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軽やかな誠実さ――アニメ『スキップとローファー』感想

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 『スキップとローファー』をみました。ほんとうによい気持ちになりますね。以下、感想。

 高校進学を機に石川県、能登半島から上京した少女、岩倉美津未。日本最高峰の大学に進学し、ゆくゆくは官僚になって過疎にくるしむ場所を救いたい…と高い志をもつ彼女だが、入学式当日、なれぬ東京で道に迷い、はやくも都市のあらなみにくじけそうになってしまう。そんなとき、偶然通りかかったおなじ高校に通うと思しき少年が声をかけてきて―――。

 高松美咲による『アフタヌーン』で連載中の漫画のアニメ化。制作スタジオは富山に本社を置くP.A.WORKS、監督は『夏目友人帳』シリーズで監督もつとめた出合小都美。梅下麻奈未によるキャラクターデザインは原作の素朴でキュートなあじわいを見事にアニメに起こしていて素敵。全体として、原作のあたたかな雰囲気が誠実に再現された、リスペクトを強く感じるアニメ化だったと感じる。

 過疎地機で生まれ育ったので同世代との接触経験に乏しく、ときどき素朴という形容を突破して「野暮ったい」感じがするヒロインのみつみは、同じく田舎から東京に出てきた経験をもつわたくしなどには、かつての自分の残像を垣間見ているようで恥ずかしい気持ちがわいてくると同時に、なんだが他人事のように思えず応援したくなる親しみがわいてくる。このあたり、富山県出身で金沢の大学に進学した原作者の経験が流れ込んでいるのだろうか。演じる黒沢ともよはあいかわらずの演技巧者ぶりを遺憾なく発揮し、1クール見終えたいま、みつみの声は黒沢以外考えられない!という感じ。

 みつみの素朴さと不可分の誠実さ、ひたむきさで周囲にポジティブな影響を与えていく。みつみの周囲の友人たちがとても素直で、かつ反省的な自己認識をもっているのは高偏差値高校という舞台の地の利ゆえという気もするが、それが嫌味にならないのはキャラクター造形の巧みさゆえでしょう。彼女ら・彼らがかすかに、軽やかに変わっていくさまは、わたしたちをストレートに勇気づけもする。

 アニメ版最終話は、飄々とした態度で友人や物事に一線を引いてきた少年が、みつみや演劇部の先輩などが、スマートでなくても懸命に物事に取り組むさまに感化され、彼自身もいままでとはすこしちがう方向へとささやかに足を踏み出すことがドラマのクライマックスに置かれる。それは大げさな人間関係の変化を即座に招いたりはしないのだけれど、しかしその機微にフォーカスして、そのささやかな変化こそが大事なことなのだと『スキップとローファー』は教える。

 大きな出来事に頼ることなく、日常の人間関係の機微を巧みに拾い上げ、そして愛すべき登場人物たちを少しずつ、しかし軽やかに前に進ませていく『スキップとローファー』の精神性はアニメ版でも確かに息づいていて、そのことがやはり素朴にうれしい。アニメをみて、あらためてみつみたちのことが大好きになってしまうので困る。素晴らしい漫画が素晴らしいアニメになる、それは祝福すべきことでしょう!

 

 

 

 

上では黒沢ともよさんにしか触れられませんでしたが、最終話の寿美菜子さんの「泣き」の演技にはやられました。あの迫真の泣きで、西城梨々華というキャラクターが「いやなやつ」から幼さののこる少女に変身してしまうのですから、声の力というのはほんとうにすごいですよ。