現代の知識人の原型と見立て、その遍歴をたどる。庶民性とインテリ性とを使い分けて、インテリに対しては庶民を根拠にひっくり返しを試み、庶民に対してはインテリとして啓蒙的に振る舞った清水の経歴は、そのように総括されるとなんというか日和見主義的な印象を免れないなという感じ。インテリに対するひっくり返しの戦略が指導教官との軋轢を生み、東大教授へのキャリアパスを断たれたエピソードなんかは特に印象に残っている。

 竹内の仕事のなかでは、『丸山眞男の時代』と対を成すような本なのではないかなという印象。

丸山眞男の時代―大学・知識人・ジャーナリズム (中公新書)

丸山眞男の時代―大学・知識人・ジャーナリズム (中公新書)

 

 読了日:11月05日 著者:竹内 洋

https://elk.bookmeter.com/books/5164295

 

零の発見―数学の生い立ち (岩波新書)

零の発見―数学の生い立ち (岩波新書)

 

 ■零の発見―数学の生い立ち (岩波新書)

 数学史の展開を簡潔に記した「零の発見」と「直線を切る」の二編の文章からなる。著者は「数学を材料とした通俗的読物集」だと冒頭で述べるが、なんというか受験以来数学から離れて久しい素人にとっては、普通に専門的なテクストを読んでる気分になった。戦前に書かれたとは思えないほどすらすら読み通せてびっくりしたのだけど、「直線を切る」のほうはいつの間にやら議論においていかれた感じあり。
読了日:11月06日 著者:吉田 洋一
https://elk.bookmeter.com/books/479715

 

日本の一文 30選 (岩波新書)

日本の一文 30選 (岩波新書)

 

 ■日本の一文 30選 (岩波新書)

 主に小説の印象的な一文を取り上げて、それにまつわる解説やら四方山話やらを語るエッセイ。いわゆる純文学とみなされる作品がチョイスされていることが多い印象。著者の編集者時代の思い出話が結構出てくるのだけど、文学史上の作家もまた生身の人間だったんだなーみたいな頭の悪い気付きを得た。
読了日:11月07日 著者:中村 明
https://elk.bookmeter.com/books/11167285

 

イギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫)

イギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫)

 

 ■イギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫)

 イギリス史の知見から、現代日本の歴史的位置や社会の抱える問題に対する示唆を与えるような雰囲気のエッセイ集。現代日本は結局のところ、この文章が書かれたバブル崩壊後の延長線上にあるのだな、というのが一読した印象で、だから時評的な装いがあるのにも関わらず本書の価値は減じていないように思う。イギリスが辿ってきた繁栄と衰退歴史は、いずれにしても日本の歴史的な状況を考察する上で有益である、という著者の姿勢を感じるのだけど、それは我々が外国史を学ぶ意義にもつながってくるよな、と思う。
読了日:11月08日 著者:川北 稔
https://elk.bookmeter.com/books/7967984

 

 ■知的トレーニングの技術〔完全独習版〕 (ちくま学芸文庫)

 研究のための心構えやノウハウを説いたハウツー本。心構えみたいな抽象的な事柄から極めて具体的な思考法や執筆法まで、なんというか読んでるだけでなにか「やれそう」な気がしてくるのですごい。本書が出たのは80年代で、それ以降も論文の書き方などの指南本はたくさん出ているしそのなかに素晴らしい本もあると思うんだけど、本書は80年代に書かれたなりの時代の制約を感じさせる記述もある一方で、未だ新鮮さを保っていると感じられるセクションも少なくなく、なんというか時の試練に見事に耐えてるという感じはする。
読了日:11月10日 著者:花村 太郎
https://elk.bookmeter.com/books/9809303

 

沿線風景 (講談社文庫)

沿線風景 (講談社文庫)

 

 ■沿線風景 (講談社文庫)

 主に東京近郊ぶらり旅の旅行記に、その土地と絡めり絡めなかったりの書評が付される。これまで読んだ原の鉄道本はマニアックな話題になると全然ついて行けなかったのだけど、これは鉄道雑学というよりは土地の風景から連想される事柄をつらつらと書き連ねてあるという印象で、見知った土地が結構扱われていたこともあってあっという間に読み進めてしまった。行く先々で美味しそうに蕎麦をすするので、旅行に行って蕎麦すすりたさが湧いてくる。
読了日:11月10日 著者:原 武史
https://elk.bookmeter.com/books/6304824

 

通勤の社会史 (ヒストリカルスタディーズ17)

通勤の社会史 (ヒストリカルスタディーズ17)

 

 ■通勤の社会史 (ヒストリカルスタディーズ17)

 19世紀において始められた、職場と家とを往復する「通勤」は、どのように社会を変えていったのか。通勤の開始から現代までを辿った本書は、通勤の変化を追った訳書のタイトル通りの「通勤の社会史」であると同時に、通勤という観点から眺められた近現代史そのものでもある。通勤によって郊外化が進んだという大筋は同じでも、通勤の手段によってアメリカ、イギリスそれぞれの郊外化の様相は異なっていたこと、自動車登場以前の馬車の時代からある種の環境問題(馬の糞尿、死体)は発生していたことなどの挿話が特に印象に残っている。
読了日:11月11日 著者:イアン・ゲートリー
https://elk.bookmeter.com/books/10910416

 

 ■もしリアルパンクロッカーが仏門に入ったら (ちくま文庫)

 パンクロッカーが謎の老人に導かれ釈尊から龍樹、日蓮などなど仏教史上の人物たちと対決する形式で書かれた仏教入門。くだけた語り口、対話形式の箇所が挿入されるあたりなど、解説でも指摘されるように往時のテキストサイトのノリを感じさせる。そのおかげか仏教思想の展開の流れをなんとなくわかったきになれた。筆者の私見をそれと断った上で直裁に述べているあたりも、本職の人間にはできないよなーと。
読了日:11月12日 著者:架神 恭介
https://elk.bookmeter.com/books/7083120

 

史記を語る (岩波文庫)

史記を語る (岩波文庫)

 

 ■史記を語る (岩波文庫)

 司馬遷史記』について平明に解説する。その成り立ちからどのように読まれてきたのか、そしてそこから見えてくる社会の像とはいかなるものなのか、それを流れるように語っていく語り口が流石大家という感じ。とりわけ印象になかったのは、司馬遷その人を同じ歴史家として眺めているというか、自身の歴史家像と司馬遷とを重ねるように語っているように感じられること。それと中国古代には市民社会的なるものがあったのでは、という見立てはなんというか目から鱗という感じ。
読了日:11月14日 著者:宮崎 市定
https://elk.bookmeter.com/books/504508

 

底辺女子高生 (幻冬舎文庫)

底辺女子高生 (幻冬舎文庫)

 

 ■底辺女子高生 (幻冬舎文庫)

 自身の「底辺」だった高校生活を振り返るエッセイ。入学から卒業までの道筋をなんとなく辿るような構成になっていて、いろんな悲喜こもごもを経て至るラストの卒業式の挿話は結構感情を揺さぶられた。学校という場における「屋上」をめぐる話なんかが特に印象に残っていて、そういう居場所があったことってのがなんにせよ自分の思い出を救ってくれるのかな、なんてことを思ったりする。
読了日:11月14日 著者:豊島 ミホ
https://elk.bookmeter.com/books/576635

 

 ■大きらいなやつがいる君のためのリベンジマニュアル (岩波ジュニア新書)

 いままさに学校のなかでつらい目に遭っている中高生に語りかけ、どのような姿勢で生きていったらいいのかを示す「マニュアル」のような体裁で書かれているが、それ以上に豊島ミホという作家が自身の辿った道を総括する個人史的な告白としても読める。自身の書いた青春小説群を、「相手のルール」に合わせて自分のやりたいことを曲げて書いたというふうに見立てているけど、それを知ってから読み直すと結構読み方が変わるような感じもする。
読了日:11月15日 著者:豊島 ミホ
https://elk.bookmeter.com/books/9726771

 

失われた時を求めて〈1 第1篇〉スワン家のほうへ (ちくま文庫)

失われた時を求めて〈1 第1篇〉スワン家のほうへ (ちくま文庫)

 

 ■失われた時を求めて〈1 第1篇〉スワン家のほうへ (ちくま文庫)

 語り手の意識が幼い頃の想い出に没入し、やがてその想い人らしき人物の父親スワンの恋が語られる。いくつもの読点が挟まれた長い一文に最初は面食らったが、その独特の呼吸に慣らされて次第に最早これ以外の語り口があり得るのかとすら感じてくる。語り手の執拗な周囲の描写、飛躍し拡散する回想はその息の長い一文によって奇妙なトリップ感を生み出していて、気分が乗ってくると滅茶苦茶に没入できた、という気がする。いつまでかかるかわからないけど、「見出された時」に至るまでこの語りに付き合っていきたいなと思う。
読了日:11月16日 著者:マルセル プルースト
https://elk.bookmeter.com/books/485108

 

翻訳はいかにすべきか (岩波新書)

翻訳はいかにすべきか (岩波新書)

 

 ■翻訳はいかにすべきか (岩波新書)

 翻訳の実践について、具体的に例文を引きながら語る。二葉亭四迷の翻訳実践から語られ始めたかと思えば、いつのまにか既存の翻訳が原文を「訳殺」していることを糾弾する調子が全体を覆うようになり、アップダイクや『ユリシーズ』の既存の翻訳と自身の翻訳とを対決させて成敗するみたいな感じになって大層おもしろかった。おもしろかったのは僕にとってあくまで翻訳が他人事だからで、この調子でボロクソにされたら大層肝が冷えるだろうなと思う。しかしまあ、言葉遊びを翻訳することに執念を注ぐ著者の姿勢にはぶっ飛ばされる。

 しかし『ユリシーズ』完訳を成し遂げる前に亡くなってしまったことを惜しむ気持ちがますます強くなった。
読了日:11月17日 著者:柳瀬 尚紀
https://elk.bookmeter.com/books/531400

 

ぼくらの民主主義なんだぜ (朝日新書)

ぼくらの民主主義なんだぜ (朝日新書)

 

 ■ぼくらの民主主義なんだぜ (朝日新書)

 朝日新聞に掲載された時評をまとめたもの。東日本大震災の記憶が非常に生々しい期間に書かれたものなので、その雰囲気が強く感じられると同時に、そこから随分と時間が経ってしまったなというのが正直な感触。その都度様々なテクストを引用・紹介するので、当時の実感以上のものが感じられるという意味では今読む意味もあるのかなって気はする。

 しかしまあなんというか語り口がお手本のような紋切り型の左翼って感じで、どうにもなーという。
読了日:11月19日 著者:高橋源一郎
https://elk.bookmeter.com/books/9712908

 

科学の発見

科学の発見

 

 ■科学の発見

 古代ギリシャの時代から、その約2000年後の科学革命の時代までの科学の歩み。科学革命の時代において現代科学の方法が「発見」された、という見立てをもとに、過去の「科学者」と見做されている人物がいかに現代科学とかけ離れた思考と実践を行なっていたのか、ということの記述に力点が置かれているという印象。とはいえ一方的に過去の実践を断罪するのではなく、当時の観測結果をもとになんらかのモデルを構築したプトレマイオスやティコ・ブラーエなんかは(アリストテレスデカルトと対照的に)高く評価していて印象的。
読了日:11月23日 著者:スティーヴン ワインバーグ,大栗 博司
https://elk.bookmeter.com/books/10904259

 

 ■小説の読み方、書き方、訳し方 (河出文庫)

 小説の書き方、読み方、訳し方について語った対談。どちらかといえば高橋源一郎のほうが前面に出ている印象があるが、いずれにせよ、プロがどのようにテクストと向き合っているのか、その一端を垣間見れた気になれておもしろかった。現代アメリカ小説やニッポンの小説が頻繁に引き合いに出されるので、ある種のブックガイド的な使い方もできるよなーという感じ。
読了日:11月23日 著者:柴田 元幸,高橋 源一郎
https://elk.bookmeter.com/books/6590677

 

 ■夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです

 90年代から00年代に行われたインタビューをまとめたもの。『アンダーグラウンド』から『1Q84』出版前夜の時期に相当するので、前後に出版された小説の自著解題的な趣のあるインタビューが多いような印象。走ることとそれにかかわる身体性が重要であること、長編小説を書くために自分の中の地下室に沈降するような作業がなされること等等が繰り返し語られてそれが心に残っている。
読了日:11月26日 著者:村上 春樹
https://elk.bookmeter.com/books/626938

 

失われた時を求めて〈2 第2篇〉花咲く乙女たちのかげに 1 (ちくま文庫)

失われた時を求めて〈2 第2篇〉花咲く乙女たちのかげに 1 (ちくま文庫)

 

 ■失われた時を求めて〈2 第2篇〉花咲く乙女たちのかげに 1 (ちくま文庫)

 この巻で語られるのは、スワンの娘ジルベルトへの恋とその挫折、バルバックでの療養の日々の始まり。ジルベルトへの語り手の感情は、「スワンの恋」の反復にも感じられ、もっと幸福な道があったはずなのにどうしてか幸福でない方向へと向かってしまうそのままならなさの描写が延々と続き、結構しんどかった。この語り手のとりとめのない感情の間歇に付き合うにはこちらも相応の構えが必要だと思うのだけれど、相変わらず気分が乗らないときは目が字の上を滑るだけの感じになっちゃう。
読了日:11月28日 著者:マルセル プルースト
https://elk.bookmeter.com/books/485109

 

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)

 

 ■クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)

 天才たちが集められた孤島で起こった殺人事件に、語り手とその友人が挑む。読み始めは饒舌のための饒舌がちょっとあれだったけど、読み終えてみると文体自体にはそれほど癖があるわけでもないのかなという感触。タイトルが内容を表すというか、トリックが明かされてああなるほどなってなるのが気持ちよかった。最後の最後、真の名探偵によってゲーム自体がひっくり返った感じだけれど、シリーズ通してその天才と「ぼく」とが対峙するような感じになるのだろうか。

 恥ずかしながら初西尾維新
読了日:11月28日 著者:西尾 維新
https://elk.bookmeter.com/books/580762

 

 ■ニセドイツ〈1〉 ≒東ドイツ製工業品 (共産趣味インターナショナル VOL 2)

 旧東ドイツの工業製品をカタログ的に紹介している。前半に置かれている「共産主義車」をめぐるエピソードはじめ、社会主義体制というのがいかに生活全般を統御しようと試みていたのかがなんとなく伝わってくるような感じ。社会主義といういわば伝統とは切れた体制であっても、時にドイツ的な伝統を利用していた、というのがあとがきで述べられているけれど、その意味で社会主義国も近代的国民国家の枠組みから自由ではなかったのだなーと思ったり。
読了日:11月29日 著者:伸井 太一
https://elk.bookmeter.com/books/424677

 

 ■ニセドイツ〈2〉≒東ドイツ製生活用品 (共産趣味インターナショナル VOL 3)

 2巻は東ドイツ市民の生活を彩った生活用品や雑貨類が紹介される。シュタージの影がちらつく監視社会の日常はさながらSFの感があるけど、トイレットペーパーがめちゃくちゃ粗悪だったことやら学食が不味いこととか、そういう点での生活水準の低さがなによりきつそうだなというのが資本主義社会に毒された僕の感想。1巻もそうだったけど全編で繰り広げられる共産主義的駄洒落が徹底的で、これよくやりきったなと。
読了日:11月29日 著者:伸井 太一
https://elk.bookmeter.com/books/376393

 

近況

 今月観た映画はこんな感じ。

戦下の日常を生きる――映画『この世界の片隅に』感想 - 宇宙、日本、練馬

魔法世界の奥行き――『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』感想 - 宇宙、日本、練馬

音とタイムリミット――『聖の青春』感想 - 宇宙、日本、練馬

 

配信サービスでみたのはこんな感じ。

一つの映画、無数の人生――『City of God – 10 Years Later』感想 - 宇宙、日本、練馬

 ほか、『クラウドアトラス』もめちゃくちゃよかった。

アニメは『この美』、そして今月はなにより『喧嘩稼業』ですよ。

宇佐美さんの必敗の運命――『この美術部には問題がある!』感想 - 宇宙、日本、練馬

反復される/裏切られる過去――木多康昭『喧嘩稼業』69話感想 - 宇宙、日本、練馬

 

久しぶりにゲームを最後までやりました。

ふたたび反逆の神話――『ペルソナ5』感想 - 宇宙、日本、練馬

 

 それと、さる11月23日に行われた文学フリマで頒布された『アニメクリティーク』vol.5.5、『君の名は。』特集に寄稿させていただきました。編集のNagさん本当にありがとうございました。お手に取ってくださった皆様にも感謝の念が堪えません、はい。

nag-nay.hatenablog.com

 

来月のはこちら。