宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

鏡としてのインド───湊一樹『「モディ化」するインド 大国幻想が生み出した権威主義』感想

「モディ化」するインド―大国幻想が生み出した権威主義 (中公選書)

 湊一樹『「モディ化」するインド 大国幻想が生み出した権威主義』を読んだので感想。

 2014年に首相となったナレンドラ・モディのもと、「最大の民主主義国」として高い経済成長を続けている…。そのようにぼんやりとイメージされるインドの体制について、その実、経済成長は行き詰まりつつあり、またモディの首相就任以降、急速に権威主義体制化が進んでいることを論じる。

 モディ政権下で、急進的なヒンドゥー教至上主義を背景に、少数派であるイスラム教徒を弾圧し、また政権に異を唱える言論を抑圧するなど、自由や民主主義といった価値観に相いれない政治体制が急速に築かれたという。インドのなかで例外的にイスラム教徒の住民が多く、70年にわたって自治権が認められてきたカシミール自治権は2019年に剥奪され、新型コロナウイルス感染症の流行下ではトップダウンの措置がとられ、そのことが感染の拡大を招いた。

 また、自身を顕彰するプロパガンダにも余念がなく、モディを主役にした伝記映画の制作や、有名俳優からインタビューを受けて自身への親しみを喚起するなど、個人崇拝を強化するメディア戦略をとっていることについても記載がある。この文脈で、日本でも公開され話題になった『パッドマン 5億人の女性を救った男』なども、モディ政権のイメージ形成との関連から触れられていたことに驚いた。

 

 わたくしはインドに十分な関心を払ってきたとはいいがたいのだが、インド政治のこうした動向には率直にいってかなり驚いた。そのように蒙を開かせてくれたという点で、本書を読んで得るものがあったというのが率直な感想である。本書では主にモディ政権の実践に紙幅が割かれているが、気になったのはこうした権威主義体制化、個人崇拝の強化がインドの大衆にどのように受け取られているか、ということ。経済成長のめっきがはがれたとき、はたしてモディ政権はどのように支持を調達していくことになるのか、そこが

 本書を読みながら、ここ10年くらいの日本列島の政治についてもぼんやり考えをめぐらせていた。自身の住む国の政治について相対化し比較の対象を得ることが、海外の政治について知ることの効用の一つだと思うのだが、権威主義体制の構築が進みメディアが政権に支配されるインドの状況は、安部自民党がめざした統治体制の成功した実践例なのかも、と感じた。日本列島でも安倍晋三個人崇拝は一部の勢力にみられるが、それが国民に広く浸透したとは言い難いと思うし、批判的なマスメディアを十分に統制することも(目指していたようにしか思えないが)結局は貫徹できなかった。

 それはインドにおけるヒンドゥーナショナリズムのような、大衆的な支持を調達する基盤を欠いていたからのような気がするのだが、モディ政権に範をとった権威主義化の流れが再び訪れないよう、わたくしたち一人一人が努力をしていくということなんですかね。