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黄昏に響く――『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』感想

ソ・ラ・ノ・ヲ・ト 1【完全生産限定版】 [Blu-ray]

   Amazonプライムビデオでちまちま『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』をみていました。以下感想。

  列車とバイクのサイドカーに運ばれて、軍服の少女は辺境の街に降り立つ。彼女の名は空深カナタ、街の名はセーズ。最早徴兵制があるわけでもないのに、あえて彼女が軍に志願したのは、喇叭を習いたいからだという。彼女が着任した街、セーズはヨーロッパ風の街並みの雰囲気を感じさせるが、どうやら我々の生きる現代とは異なる世界らしい。1121小隊に配属された彼女は、その街で、そしてその街を取り巻く世界のなかで生きてゆく。共に「時告げ砦」で暮らす仲間とともに。

 現代世界とは異なる世界が舞台となっている作品の魅力のひとつは、物語の進行につれその世界の相貌がだんだんと立ち現れてその輪郭がくっきりしてゆくことにあると思うのだが、『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』の魅力のひとつはまさしくそこにある。我々の前に現前するこの世界とはいかなるものなのか、この世界はどのような歴史を辿ってきたのか、そしてこれからどこへ向かうのか。辺境の街といういわばミクロな世界で呼吸し、歩き、モノを食べ、音を響かせる彼女たちの生活は、同時に世界というマクロな状況に規定されていて、そのマクロな状況が時に彼女たちの日常に侵入し、そこにドラマが生じる。そうしたなかで、この世界のありさまが次第に了解されてゆく、そのストーリーテリングの巧みさ、そしてその世界の像に刻み付けられた時代性。

 この世界は、巨大な戦争を経験して荒廃し、もはや我々が当然のものとして享受する文明の恩恵を受けることがかなわない。現代であったらおそらくなんてことのないだろう病すら、簡単に命を奪いうる、そうした世界に彼女たちは生きる。そうした状況は序盤から示唆されているわけだが、やがて小隊長の回想のなかに姿を現す旧時代の亡霊によって、もはや滅びゆくだろう人類の行く末が不吉に予告される。ここで、彼女たちの生きる世界が、進歩史観に規定される近代的なるものではもはやなく、滅びに向かって歩を進めてゆく末法的な様相を強烈に帯びることになる。最早もっとも輝かしき日々は過ぎ去り、黄昏の時を生きる人類。

 このような滅びの感覚はなんら新しいものではないのだろう、とは思う。古くは平安時代末法思想然り、比較的新しいものをあげるならばノストラダムスの大予言然り、たぶん数え上げるのが困難なくらいには、人類は滅びというものを空想し弄んできた、と思う。しかし、いま、この2017年という時代において、多分その滅びの感覚には独特の位相があるようにも思う。この『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』が放映された2010年とは違った磁場のなかで、この作品に漂う滅びの感覚を眺めざるを得ない、そういう位置に少なくとも僕はいる、という気がする。

 黄昏どきをいかに生きるのか、という問いは僕にとって極めてクリティカルな問いであるという気がして、昨年スクリーンを賑わせた『君の名は。』はまさしくその問いへの応答として読むことができると思うし、また江波光則『我もまたアルカディアにあり』もそういう作品である、と勝手に思っている。

 


  そうした文脈に『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』を置いてみたときに、この作品が語るのは、黄昏の時代のゆるやかな日常の肯定であり、またそのなかで連綿と響き続ける高らかな音、それが含み持つ希望であるように思われる。世界が一度滅びかけて、そしてゆるやかに滅びゆく世界。もはや文明の輝きも失われゆく世界に響く、我々ののよく知る旋律。朽ちた姿で散りばめられたかつての文明の残滓のなかで、この「アメイジング・グレイス」の旋律はひときわ輝きを放つ。この旋律が我々の生きる世界と、彼女たちの生きる黄昏の世界との連続性を担保し、我々の世界がたとえ粉々に砕け散ったとしても、音は響いて、そして伝わるのだということを語る。劇中で数多の兵士に響いた旋律は、そのようにして我々の世界にも響くがゆえに、希望のメタファーなのではないだろうか。はい、というわけで大変よかったです。

 

関連?

 見る前は『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』もまたガールズ×戦車アニメであるとはまったく知りませんでした。

ガールズ&パンツァー 』の舞台はもはや国土が廃墟と化した日本であると妄想するおれとしてはな。

 

 

ソ・ラ・ノ・ヲ・ト 7(完全生産限定版) [Blu-ray]

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ソ・ラ・ノ・ヲ・ト オリジナル・サウンドトラック

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【作品情報】

‣2010年

‣監督: 神戸守

‣原作:Paradores

‣シリーズ構成・脚本:吉野弘幸

‣キャラクター原案:岸田メル

‣キャラクターデザイン:赤井俊文

美術監督:甲斐政俊

‣音楽:大島ミチル

‣アニメーション制作:A-1 Pictures

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