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アナキズムって、俺たち自身が革命になることなんだぜ——森元斎『もう革命しかないもんね』感想

 

もう革命しかないもんね

 もう革命しかないもんねという気持ちで、森元斎『もう革命しかないもんね』を読みました。以下、感想。

 ちくま新書の『アナキズム入門』で読書界に衝撃を与えたり与えなかったりして、早5年。自称21世紀最大の哲学者にして軽妙洒脱な文章家、そしてなにより魂のアナキストである森元斎。本書は、農作業や旅行、子育てといった日常のトピックをアナキズムの視点からとらえなおし、そのなかで森という人間の来歴が断片的にわかってくる...というエッセイ。

 著名なアナキストたちを列伝形式で取り上げ、アナキズムとは、あるいは革命とはなにより生き方なのだと喝破しているようにも思えた『アナキズム入門』の著者によって書かれたものだからして、本書で書かれる生活のよしなしごとも、まさに革命の一形態としてとらえなおされることになる。

 だから本書のいう革命は、暴力で政治体制を変革することだったり、自身の心のありようを変えるというような内面のことだけではない。わたしをとりまく生活世界をよりよいものにしていく実践、その一挙手一投足が革命なのだ。

 つまるところ革命って、おかしくなっているこの生活環境を、もっと言えば、捨て去られてしまったものを、もう一度巻き込んで、前に推し進めていくことだ。*1

 このあたり、現代における階級闘争とはうまいメシを食うことにこだわることなのだとぶちあげた白井聡『武器としての「資本論」』と相通ずるところがあるかもしれません。もっとも、本書のくだけた文体やあっちこっちに話題が拡散していく語り口は白井のそれとは似ても似つかないんだけど...。

 森は東京西部で生まれ育ち、そこで自己形成をしたことが語られているが、大学進学を機に上京して、同じく東京西部というトポスに少なからぬ影響を受けたわたくしとしては、ある種のシンパシーを感じると同時に、強い嫉妬を覚えもした。10年余り暮らした東京西部を離れてみて、そこがいかに自由の空気に満ちていたか、なんとなく懐かしく思い返されるので、なおさら。

 これは田舎者のひがみなんだけど、著者は福岡市近郊の里山の暮らしを称揚するが、それを基礎づける人となりが形成されたのは(郊外といえど)東京という大都市あってのものという気がしてならない。都市の特権を里山に密輸することによって、著者の生活は成り立っている、そんなことすら思うのだ。

 でもそれが本書の提起する実践の価値を損ねている、とは思わない。ベンジャミン・クリッツァーは『21世紀の道徳』のなかで、いわゆる左翼的な人々が、「自己責任論」否定の裏返しとして「苦悩をすべて政治や権力構造などに結びつけて、個人レベルに思える問題であっても社会レベルの対処が必要である」とする主張が空疎で有害なものだと指摘した。

 本書の実践は、身の回りの物事に社会的な文脈があることをみとりつつも、その都度の手仕事によってそれを少しずつよくしていく、それが革命なんじゃ、といってみせる。こういう仕方で日々ゆるいアナキズムをおのおのが実践していくことはマジで大事、そうだよねと説得される一方で、著者自身も長崎大学に籍を置くようになってから雑務に忙殺されつつあると愚痴るように、賃労働者にとってはそれは想像を絶するむずかしさだよな、としみじみ実感しもする。

 しかしそれでも、こういう生き方もあるんじゃね?とライトに語りかけてくれる本書は、わたくしたちにほんのちょっと勇気を与えてくれる本だと思うので、みんな、読むといいです。

 

 この記事はある意味で私信として書いたんですけど、どうでしょうか。またなにか思い浮かぶことがあったら、力になれるかわかりませんが、私信として書いてみるつもりです。

 

*1:p.222