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勇者のいない地獄───『進撃の巨人 The Final Season』感想

進撃の巨人

 『進撃の巨人 The Final Season』をみたので感想。

 かつて世界を恐怖に陥れた巨人の力。その源たる「始祖の巨人」の力を奪うため、パラディ島に潜入したマーレの戦士たちの作戦が失敗に終わって4年。近代兵器の開発も進展し、軍事力を支えてきた恐るべき巨人の力も陰りが見えはじめ、また始祖の巨人奪還作戦の失敗でいくつかの巨人を失ったことで、大国マーレは泥沼の戦禍のなかにあった。「驚異の子」ジーク・イエーガーらの活躍もあり、なんとか敵国を退けつつあったが、しかしマーレの市中には、パラディ島の悪魔が息をひそめて潜入していた…。

 諌山創による漫画のアニメ化もいよいよ佳境となり、第4期は『The Final Season』と題して、最終決戦までの道程を描く。放映は2020年末から2022年。物語は第3期の結部から4年後に飛ぶ。エレンたちを苦しめてきた壁の外の人類、迫害され、そしてエレンたちと同じルーツをもつ、巨人化の可能性を秘めた民族、エルディア人。そのなかでも大国マーレに住み、巨人の力によって国家に奉仕する戦士たちの視点へと移る。第一次世界大戦のごとき塹壕戦を戦う少年少女兵士のファルコとガビ、そしてその兄貴分として最前線に立つライナーらの姿を描いた後、傷痍軍人としてマーレに潜入したエレンが、意趣返しのごとくマーレの市街地を急襲し、急展開をみせる。調査兵団から離れ独自行動をとり、また異母兄のジークとも通じて計画を進めているらしいエレン。その胸中はアルミン、ミカサら幼馴染にも知る由がなく、巨人の力をめぐる陰謀はさらに複雑な様相をみせはじめる。

 この『The Final Season』では制作会社がWIT STUDIOからMAPPAへと交代し、ルックの面ではWIT STUDIOがこれまで築いてきたものを活かしつつも、新境地を開いている。目につくところでいえば、これまで濃く描かれてきたキャラクターの輪郭線は細くなり、キャラクターの顔に差す影を線で表現するなど、原作のタッチに寄せている。これでキャラクターの雰囲気も変化したが、それが4年という時間を経過したこととリンクして、ほどよい断絶感を生んでいる。さらに、これまではヒーロー然として描かれてきたキャラクターたちが、そのはっきりとした輪郭線を剥奪されることでヒーローとしての根拠を失い、力強い勇者ではなく脆く弱い兵士といった印象をたたえるようになったという気がする。

 これまでLinked Horizonが高らかに謳いあげてきた英雄譚ではなく、ほとんど内容を聞き取れない不気味なコーラスにあわせて無名の兵士の屍が積みあがっていくような戦場のビジュアルを描いていく神聖かまってちゃん「僕の戦争」への移行は、まさに上述したような変化を主題歌に象徴的に託してみせているという気がする。

 善の体現者たる勇者不在のドラマは、第3期までのアクション活劇的な雰囲気を後退させ、これまでは復讐という根本的にはシンプルな動機で駆動してきた主人公のエレン・イエーガーが、その心中を幼馴染の友人たちにも悟らせないほどブラックボックス化して、その謎をめぐる心理サスペンス的な色合いを増す。第3期までは世界のありようこそが謎だったが、すでに世界の謎が明らかにされたことで、物語を牽引する謎を、これまで親しんでいた主人公の胸中に隠してみせた。

 このようなジャンルの根本的なシフトを見事に遂げたことは原作の優れた達成の一つだが、このアニメ版でもそれは見事に演出されている。壁の外には自由があると信じていたのに、現実には自分たちを悪魔とみなす人々が住む世界が広がっていた。外部という逃げ場を欠いた地獄で、自由はどこにあるのか。この『The Final Season』に託された問いはそのようなものだろう。

 そうしたドラマ面での充実ぶりは見事のひとことだが、アクション面でも第3期までと遜色ない見せ場がいくつも用意され、こちらも素晴らしい仕事ぶり。冒頭、3DCGで描写されるようになった巨人らと近代兵器の対決はどこか怪獣映画じみていて、諌山創が実写版『進撃の巨人』に期待していたのはもしかしてこういう絵面だったのかもしれないなとぼんやり思ったりした。また、『進撃の巨人』を象徴するアクションを生み出す立体機動装置もまた、近代兵器と組み合わさり、あるいは対決を強いられることで、さらにその可能性を引き出されているという気がする。爽快感ある立体機動のアクションは『The Final Season』では全体として禁欲されていたが、最終盤のクライマックス、飛行艇の奪取をめぐる攻防では、ミカサをはじめ鬼気迫る殺陣が描かれ、素晴らしいシークエンスになっていた。

 さて、アニメ版も残すところ『The Final Season 完結編』を残すのみですが、見るのが惜しいくらい楽しみです。この勇者なき地獄のなかで、それでも立ち上がった勇者たち。エレンが倒すべき敵となり、調査兵団とマーレの戦士というこれまで殺しあってきたものたちが手を組み、四面楚歌、孤立無援、呉越同舟の最終決戦へ。我々が感情移入すべき主人公たちは、この『進撃の巨人』ではつねに、絶体絶命の窮地から戦いをはじめる。それが最終決戦まで徹底していることに改めて気づかされた。

 

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