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死の商人は世界平和の夢を見るか?―アニメ『ヨルムンガンド』感想

ヨルムンガンド PERFECT ORDER オリジナルサウンドトラック 

 再放送を録画してあった『ヨルムンガンド』を一気に見ました。一気に見きってしまうとは、それだけ面白かったということでもあって。大変面白かったです。見っぱなしもあれなので適当に感想を。

 HCLIの野郎ども

 なにがよかったかって、1話1話が丁寧に構成されていて、漫画の原作をアニメという別媒体に落としこんでいるなと。高橋慶太郎による原作漫画は未読なのですが、原作があるということを感じさせない、まったく自然で無理のない作劇がなされていたように思います。

 その丁寧なドラマのなかで、ココ・ヘクマティアルと彼女の率いるHCLI社の野郎どものの魅力が存分に描かれていた。国家という後ろ盾をもたない彼らの自由奔放なパーソナリティと、プロフェッショナルとしての冷徹な仕事ぶりとのコントラストがよかった。

 1クール目の武器商人や殺し屋たちとの闘いも印象的だけども、彼らの「自由さ」と「強さ」が引き立つのは、特に2クール目、「PERFECT ORDER」で国を背負う兵士たち、CIAや自衛隊の特殊部隊との暗闘が始まってからという気もし。狂気の愛国者・魔女ヘックスやら、「日本唯一のスパイマスター」日野木やら、モブみたいな顔して凄腕CIAエージェントのブックマン=ジョージ・ブラックやら。特にジョージ・ブラックは磯部勉氏の声もあいまって強い印象が刻み込まれました。Wikipediaをみたら『ワールド・オブ・ライズ』でラッセル・クロウが演じたCIA局員エド・ホフマンがモデルとあって、ああ、なるほどと。

 とにかく、HCLIの面々の強さがとにかく楽しく視聴してました。結局メンバーのなかでおそらく最強であろうレームとバルメと実力的に拮抗する敵が不在だったのは残念だったりするのですが、まあ彼らと同等の敵が現れたらメンバーの多くが死にそうだし、仕方ないのかな、とも。

 

武器は人を狂わせる

 多分、『ヨルムンガンド』に通底するモチーフは、武器と狂気ではなかろうか。武器と関わると人は狂気に飲まれる。狂気に飲まれた、あるいは飲まれつつある者たちの物語、それが『ヨルムンガンド』だ。

 ココと敵対する人間たちの多くは、武器をもったことで人生を狂わされた者たち。2クール目の序盤、「Dance with Undershaft」二編で相対することになるCIAの魔女・ヘックスは作戦を捻じ曲げても殺人を遂行しようとするし、日本の秘密諜報組織SR班のメンバーも、国に縛られているがゆえに暴力を自由に振るえないフラストレーションから、組織を抜けた東條を過剰に憎悪してさえいた。武器に狂った人間たちの辿りつく先は死だけで、だからそんな部下をもってしまった日野木は、悲しいかな間接的に彼らを殺害するしかなかった。

 そして、全員のエピソードは語られないわけだが、HCLI社の面々も多分、武器によって狂わされた人間たちだ。1クール目のラストを飾るバルメの物語「滅びの丘」が武器によって人生を狂わされた者たちのドラマであることは言うまでもないし、2クール目の清涼剤的な一篇「Pazuzu」で語られるワイリの挿話も、コミカルだけども、まさに武器に魅入られる悲劇でもある。

 そしてなにより、ココとヨナこそ、武器によって人生を狂わされたもののうちで、もっとも悲劇的な人物の典型だ。武器商人の娘として生まれ裕福に育ったココと、武器によって両親を奪われ戦災孤児となったヨナに似ている点はほとんどないようにも思える。だが一点だけ共通している。運命的ともいえる類似がある。それが多分、ココをヨナという少年兵に引き合わせた。それこそがもっとも重要なことなのだ。

 それは、2人とも自分で選ぶ余地なく、武器と関わらざるを得なかったこと。生まれるときに親は選べないし、生まれる場所も同様だ。たまたま武器商人の娘に生まれたこと、たまたま戦火に巻き込まれる地に生まれたこと。おそらく、他の登場人物の多くは多少なりとも自分の意志で武器と関わる道を選びとった。ココとヨナは、選び取る機会など与えられなかったし、もしそういう機会があったなら、2人はその道を選ばなかったんじゃないか。

 その点がココと兄、キャスパー・ヘクマティアルを決定的に分かつ。多分、キャスパーは選択の余地があったとしても武器と関わる道を選んだだろうから。その性向の違いが、最終的にはヨナがキャスパーの下を去る原因になったんじゃなかろうかと思う。

 

世界平和は夢か幻か

 「世界が憎い」とココが言い放つのは、おそらく、武器を憎むのにも関わらず武器と関わらざるを得なくなった自分の人生からきている。その彼女が「世界平和」を願うのは、納得できる。武器と関わって狂気に駆られることもなく、いやむしろ狂気に振りきれたからこその帰結かもしれないが。

 彼女のヨルムンガンド計画は、量子コンピュータにより電子機器を制圧し、空の交通を不可能にするというもの。物理的な封鎖に加えて、自らの愚かさで空を失った人類の「恥の意識」が争いを失くす、とココは主張する。

 しかし実際には、キャスパーの言うように空を失ったところで人間は争いをやめはしないだろう。何千年も互いを憎み殺し合い続けてきた人間の歴史を、ココはあまりに軽く見過ぎている。その点、武器商人という職業そのものを楽しむ兄キャスパーは現実主義的なニヒリスト、ココは楽観的な理想主義者といったところだろうか。しかしヨルムンガンド計画そのものを否定はしていないという点で、2人が対立する線はないのかもしれない。

 だからヨルムンガンドの敵対者として立ち現われるのは、「そんなのおかしい」と素直に感情を吐き出したヨナだけだ。しかし彼も、やがてはキャスパーの下での2年間の戦いを経て、再びココの下にもどり、ヨルムンガンド計画を受け入れる。

 今日の未明、この結末を見届けたとき、率直にいってあまり釈然としなかった。ヨナがそれを受け入れるのか、それがよく理解できなかったからだ。ネット上で「ヨナが2年間で成長した」なんて知ったような感想をみて、なんだかなあと正直思った。70万人の無辜の人間の死を受け入れることが成長だなんて、そんなの冗談じゃない。何の説明にもなっていない。

 でもいまは、この結末もいいかな、と思っている。ヨナがヨルムンガルド計画を、ココを受け入れたのは、多分諦めと、その中に鈍く輝く一つの希望をココに視たからだ。2年間、キャスパーについて世界を旅する中で辿りついたのは、多分、空を塞ごうが戦争は終わらないという確信ではなかろうか。最終話「恥の世紀」でキャスパーがココに語った未来の展望は、多分戦場を渡り歩いた経験に裏打ちされたものだろう。それと同じ結論にヨナが辿りついたとしても、決して不思議ではない、と思う。

 だからヨナは、ココのヨルムンガンド計画が、少なくとも「世界平和」という目標を達成するには、分のない勝負だとわかってしまった。だからこそ、それに賭けてみたくなった。キャスパーと別れ、アサルトライフルを崖に投げ捨てたヨナはしかし、拳銃まで投げ捨てることはできなかった。それならば、世界という勝ち目のない敵に挑まんとするドラゴンにこそ、その狂気をささげたいと決心したんじゃなかろうか。そのドラゴンは、自分と同じく運命を選べなかった人間なのだから。

 ヨルムンガンドの福音は平和をもたらさない。その福音は、『ヨルムンガンド』の結末は、いつ終わるともしれない「世界平和」戦いの幕開けを告げるものなのだろう。

 

ココ・ヘクマティアルの灰色の道

 と、こんな見立てをしてみたんだけれども、これって自分の欲望を作品に投影しているだけなんじゃないかな、とも思えて。なんというか僕は、絶望的な戦いに、それでも身を投じる人間ども、みたいな構図が好きで好きで。

 多分、先日みたウテナTV版もそういう話だったし、X‐MENの最新作もそうだった。あえていうなら、というか「お前は何言ってんだ」と言われることを承知でいえば、『氷菓』もそうかも。

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 そういう物語として僕が読みときたいから、『ヨルムンガンド』はそういう物語として立ち現われた。いや、物語を読む、という営為はおしなべてそういうもんだとも思いますが、やっぱり『ヨルムンガンド』は読み解く際に読み手の欲望の介在する余地が大きいと思う。さながら、ココ・ヘクマティアルが黒でも白でもない、灰色の道を歩き続けたように、『ヨルムンガンド』の結末も、まさしく灰色のように思える。

 最終話でココとキャスパーが示した、希望と絶望。そのどちらにも、あの結末は開かれているように思える。どちらが正しい見立てかなんて、判断するのは不可能だ。それは多分、現代の世界情勢の行く末を誰も予測できないのと似ている。現在という時間軸の先端に立ったココが、ヨルムンガンドの福音を告げる。未来は誰にもわからない、所謂ひとつのオープンエンド。

 「知るか!未来のことなんて!」と高らかに叫んで見せるその女の進む道は、たぶんずっと灰色のままで、だから結末がどう見えるかは、結局読み手の手にゆだねられる。ヨナの行動の原理を補って読まなければならない読み手は、それを自ら積極的に補うことで、自分の欲望の在り処を知る。「進歩の世紀」か「恥の世紀」か、それを決められるのは、彼らの旅路を知る我々だけなのだ。

 

 こんなことを思ったりしました。いやー、楽しかったです、本当に。

 

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