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侵されてゆく日常――『Fate/stay night [Heaven's Feel] I.presage flower』感想

【チラシ3種付き、映画パンフレット】劇場版 Fate/stay night Heaven's Feel I. presage flower (通常版)

 『Fate/stay night [Heaven's Feel] I.presage flower』をみました。以下感想。

  運命に出会う、日常が次第に侵されてゆく。

 『Fate/Zero』、『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』に続く、ufotableによる『Fate/stay night』のアニメ化、その劇場三部作の劈頭を飾るのが本作。弓道場で弓を射る冒頭、そしてヒロイン間桐桜との出会いを描くアバンタイトルに象徴されるように、『Zero』、『UBW』のような異能者と超人のバトルロイヤルという雰囲気は後退し、日常に異様な存在が侵入し、ないしその日常に潜んでいた異様さが次第に相貌をあきらかにしていくさまをじっくりと描く。

 日常の所作を丁寧に描く贅沢な時間の使い方、あるいは冬木の街をフェティッシュに写し、またスクリーンの大画面を活かした構図などの空間の使い方は、かつての劇場版『空の境界』を彷彿とさせ、危うい日常というモチーフも共通しているように感じられる。その時間と空間の贅沢な、堂々たる使い方が、なんというか本作を「映画」たらしめているという感じがして、2時間という尺もあってかストーリー上でははっきりとした決着はついていないにも関わらず、謎の満足感を得て映画館をあとにできたのはよかった。

 『Zero』、『UBW』からさらにスケールアップして着実に進化している超人たちの戦闘が素晴らしかったのはいうまでもないですが、キャラクターの掘り下げもなおざりではなく、原作『HF』ルートの魅力を伝えねばならない、という強い使命感のようなものを感じました。とりわけ印象に残ったのは間桐慎二の描写で、『UBW』では単なる道化じみた敵役以上の存在感はなかったように思うのだけれど、この『HF』ではヒーローであろうとする/そのように振る舞う衛宮士郎の在り方に愛憎半ばする感情をいだく、いたって「普通の人間」的な側面が強調されて、主人公である士郎の異様さを引き立てていると同時に、彼自身もより魅力的な人物として立ち現れていたように思う。

 異様な力が日常をむしばみ、かつて――それはこの物語のなかの彼らには知る由もない時間と場所で――共に戦った戦友は、あるいは死闘を繰り広げた好敵手は既になく、未だ語られざる物語の予感が画面に満ちている。しかしそれでも、この序章ともいうべき『 I.presage flower』では、日常の象徴ともいうべき場所に、その関係性のなかに二人が逢着し、ひとたび幕は閉じられる。彼と彼女のその場所がいかなる運命をたどるのか、それがいかにして語られるのか、続きを首を長くして待ちたいと思います。

 

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【作品情報】

‣2017年

‣監督:須藤友徳

‣脚本:桧山彬(ufotable