宇宙、日本、練馬

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青春は嵐のように―『台風のノルダ』感想

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 『台風のノルダ』をみました。『フミコの告白』の人が関わってるらしい、ぐらいの情報しか知らなかったんですけど、よかったです。以下で簡単に感想を。ネタバレが含まれます。

 青春には嵐がよく似合う

 舞台は、とある離島の中学校。大型台風が迫る中で、翌日の学園祭に向けて準備する生徒たちの中で、野球部を辞めたばかりの東シュウイチはそんな喧噪のなかでひとり憂鬱な雰囲気。親しい友人である西条ケンタとも険悪な関係になってしまっていた。

 『台風のノルダ』は、この二人が台風というちょっとだけ非日常的な事件をきっかけに仲直りする物語だ、と乱暴に要約できる。台風に導かれるように現れた不思議な少女ともそこに一枚噛むわけだけれども、それは物語上の位置としては多分あんまり重要じゃない。

 言ってしまえば謎の少女の存在は、台風という非日常的だけれども、しかし同時にありふれているものを、一挙に非現実的なレベルに押し上げるためのガジェットにすぎない、といったら言い過ぎだろうか。彼女は台風の予兆とともに姿を垣間見せ、台風の到来とともに存在感をもって現れ、そして台風が過ぎ行くとともに去る。彼女は台風の擬人化した存在だとすらいえるんじゃないか。

 だから、謎の少女とのSFボーイミーツガール物語、というよりは友人との和解を描いた地に足のついた青春モノだという印象をもった。それはイメージビジュアルにも象徴的に表れていると思うんですよね。二人の少年が前に、少女はその背後に背を向けて立っているという構図。主役はあくまで二人の少年なのだ。背景に過ぎないとはいっても、台風の存在感は半端ではなくで、その演出が本作の大きな魅力なんですけども。

 

 『台風のノルダ』は、台風が島に上陸し、去っていくまでの一夜の出来事のみにフォーカスをあてる。生徒たちは台風のため学校に閉じ込められるかたちになっていて、だから描かれるのはほぼ学校の敷地の内部だけで、そのたった一夜の、狭い空間の出来事で、二人の少年のわだかまりが解けてゆく。

 回想で過去の出来事が差し挟まれる短い時間を除けば、二人の少年の間の友情やら葛藤やら行き違いやらがはっきりとは描かれない。おそらく上映時間が短いが故の作劇だと思いますが、これがよい方向に作用していると思いました。中学のころなんて、自分でもよくわからないけど不機嫌になったり、今まで仲良くしてたやつのことが急に疎ましく感じたり、気に入らないと感じるようになったり、そういう時期だと思うんですよね。だから二人の間のビミョーな機微なんて、掘り下げる必要なんかない。

 そういう意味では、青春における関係性の一面の表現として、台風という比喩は卓抜かもしれない。友人関係にも、唐突に嵐が訪れることがある。それが過ぎ去ったときにまたどうせテキトーにやっていくんだ。学校内の閉じた、狭い友人関係なんてそんなもんだと。『台風のノルダ』はそんな映画だと思いました。

 

陽なたのアオシグレ』感想

 同時上映されていた『陽なたのアオシグレ』もとてもよくてですね、エモーショナルかつゴージャスにアップデートされた『フミコの告白』という感じで。今まで知らなかったんですがこちらが『フミコの告白』の石田祐康監督の作品なんですね。

 誤解を恐れず言えば、この作品の問答無用の気持ちよさは『台風のノルダ』を遥かに凌いでいた。『台風のノルダ』ももちろん素晴らしくて、台風関係のビジュアルとか音響とかすげーんですが、スピッツの曲にのって街を疾走し、空を駆ける『陽なたのアオシグレ』のクライマックスはスクリーンに映えすぎる。というわけで45分と短いけれども、確かな満足感がありました。

 

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【作品情報】

『台風のノルダ』

‣2015年/日本

‣監督:新井陽次郎

作画監督: 石田祐康

‣出演

  • 東シュウイチ - 野村周平
  • ノルダ - 清原果耶
  • 西条ケンタ - 金子大地