吉川祐介 『限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地』を読んだので感想。
バブル期に、公共交通機関が貧弱な郊外——著者の言葉を借りるなら「超郊外」で分譲され、そして整備が行き届かないまま現在にいたる家屋・土地。その現状を報告し、そして未来の可能性を展望しようとする試みが本書である。
著者はブログ「URBANSPRAWL -限界ニュータウン探訪記-」の管理人で、わたくしもときたま閲覧していた。
ブログでは千葉県の郊外の限界分譲地を中心に紹介しているが、本書はその書籍版+アルファという感じ。個別の場所についてのレポートはブログのほうが詳しいが、総論的なところは書籍のほうがよく整理されている。
本書のなによりの美点は、「限界分譲地」を外部から観察する、観光客的な目線ではなく、著者自身がそのなかで暮らしていることに拠る当事者感覚・当事者意識だろう。かといって過剰に美化するでもなく、あくまで冷静な筆致で状況を報告する語り口のバランス感覚に好感がもてる。
さて、本書を手に取ったきっかけは、わたくしもこの半年くらい家を探してうろうろしていたからなんですが、わたくしの居住地のあたりと千葉県北東部では、同じ関東圏でもまったく生活のありようが異なるということにいまさら驚く。東京都の区部に通勤することを考えると、そもそも本書で取り上げられている地域は選択肢に入れるのは難しいですが、加えて自家用車を持っていないことで、住む場所の選択肢がぎゅっと狭まるなと改めて感じます。
また本書で取り上げられた、バブル期に開発・分譲された千葉県北東部の地域の状況は、わたくしの生まれ育った、昔ながらの農村地域と結構似通っていて、それも印象に残った。インタビューで、小学校まで徒歩1時間かけて登校することが普通と思っていた(が、のちに都市部では普通でないことを知った)というのが、わたくし自身の経験とめっちゃ重なるんですね。そういう意味で、本書の射程はかならずしも「限界ニュータウン」・「限界分譲地」だけにあるのではない…のかも。