ぎりぎりでいつも生きていきたい我々としてはな。
先月のはこちら。
印象に残った本
印象に残っているのはしばらく寝かせておいた米澤穂信『いまさら翼といわれても』でしょうか。
ほか、『ハケンアニメ!』、『罪の声』も印象的でした。
読んだ本のまとめ
2017年6月の読書メーター
読んだ本の数:26冊
読んだページ数:7229ページ
ナイス数:304ナイス
■荒木飛呂彦の超偏愛! 映画の掟 (集英社新書)
サスペンス映画の魅力をひたすらに語る。「男泣きサスペンス」など独自のカテゴライズに基づいて映画の魅力を語り、時折自作のインスピレーション元を明かしたりしているあたりが本書の魅力か。『ヒート』やイーストウッド作品語りの熱量が印象的で特に『ヒート』は再見したくなってきているので、本書は良い本だったってことじゃなかろうか。
読了日:06月01日 著者:荒木 飛呂彦
https://bookmeter.com/books/6750200

はじまりの戦後日本: 激変期をさまよう人々 (河出ブックス)
- 作者: 橋本健二
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/04/13
- メディア: 単行本
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■はじまりの戦後日本: 激変期をさまよう人々 (河出ブックス)
SSM調査などをベースにした統計データを、階級という分析概念を通して眺めるとき、戦中から戦後日本における社会階層の移動はどのように捉えられるのか。調査から浮かび上がる全体の傾向と、一人一人の生きられた経験とを接続するために個人史が引用されたりはするが、基本的には統計データの分析が続くのでそこらへんを読みどころととるかどうかで読んだ印象もだいぶ変わりそう。戦前の社会が農業中心だったのだなというのはデータを眺めると一目瞭然という感じでそこが印象的だった。
読了日:06月01日 著者:橋本 健二
https://bookmeter.com/books/10792412
■敗れざる者たち (文春文庫)
沢木耕太郎のキャリア初期に書かれた、燃え尽きられなかったスポーツ選手たちを取材した傑作ルポルタージュ。何かが欠けていたこと、あるいは何かを持ちすぎていたことによって超一流にはなれなかったものたちの物語の最後に、自分自身を越え出ていくような瞬間を捉えた挿話が置かれている構成の妙でさらに悲哀というか無常感のようなものが増幅されているようか感じがした。
読了日:06月03日 著者:沢木 耕太郎
https://bookmeter.com/books/571728
■know (ハヤカワ文庫JA)
人々がネットワークから情報を常時読み取る「電子葉」が普及した社会。官僚の男が既存の電子葉をはるかに超える「量子葉」を植え付けられた少女を師から託される。彼女の目指す全知の地平。いわば『2』の結末の先、超常の存在が何を成すのかという謎が、SF的なガジェットと論理によって語られる。著者が書き続けてきた人を超えた人の物語は、ついにこれで究極の場所まで到達してしまったような気がする。
読了日:06月03日 著者:野崎 まど
https://bookmeter.com/books/6994804
■追悼記録 網野善彦 (新書y)
網野善彦死後に新聞・雑誌等に発表された追悼文などを選りすぐって所収。僕の狭い観測範囲では、歴史研究者によるかっちりした網野論は未だ書かれていないと思っていて、それは歴史研究が歴史家研究ではないことからくる必然とも思うのだけれど、本書はその歴史家たちの声を拾い上げている点に価値があるように思う。永原慶ニ、小路田泰直らの遠慮ない批判こそなしうるうちで最良の追悼であると言わんばかりの鋭い筆致がとりわけ印象に残る。
読了日:06月05日 著者:赤坂 憲雄
https://bookmeter.com/books/363547

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。10.5 (ガガガ文庫)
- 作者: 渡航,ぽんかん(8)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/03/18
- メディア: 文庫
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■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。10.5 (ガガガ文庫)
語り手である八幡にとっての高校2年の冬を舞台にした連作短編。新参の一色いろはの魅力が強調された挿話だったように思う。2015年当時のネタをリアルタイムでブッ込んでいたりと、今読むと懐かしさを感じもするというか、光陰矢の如しというか。
読了日:06月06日 著者:渡 航
https://bookmeter.com/books/9382551
■いまさら翼といわれても
主に高校生活2年目を迎えた古典部の面々を描いた短編を所収。伊原が語り手をつとめる「鏡には映らない」、「わたしたちの伝説の一冊」がとりわけ好きで、なんというか伊原の物語ってこれからまさに動き出すという感じがしてそこが大きな魅力だよなと思う。未確定の将来に彼女が投げ出される「いまさら翼といわれても」の締めくくりを読むと早く続きを読みたいと強く思うのだけれど、それはいつになるんだろうか。
読了日:06月07日 著者:米澤 穂信
https://bookmeter.com/books/11199030
■功利主義入門―はじめての倫理学 (ちくま新書)
功利主義という立場に立って倫理学の思考法を学んでみましょう、という趣旨の倫理学入門。功利主義という立場から、われわれの「常識」とは外れた、しかし同時に論理的に導き出されてもいる結論が提示されるのは読んでいておもしろかった。そういう「常識」をいったん括弧にいれたうえで物事をよりよくしていくためのメソッドとして、本書は倫理学を提示しているのかなという印象。
読了日:06月08日 著者:児玉 聡
https://bookmeter.com/books/5142055
■王様でたどるイギリス史 (岩波ジュニア新書)
タイトルに「王様でたどる」とあるんだから当たり前といえば当たり前なんだけど、政治史中心のオーソドックスな通史という感触。ざっと通読。
読了日:06月08日 著者:池上 俊一
https://bookmeter.com/books/11517724

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。11 (ガガガ文庫)
- 作者: 渡航,ぽんかん8
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/06/24
- メディア: 文庫
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■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。11 (ガガガ文庫)
今まで物語を彩ってきたキャラクターが一堂に会した感のあるお菓子作りのイベント、それとは一転始まりの三人のソリッドなドラマが展開される後半とで大きくトーンが変化し、いよいよ「いつか終わる青春」がまさに終わりに近づく足音が聞こえてくる。青春を外から成形せしめる大きな力に奉仕部三人組はどう立ち向かうのか、どんな解決策を見出すのか、それを楽しみに続刊を待ちたい。
読了日:06月10日 著者:渡 航
https://bookmeter.com/books/9744271
■モラルの起源――実験社会科学からの問い (岩波新書)
生物学や行動経済学など文理の垣根を超えて様々な学問の成果を援用しつつ、人間にとってモラルとはいかなるものなのか、その輪郭を素描する。猿やミツバチなど人間以外の生物を対象にした実験によって、人間のことがより理解できるはずというのが基本的な著者の立場のようで、本書を読み進めて確かになるほどと納得させられた。
読了日:06月10日 著者:亀田 達也
https://bookmeter.com/books/11602847
■SFはこれを読め! (ちくまプリマー新書)
鼎談っぽい形式でなんとなく分野ごとにおすすめのSF小説を紹介していく。海外のものが多いのだけれど、終章でちょっと言及されてるように、なんとなく作者に偏りがあるような印象はあったのだけど、まあそれは仕方ないことだとも思うので本書の欠点ってわけじゃないだろう。(SF小説の翻訳者や編集者でないという意味で)素人のSF語りが読めるのが本書の魅力ではないかという気がする。
読了日:06月10日 著者:谷岡 一郎
https://bookmeter.com/books/521294
■漱石漫談
漱石の作品を取り上げて縦横に論じる対談8編を所収。奥泉が何度も繰り返し語る、漱石は孤独、コミュニケーションの失敗による孤独を執拗に描き続けたというテーマ論、『三四郎』は絵を見るようにして読む、漱石は一つの画を提示しようとしているなどなど、うなずかされる読みばかりで大変ためになった。章ごとに挟まれるド嬢のイラストも良い感じ。
読了日:06月12日 著者:いとうせいこう,奥泉光
https://bookmeter.com/books/11649147
■柳田国男と事件の記録 (講談社選書メチエ)
柳田國男が山中で起きた心中未遂という「事件」をいかに言説化したのか、その文体を探ることを通して柳田の方法を探ろうとする試み。柳田自身の語りの変化、事実との照らし合わせを通して柳田の方法の像が次第にくっきりしてくるような叙述はスリリングなのだが、どうにもその方法自体は掴みきれなかったという感じもするのだけど、何か得るものはあったような、そんな読後感。
読了日:06月14日 著者:内田 隆三
https://bookmeter.com/books/33952
■高校入試 (角川文庫)
そこを通り抜けてしまった人間にとってはなんてことのない通過点に過ぎないのに、ある種の人間はどうしようもなくそれに人生を捻じ曲げられ、呪われてしまう。高校入試という通過儀礼を題材にそういうある種の不条理に対する怒りを宿した人間の復讐劇。ドラマの脚本をもとに再構成された本書は、登場人物が一気に舞台に上がる序盤は、固有の顔をもつ俳優によって不可避的にキャラクターが立つドラマだったらすっと入っていけるのだろうなと感じたのだけど、登場人物を把握してからは気持ちよくスリルに身を任せて楽しく読みました。
読了日:06月15日 著者:湊 かなえ
https://bookmeter.com/books/10590450
■生成文法がわかる本
言語学における「生成文法」理論の解説本。生成文法がいかなる文脈から出てきたのかから語り始められ、様々にアドホックな改変を加えられていくさまを追っていくような感じ。生成文法に一定の歴史的な評価を与える一方で、もはや死に体なのではという印象によって閉じられるラストが衝撃。本書の内容が頭に入ったかというと相当疑問符がつくのだが、社会科学における理論の意義ってなんなんだろうな、ということについて考える縁になりそうな感じはあった。
読了日:06月16日 著者:町田 健
https://bookmeter.com/books/455813
■スーパーマンの誕生: KKK・自警主義・優生学
アメリカを代表するヒーローのアイコンであるスーパーマンに、KKK、自警団、そして優生学といういわば社会の暗部と通じるようなファクターが流れ込んでおり、それらの起源を隠蔽しポジティブな面だけをすくいとって形作られたヒーローなのだと論じる。スーパーマンに様々な徴を読み込んでいく語りの手つきはなるほどなーという感じで、個々の議論に納得するかは別にして面白く読んだ。
読了日:06月17日 著者:遠藤 徹
https://bookmeter.com/books/11607295
■ハケンアニメ!
アニメ業界を舞台にした連作短編集。2011年前後のアニメ環境を彷彿とさせる舞台設定、モデルとなる人物が結構露骨にわかったりしたりという点で楽しかったのだけれど、それ以上におそらく『SHIROBAKO』が意識的に描くのを避けたであろうアニメ業界とその外部との接点をテーマにした後半部が白眉。登場人物たちが一堂に会するクライマックスの多幸感もよかった。
読了日:06月18日 著者:辻村 深月
https://bookmeter.com/books/8232250
■現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史 (イースト新書)
この手の対談本はなるたけ早くに読むに限ると思うのだけれど、なんというか内田樹・高橋源一郎なんかに代表されるリベラル左派の言説の魅力のなさの要因が言語化されているという感じで、死体蹴りのような趣がある。
読了日:06月18日 著者:北田暁大,栗原裕一郎,後藤和智
https://bookmeter.com/books/11915294
■NHK ニッポン戦後サブカルチャー史 深掘り進化論
「女子高生」、「SF」、「深夜テレビ」、「ラテン音楽」、「ヘタうま」、「ストリートカルチャー」というテーマについてそれぞれの講師がサブカルチャー史を語る。特におもしろく読んだのは泉麻人による「深夜テレビ」論で、60〜80年代の黄金期を経て、録画機器の普及した現在では最早深夜に放映されるということは特段の意味はもたなくなっている、という指摘はなるほどなと。YouTuberをテレビの文脈に位置付けているのも腑に落ちた。
読了日:06月19日 著者:宮沢 章夫,大森 望,泉 麻人,輪島 裕介,都築 響一,さやわか
https://bookmeter.com/books/11750567
■文芸漫談―笑うブンガク入門
対談形式で文学における笑いだとか悲しみだとかを語る文学入門。二人とも実作者としての自身の経験から文学という営みを語っている点がとりわけおもしろい。注の渡部直己の突っ込みや補足が充実していてそれ含めて楽しく読んだ。
読了日:06月20日 著者:いとう せいこう,渡部 直己,奥泉 光
https://bookmeter.com/books/11963
■創作アニメーション入門―基礎知識と作画のヒント
アニメーション作家による、エッセイ風のアニメーション入門。コマとコマとの切断を「アニメーションは暗闇から生まれる」と詩的にパラフレーズしたり、実存との絡みで自作を解題したり、時折仄見える「作ることの喜び」みたいなものが、長年アニメーションを作ってきた人間の自負を感じさせて印象に残っている。
読了日:06月21日 著者:山村 浩二
https://bookmeter.com/books/11935790
■辺境・近境 (新潮文庫)
1990年代半ばに書かれた、メキシコから日本各地の「辺境」、ノモンハンをめぐる旅行記。人生でこんなに香川に行ってうどんを食べたいと思ったことはなかったかも、という意味で、香川うどん紀行に村上の文章の強力さを感じた。
読了日:06月24日 著者:村上 春樹
https://bookmeter.com/books/563095
■哲学塾の風景 哲学書を読み解く (講談社学術文庫)
古典的な哲学書を丹念に読解していく「哲学の文章の読み解き方を教えてくれる入門書」。もちろん本書を読んだだけで哲学書を読みこなせるようにはならないだろうが、哲学書と向き合う姿勢みたいなものを、大学で哲学を専攻したわけではない人間にも教えてくれるという点で稀有な入門書であるように思う。学生の反応も含めた講義形式で書かれているのだが、丁々発止のやりとりが読んでいて楽しかった。
読了日:06月25日 著者:中島 義道
https://bookmeter.com/books/11643021
■罪の声
グリコ森永事件を題材に、その影で人生を大きく歪められた子供達へと想像力を巡らせて書かれたフィクション。平成に生きる新聞記者と加害者の関係者という二人の語り手が、別々に事件を調べ始めそれがやがて収束していくクライマックスは、事実をたどっていく前半の堅実さと裏腹の退屈さとは見事にコントラストをなしていて夢中でページを繰った。
読了日:06月26日 著者:塩田 武士
https://bookmeter.com/books/11079120
■創発する都市 東京―カルチュラル・ハブがつくる東京の未来
「創発」、「カルチュラルハブ」をキータームに東京の都市計画のグランドデザインを構想するような趣旨の本。キータームである「創発」も「カルチュラルハブ」も、あくまでキッチュなキャッチフレーズに過ぎないという気がしてきて、なんというかそういう畑の人が読むべき本であって僕には無用の本だったという気がする。73ページであの「江戸しぐさ」が肯定的な文脈で引かれているのだけど、まあ、そういう「感じ」の本です。現在の東京を理解しようと思って読む本ではない。
読了日:06月27日 著者:
https://bookmeter.com/books/11713601
近況
劇場でみたのは2本。
不死身のフィクション――『LOGAN/ローガン』感想 - 宇宙、日本、練馬
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家ではこんな感じでした。
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来月のはこちら。