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空虚に至る旅――『91Days』感想

91Days  VOL.7 [Blu-ray]

 Netflixで『91Days』をみていまして、数週間くらい視聴が滞っていたのですが今日一気に最終回までみました。以下簡単に感想を書き留めておきます。

  1920年代、アメリカ。第一次世界大戦後、自動車の爆発的な普及に象徴されるように、大衆消費社会が全社会的に展開した時代。そうした消費文化の光のなかで、闇もまた一層深くなり、そこに獣たちがうごめく。禁酒法によって巨大な市場を得、闇に生きる獣たちもまたこの世の春を謳歌する。これはそうした獣たちの暗闘の物語。家族を殺され、その復讐を誓う男の物語。

 悪名とどろく巨悪アル・カポネと、彼に対抗する捜査官たちの戦いを描いた『アンタッチャブル』を筆頭に、この時代を描いたフィクションは無数に存在するわけだが、『91Days』はそうした先行する作品の「お約束」をうまく踏襲し、なおかつそれらを咀嚼しTVアニメというフォーマットに最適化している、と感じる。マフィア同士の泡張り争い、首領の跡目をめぐる息子たちの葛藤、そして侵入者によって崩れてゆく組織。そうした手垢にまみれた道具だろうが、上手く使ったら堅実かつスリリングな作劇が可能なのだなということを改めて思い知らされた。

 先行する作品といえば、アニメーション制作を担当する朱夏の前身であるブレインズ・ベース第三制作部がかつて手掛けた『バッカーノ!』ときわめて共通するルックが印象的だった。ぱっと確認した感じではメインスタッフはそれほど共通していないにも関わらず、キャラデザから背景まで、同じ時代を扱っていることもあって強い連続性を感じて、もしかして『バッカーノ!』再アニメ化かなんかの企画が流れてこのオリジナル作品に結実したのでは、とか思ったんですが、以下のインタビューを読む限りそういうことでもなさそうです。

 

 上の記事で驚くのは、スタッフは意識して『バッカーノ!』をみなかった、というところなのだけれど、『バッカーノ!』と比べると、『91Days』のシリアスでペシミスティックな雰囲気はより際立つ。『バッカーノ!』がタランティーノあるいはガイ・リッチー的な騒々しい作劇で楽観的なドラマを語っていたのに対し、『91Days』はよりオールドファッションなマフィア映画の印象に回帰しているような感じを受ける。

 主人公アヴィリオ・ブルーノ=アンジェロ・ラグーザがおおむね思うとおりに復讐劇を遂行していき、そして宿敵の一人ネロ・ヴァネッティにその手で弟殺しを遂行させる7話までの展開と、それ以降、アヴィリオもまたネロと同じくその手で「家族」を殺さなければならなくなる終盤、そして復讐劇の完遂ではなく、同じ運命を背負ったもの同士としてのアヴィリオとネロの旅を描く最終話と様々な先行作品の影をちらつかせつつその都度相貌を変化させて、91日間の物語は語られた。復讐は空虚だという何万回も繰り返された決まり文句があるが、その空虚さにまで登場人物を到達させた作品がどれだけあったか。

  たとえば、愛するものを奪われた男の復讐劇を描いた『ガンⅹソード』は、その復讐という個人的な願望を徹底的に肯定し、そのカタルシスに溢れていたわけだが、その復讐の旅は、彼がかけがえのないものを喪失した空虚から出発し、しかし旅路のなかでその空虚の傍らに豊かさとしかいいようのないものが積み上げられていく、そういう物語であった。

 一方、『91days』はというと、空虚にはじまり、そして復讐でしか内面を満たすことのできない男の旅は、その空虚なる器を満たす可能性をどんどん殺ぎ落としていき、そして空虚へと至る。砂浜に残された足跡が消え去るがごとく、この悪徳の時代に生きた男の痕跡を知るものはもはやなく、唯一それを知る男も遠くない将来虚無へと至るであろうことが示唆される。復讐しかない男の物語はこうして歴史の廃墟に消えてゆく。

 復讐を復讐劇のカタルシスに浸らせた後、それを肯定もせずにアンチ・クライマックス感あふれる場所に彼らを導いた、その大胆極まるラストがぼくはとても好きで、先行する作品のコラージュに堕すことなく、独自の作品世界を構築したという点で、『91days』も『バッカーノ!』同様、この作品にしかない輝きを得た、と思う。

 

  しかしソフト版で13話が制作されるみたいですが、この物語のあとになにをつけ足しても蛇足になってしまう気がするのだけど、果たして。

 

 

 

 

 

バッカーノ! Blu-ray Disc BOX

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【作品情報】

‣2016年

‣監督: 鏑木ひろ

‣原作: Vanetti Family

‣シリーズ構成・脚本: 岸本卓

‣キャラクターデザイン:岸友洋

美術監督小倉宏昌

‣音楽:海田庄吾

‣アニメーション制作:朱夏